第7話
教科書の間から栞が落ちてきて、僕の足を貫通した。
僕は痛みによって空に飛んでいって、月に挨拶した。
「こんにちは」
「こんにちは」
「ごきげんいかが」
「まずまずですな」
「今日のご飯はなんだったの」
「ウサギが搗いてた餅のカス」
「えっ、それだけ?」
「ここのウサギって案外ケチだから」
月はガハハと笑った。
「ところでその怪我はどうしたの」
「もともとだよ」
「嘘だあ」
「うん、もうずーっと前に惑星に当たってこんな凹んだんだ」
「痛そうだね。止血はしてるの?」
「古傷だから」
「ワニにかじられたりしない?」
「なんとかね」
月は目を細める。
「時々、あの天の川から襲ってきそうなことはあるけど、ここまでは来れないものなのさ」
「寂しいね」
「そりゃあ寂しいよ。もっともだ」
月は凛として叫んだ。
「でもここにずっといなくちゃいけないの?」
「そういう規則なのだ」
「破っちゃいなよ」
「破ったら殺されるよ」
「え、そうなの」
「そうだよ。そうしたらウサギのすみかも無くなって可哀想だろう」
「可哀想だ」
「だから規則は守らねばならないのだ」
「その規則は誰が作ったの」
「イニシエから伝わっているのだ」
「そいじゃ監視役の惑星もいなさそうだし、別に良いじゃない」
そうもいかないのだ。破ると殺されるから」
「殺された人を見たことあるの?」
「ない。なぜならみんな規則を破らないから」
「お話にならないね」
僕はそういって手招きした。
「それ、君たちもさぞ窮屈だろう。おいで」
二匹のウサギは白い毛に赤い目をしていて、しばらくお互いを見つめ合っていたが、やがて僕の方へ体の向きを変えて飛び出してきた。
が、小柄の方のウサギはちょっと考えて、杵と臼も持って出てきた。
「おや、まあ。ウサギ達も連れて行くつもりなのかね」
「そうだよ。だからもう安心して破って大丈夫」
「それではあんまり寂しくて死んでしまうよ」
「殺されるのとどっちが先だかね」
僕は面白そうに言って、ウサギの手を引き、その場を後にした。
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