第3話 名前

「ごめんごめん、僕の名前は瑠依。瑠璃色の瑠に、依頼の依。僕は、外の世界を知らないから、カメラを持っている人に聞けば色々な物が見れると思ってね。」


「だからって、急に写真を撮っている人の真後ろから話しかけるのは変です。」


「変、よく言われるよ。君の名前は?僕が名乗ったんだから教えてくれるよね?」


なんて男だ。


特に名前を聞いたわけではなく、ただ礼儀ってものを教えてあげただけなのに。


でもまさか、私の好きな瑠璃色を知っているなんて。


瑠璃色を知っている人なんて滅多にいないのに。まあ、いいか。


「私は藍。青色の方の藍。」


「僕達は青で繋がってるみたいだね。」


「繋げなくていいです。」


「素直じゃないね。それじゃ友達いないでしょ?」


さっきから失礼な事しか言えないだろうか、そう突っ込みたくなるような発言ばかり。


「友達は割と多いので。」


「そう。僕とは逆だね。」


「そうですか。」


「ねぇ、友達になってくれない?」


「はい?」


思わず目をぱちくりさせてしまった。


「僕と友達になってよ、藍。」


「嫌だと言ったら?」


「藍はそんなに酷いことを言うのかい?」


思わず何と返したらいいか分からず黙り込んでしまった。


「僕がそこにいる間だけでいいよ。夜こうして空を眺めに来てもつまらないんだ。1人は。」


瑠依の指す方向には木が生い茂っている所から頭を覗かせている病院が。


「大きな病気にでも?」


デリカシーのない私はついつい聞いてしまった。関わろうとしたわけでないのに。


「そこ気になるの?友達になってくれるの?」


「期間限定なら。」


「ありがとう。大した病気ではないらしいけど、ここへは半年もいるかな。」


瑠依は馬鹿と断定してもいいぐらいの馬鹿かも知れない。


大した病気ではなかったら、半年も入院しないだろう。


それに、自分でもよく分かっていない病気だなんて。


そんなことは私には関係のない事だけれど。


「私はどうしたらいいの?」


「おぉ、乗り気だね。僕は多分何も無い限りこの時間にここへ来るから、その時の話し相手になってほしい。そのカメラを持って。」


「分かった。カメラいるの?」


「いるよ。1日1枚、何か写真を撮ってきて。僕は身体が弱いらしいから、いつも止められて、あまり外を見てきていないんだ。」


瑠依はさっきから自分の事を言っているはずなのに、まるで他人事のようだ。


「分かった。覚えている限り撮ってくる。」


「ありがとう、藍。」


「名前呼ぶのやめてもらえる?」


「何故?可愛い名前なのに。」


「…!」


よくも恥ずかしげも無く初対面の人の名前を呼べるものだ。


「藍も僕の名前呼んでみてよ。」


「…瑠依。」


渋々小さな声で、呟くように呼んでみた。


「ありがとう。あ、そろそろ。」


そう言って急に走り出した。


「また明日!おやすみ!」


「おやすみ…」


何とも自分勝手な人だ。


こういうタイプとあまり関わってこないようにしていたのに、何故か気になる。


初対面なのにニコニコして話しかけ、友達になってと言われたり。


すぐに人の名前を呼び捨てで呼んできたり。


だけど、最後に見せたキラキラした笑顔だけはいいかもしれない。


今日のような綺麗な星空みたいで。

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