六つも年が離れてるくせ、お姉ちゃんとお兄ちゃんの顔はそっくりだった。並んで歩けばすぐに兄妹だってわかるくらい、二人は似ている。


 切れ長で涼やかな瞳をした姉は男女ともに憧れのひとだった。そこにはわたしも含まれているし、お兄ちゃんとそっくりな顔のお姉ちゃんはきっと、男装したらすごくかっこよくなるんだろうなと思う。


 お姉ちゃんのような知的でクールなオーラはわたしにはないけど、それでも美人姉妹だねとよく二人でセットに扱われるのが嬉しかった。そうやって他人から話しかけられるのが苦手で、人を寄せ付けない雰囲気のお姉ちゃんに気兼ねなく甘えたりすり寄ったりすることができるのは妹のわたしの特権だと、再認識できる機会でもあったし。


 わたしにとってお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。いつだって。クールで知的でかっこよくて、綺麗で美人の憧れのお姉ちゃん。


「お姉ちゃん、夏祭り二人で行こうよ! ね? いいでしょ? いいでしょ?」

「あーはいはい」


 わたしのわがままにいつだって折れてくれる。その優しさや寛容さは赤の他人相手では発揮されないたぐいのものだとわたしは確信している。


 前夫の娘でも異父姉でもない、お姉ちゃんはわたしのお姉ちゃんだった。生まれたときらずっと。


 だけどお姉ちゃんにとってはそうでないということ、わたしはお姉ちゃんにとって新しいお父さんの子で異父妹であるということが感じ取れないほど、わたしは鈍感じゃない。


 近所では美人姉妹とちょっとした有名人であるところのわたしたちのために、母は姉妹で並んでいるのが映えるよう、対に見えるような衣装をたくさん用意している。浴衣も例に漏れず。


 こうやって対だのなんだのとセット扱いしてもらえることは、あたしたち二人が同じものを分かち合っているんだということを認めてもらえているようでやはり嬉しい。


 わたしは当然のように自分に似合う白地に紫陽花がたくさん描かれたほうを選ぶし、お姉ちゃんに似合う紺地のシンプルな朝顔柄のほうを残す。


「お姉ちゃん」


 振り返って声をかけると、祭りの人混みの真ん中でどこかぼんやりしていた姉の瞳が、わたしに向けられた。低い位置でまとめられた髪型と落ち着いた色の浴衣が、普段よりもいっそう姉を大人っぽく見せている。


 まるでお姉ちゃんを中心にして割けるように人々が左右に流れて、そこだけぽっかりと空間があいているような景色に、そっと団扇で口元を隠した。


 愁いを帯びた切れ長の瞳、呆けてかすかに開いたくちびる、赤提灯の明かりで夕闇に浮かび上がるうなじ。真夏の夜にふさわしすぎるくらい、やたらと艶っぽい。そう思っていたことが姉にまで伝わらないよう、蓋をする。


 そうやってしばらく黙っていたらまた視線が泳ぎだした姉を現実に引き戻すよう、「もう! お姉ちゃん!」と再度声をかけた。


 川岸へとつづく道は暗い。花火会場へと向かっている列はそんなに混んではおらず、歩いている人たちのあいだは広くゆとりがあった。そのせいか隣にいるお姉ちゃん以外の人たちの顔ははっきりとは見えない。それでも、気配だけで目の前を歩く男女のカップルがお互いの手を探りあって繋いだことはわかった。


「ねえ、今の見た?」


 あの人たち、手を繋いだよと姉にささやくために身を寄せる。とん、と軽く姉にぶつかると、その身体から姉の匂いとともに甘い香りが漂った。香水でもしてきたのかもしれないけれど、なんとなく、泣きたくなるような胸にくる香りだった。少しだけ高いところにある姉の顔を見上げると、こちらを見下ろす瞳と視線が交わった。


 こんなに近くにいるのに、と思う。ともすれば抱き寄せてキスができる恋人みたいな距離なのに、姉の瞳は涼やかで、なにも感じていないようだった。


 人に無遠慮に踏み込まれるのが嫌いな姉はきっとスキンシップも好きじゃないのだろうけど、それでも何度もこうやって近づくのは、お姉ちゃんが大好きって気持ちが七割と、わたしのこと大好きっていってよって気持ちが三割ある。


 他人にやすやすと晒さないその肌にふれるのを許してくれること、すぐ肩にもたれかかってもそのままにしてくれること、わたしのわがままを聞いてくれること。それでもまだ、わたしのことを心から好いてはくれていないこと。


 何度もトライしては同じことを思い知らされている。だけどいつかお姉ちゃんが根負けして、「莉々」ってわたしの名前を呼びながらとびきりの笑顔を見せてくれるような明るい未来を信じたいから、また何度だって繰り返していく。そんなわたしたちふたりの関係は、果たして今後良くなっていくだろうか。


 立ち止まって花火を見上げている姉に、またこりもせずそっと寄り添ってみる。こんなに近づいてもやはりお姉ちゃんはわたしを見ていない。パッと花火がまた弾けた。目を細めながら夜空を見つめているシャープな横顔が、一瞬だけたくさんの色彩に染まる。


 袖口をぎゅっと握ってみようか。わたしの気持ちが伝わるように。そうやってふれた手が、無惨にも振り払われないことを願って。

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a half of sister 祈岡青 @butter_knife4

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