第6話 怪物
とにかく黒い、というのが俺の第一印象だった。『それ』は人の2倍ほども大きく、見たこともない形をしていた。卵のような形の胴体のあちこちから蜘蛛のような脚が突き出していて、上部には狼のような頭がついている。そして、その全てが真っ黒だ。テレビや革ジャンだったら、真っ黒でも光を反射して白く光るが、『それ』は全ての光を吸い込むような黒さだ。
「逃げろ!北の避難所に急げ!」
警官が避難誘導をしている。『それ』は動きは遅いが、逃げる人を追いかけているように見えた。目が見えていないのか、通り道に建物があっても気にせずにぶつかりながら進んでいく。しかし、壊れるのは建物の方だ。
必死に逃げる人たちと、それを追いかける黒い影のようなもの。その間に立ちはだかる人がいた。まち子ちゃんだ。その様子を立ち止まって見ていると、後ろから手を掴まれた。
「あんた、何してんの!?死にたいの!」
振り向くと、そこにいたのはあの女店員−和田直子だった。仕事の時間が終わったのか、着ている服が洋服に変わっている。
「のんきに見てないで、避難するよ!あれはまち子さんに任せて。」
そういうと和田直子は俺の腕を引っ張って歩き出す。俺はそれに合わせるように足を動かした。
「あれは何なんだ?まち子ちゃんは大丈夫なのか。」
現実感が無いせいか、緩く話しかける俺に対して、和田直子は険しい表情をしていた。
「とにかく今は逃げないと殺されるよ。知りたかったらまち子さんにでも聞いて。私から話せることは・・・無いから。」
知らないというよりも、お前には話したくない、という意味だと俺は思った。異世界人には言いたくないと。この世界には異世界をよく思っていないらしい。それがあの黒いものと関係があるとしたら・・・。
後ろからは、木造の家が壊れる音や、何本もの足がずりずりと前に進んでいる音が聞こえてくる。俺は後ろを振り向かないように、避難所に向かって走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます