それでも、まだまだ気を抜くことは許されません。

二人は列車から急いで遠ざかります。

そこは幸いにも、待合室の真ん前ではありませんでした。

なぜなら、後半の車両は全て荷物を運ぶ用のもので、事前に積んでおく必要があるからです。人が乗降できるのは前半車両しかないので、待合室はずっと先にあるのでした。


これは好都合。なぜなら、二人の姿が他の人に見つからずに済んだからです。

列車から子供が出てきたなんて知られたら、みんなビックリして騒ぎになってしまうでしょう。そんなのは御免です。


列車が動き始めました。

その時には既に、二人は列車のそばに生えていた木の後ろに隠れていました。

貨物車の末端には見張りがいます。副車掌とも言うべきでしょうか。車両の一番前には車掌と運転手がいるのですが、一番後ろにも誰かいるのです。見つからないに越したことはないでしょう。


やがてその列車が完全に見えなくなった頃、ジャックはやっとため停滞期を全て吐き終えました。何年文もの寿命が縮んだのではないかと、ぼんやり思います。


「ねぇ、ジャック。これからどうするの?」

「うん?そうだな、どうし……」


ジャックはチミィの口を押さえて屈ませました。

すぐ近くを、コワモテの男が過ぎて行きます。諦めていなかったのです!!


「あー、どこだよぅ。出て来てくれぇ。何でもしてやるからさぁ…。」

そいつは、幾分疲れているように見えました。声に力がこもっていません。


「俺のためと思ってよぉ。出て来てくれ。首がかかってんだ。何でもするから……。」


(そうか、僕達はもう遠くに逃げたと思ってるんだな。)

ジャックはそう思いました。だからこんなに諦め半分なのでしょう。


けれど、この状況でも困ったことには変わりありません。きっと改札口にも監視役がいるでしょうから、ノコノコ歩いていけばすぐに捕まって、今度こそは、八つ裂きにされてしまうかもしれません。


あの時の声が思い返されます。

「…いいか、こいつらに傷つけるんじゃねぇぞ。生きたまま高値で売り飛ばしてやるんだよぉ!……なに、縄は必要ない。今からここに停車するあの貨物車と同じ形のを用意しろ。テキトーにあっこから盗み出してくるんだ。…そうだ。………こうした方がはるかに見つかりにくいからな。ふははは…。」


そう言って、彼らは二人を木箱に詰め込むと、本来の車と入れ替えてしまったのです。元々は、小麦が積まれていたようなのですが……。


でも、二人は今こうしてここにいます。ここから逃げることができれば、もう敵も追うことはできないでしょう。今、今が正念場!


「……ちぇ、やっぱりいねぇんだなぁ。」

またあの男が帰って来ました。

二人はできる限り頭を下げます。心なしか、そいつの顔は青ざめているようでした。


「…ジャック、どうするの?」

「今できるのは一つしかないよ。このフェンスをよじ登って向こう側に降りるんだ。」


最初は、他の人々に混じって、切符を受け取る人にバレないように出て行こうと計画していましたが、見張られているのならこの案は使えません。


なので、後ろに立っているフェンスを使う他ないでしょう。


「か、カメラとかないかしら。」

「うーん。何とも言えないけど、ほら、フード被ってたらなかなか分かんないと思うよ。それに……、それに、ほっ、ほらっ、子供二人くらい、見逃してくれるかも。」

「そう、かな。」

「それよりっ、警戒すべきなのは、フェンスに登った時に、奴らに見つからないことだ。」


ジャックはそれを一番恐れていました。万が一そんなことになったら、全ておしまいです。


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