あ
ジャックは、自分も泣き出しそうなのを必死にこらえて、チミィを抱きしめ続けました。
「いっ。」
「あ、ごめん。」
ですが、あんまり力を入れすぎて、チミィの背中に爪を立ててしまったようです。ジャックは済まなそうに謝りました。
「うん、いいの。でも……」
チミィがこう言いかけた刹那、「こら!二人共手を挙げろ!!!」という怒鳴り声があたりいっぱいに響き渡りました。
足しか見えませんでしたが、どうやら警官のようです。銃を構えて警告しているのでしょう。
暴れまわっていた二人は大きな舌打ちをして、おとなしく手を挙げました。しかし、ジャックとチミィの目には、とんでもないものが映っていたのです。
(危ないよ!!)
ジャックが心の中で叫んだのもつかの間、後ろから走ってきたもう一人の男が飛びかかり、警官を倒してしまいました。
その倒れた警官に向けられたそれは、どうやら角材のようです。四角に切り取られた長くて硬い木で、警官の頭をぶったのです!!
「ふんっ。」
それからその男は、警官から拳銃をふんだくりました。
さあ大変です!相手は銃を手に入れてしまいました。が。
「手を挙げるんだ!さもなくば撃つぞ!!これは脅しではない!!」
また数人の警官が押し寄せてきました。
これではもう逃げられません。隠れる場所もないのですから。
それで、その男は渋々拳銃から手を離しました。
カシャン、という音が聞こえます。
その直後、警官達はフッと素早く三人に駆け寄って、後ろで手を組ませて手錠をかけてしまいました。その頃には救急車もサイレンを鳴らしてやってきて、そこから降りてきた白い服の人達が、怪我人を担架に乗せてあたふたと行動し始めます。時折マスクを手で外して、何か早口に喋っていました。両手までちゃんと薄く手袋で覆われていて、そこらへんは徹底しているようです。おびただしい血を後頭部から出して、服まで赤黒く染まっている人も運ばれていきましたが、大丈夫でしょうか。担架もあんなに汚れて……。
「ジ、ジャック!」
「ん?」
チミィに呼ばれて我に返ったジャックは、驚いて目を丸くしました。
奴らが近くをさまよっています!!ザク、ザク、と小さい音が耳に届きました。
「どうしよう!もう見つかっちゃう!」
「だ、大丈夫さ。すぐそこには警官がいるんだ。きっとすぐに止めてくれるよ。」
どっちみち、尋問すればあの仲間達も捕まってしまうはずなのです。それなのに、どうしてこんなにも二人にこだわっているのでしょうか。その理由は、ジャックとチミィにもだいたい分かる気もしましたが、今は言葉にしたくもありません。
「ねぇ、本当に大丈夫かしら。ねぇ。」
「うん、きっとだよ。きっと……」
その時、ジャックは気がつきました。
すぐ上に突き出ているところがたくさんありますが、そこに掴まって、へばりつくように体を寄せれば、うまく隠れられるのではないでしょうか。
もう考えている暇はありません。ジャックはチミィに「僕の真似をしてよ。」と言って、両手で飛び出ている部品に手を引っ掛け、体を持ち上げました。
できるかどうか不安だったのですが、ちょうどいい具合に、足をはめるだけのスペースもあったので、手足に力を込めると、なんとかなりました。
ふと横を見ると、チミィにもできたようです。手は力が入って震え、悲鳴をあげているようでしたが、ここは我慢です。
「デコボコって便利なものね。」
「だろう。こうしていればなかなか見つからないはずだよ。」
それはジャックの言う通りでした。
実は、二人は真っ黒のフードコートをすっぽり着ていたのです。ですから、下を覗いてみても、黒い服はちらりと見えますが、まさか人だとは思わないでしょう。
「なんとかこれでやり過ごそうね。」
「うん。」
二人は頷き合って、その体制のまま時が過ぎていくのを待っていました。
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