やがて、周りがザワザワし始めました。

どうしたのかと思えば、前方に多くの人が乗り降りしているのが見えました。

遠目で大喧嘩の様子を観察していた人達が、ようやく状態が収まってきたので、行動を再開したのでしょう。あのうちの一人が警察に連絡を入れてくれたのかもしれません。


「チミィ、もう安心さ。僕達も移動しよう。」

「そうね。」

「って、しまった!この人達が来てるってことは、もうすぐ出発するってことじゃないか!!」


ジャックの言葉が正解だというふうに、プゥーー、と発車の合図がして、ピィィィピッ!と車掌の高い笛の音もしました。


「急がなきゃ轢かれちゃう!」

「待って、チミィ!!迂闊に行っちゃダメだ!」

「でも!」

「線路の上に来た時に発車したら確実に死んじゃうだろ?でも、ここで縮こまってたら、もしかしたら大丈夫かもしれない!」

「そ、そっかぁ。」


チミィはやっと理解して頷きました。

しかし、その合図は、すぐ隣の、二人が脱出した列車のものだったのです。まぁ、今隠れている列車より、早くに来たのですから、早くに出て行くのも当然なのですが。


ともかく、ガコン、ガコン、と車輪を鉄の棒が回して走り去っていったのは、別の貨物列車でした。


ジャックはそれを見た時、木箱の貨物車の一部に穴が空いているのを見て、思わず笑いました。あそこから二人は出てきたのです。


「何がおかしいの?」

「え?ああ、もう行っちゃったけど、ここからあの列車を見た時に、僕らが出てきた穴が見えたもんだから、ついね。」

「あー、頑張ったわよねぇ。」


二人は、とうとう助かったぞ、と喜ぶあまり、進むことをやめそうになりましたが、それではいけません。


ジャックは、「じゃ、まだ時間があるようだから、あっちへ出よう。」と言ってほふく前進を始めました。


そして、二人が砂利が腕に突き刺さるのも気にしないで、今にでも出ようとしたその時、ようやく出発を知らせる笛が鳴り始めました。


「よしっ!間に合ったぞ!!」

「うわぁ、明るい!気持ちいい!」


二人は、完全に人攫いから逃げ切れたことを喜びました。

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