第25話 君へ

まとものに人と話せるようになったのは、数日後の事だった。


背中の痛みはだいぶ消えた。


心の痛みは消えないままで、酷くなる一方だった。


「おはよう」


私の担当医は、こうして毎日挨拶をしに来る。


だけど私はずっと無視をしていた。


この人が、誰かが悪いわけではないけれど、誰とも言葉を交わしたくなかった。


「だいぶ顔色が良くなったね。」


「知らない。」


口を開いたと思えば、こんな事ぐらいしか言えない。


「そろそろいいかな。これを君に。」


私の目の前に一通の手紙を差し出してきた。


そこには、


'藍へ'


と書かれている。


「何?」


「裏を見て。」


'瑠依より'


この名前を見た瞬間、私の中のもの、全てが止まった。


ただ動くのは涙だけ。


「事故が起きた公園のベンチの上に置いてあったらしい。どうしてかは分からないけれど。」


「どうして…あの、ベンチは、いつも一緒に座って話してた、大事な、場所で…」


涙は止まらない。


「自分から、来るななんて、言ったのに、どうして、どうしてそんな所に…」


「きっと直接渡すことが出来なかったんだよ。だけど、君がそこへ来ると信じていたんだよ。」


「そんなの、そんなの酷い。私はどんなに瑠依を待っていたか…」


「その答えは手紙にあるんじゃないかな。見てあげてよ。」


「え…」


そう言って担当医は病室から出ていった。



'答え'


知りたい。だけど怖い。


それでも読まなければ後悔してしまう。


何故かそう思った。

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