第2話 翌朝
翌朝
日当たりの悪い部屋に朝が来る。
少し睡眠不足であった。
お湯を沸かしブラックコーヒーを飲むが少し熱かった。
朝食も軽めに取り。朝の支度をする。
鏡を見るとやけに疲れた表情であった。
しかし、調査対象である美詠と仲良くなれたのは好都合であった。
そもそもこの時代にデータ化された人などいるのだろうか?
あまりに平和な日常がそれを忘れさせる。
私はコーヒーをもう一杯飲み部屋を出る。
朝の教室で美詠に話かける。
「おはよう」
「…………」
美詠はこちらを向き眠そうにしている。
私と同様に少しなれなれしかったかな。
どうしたものかと考えていると
「ごめん、ぼーっとしていた」
「大丈夫?」
「少し寝不足で……」
日射しが差し込む教室で美詠は確かに眠そうにしていた。
「私も寝不足なんだよ」
「同じだね」
和やかな空気が辺りを包む平和とはこの事だろう。
私の未来の世界は無機質で誰もが死んだ魚の様な目をしていた。
人類のデータ化は確かに世界の終わりを感じさせるものであった。
こんな何気ない日常は存在しなかった。
変えなければ……終わりを迎え世界をこんなありふれた平和な世界を失わせる訳にはいかないそんな事を思いながら話を続ける。
「私の家庭は母子家庭だから家事をしなければいけないのよ。お母さんはバリバリキャリアウーマンなの」
仕事ができる母親が美詠にとって自慢らしい。
「何の仕事をされているの?」
「ゲーム会社でプロジェクトマネージャーをしているわ、あの大人気ゲーム『プロジェクト・コマンド』を作ったのもお母さんなの。今は新しいゲームを作っているみたいだけどね」
ゲーム会社か……。
『プロジェクト・コマンド』は『オメガクライシス』の初期感染の疑いがもたれているゲームの一つ、やはり美詠が『八番目の魔女』と呼ばれる手掛かりでありそうである。
そもそも『オメガクライシス』は携帯のメールアドレス帳を媒体にして感染して厄介なことに感染した携帯から『闇の花びら』と呼ばれるモノが携帯から吹き出し 空気感染して世界がデータ化してしまったのである。
初期に何故、多くの携帯に感染したのかは『プロジェクト・コマンド』が怪しいとされ、さらにその原因が『八番目の魔女』と呼ばれる美詠である。
美詠の母親が『プロジェクト・コマンド』に関係しているなら点と点が線で繋がった事になる。
「どうしたの?深刻な顔をして」
「イヤ、なんでもない。少し寝不足で」
「そう、元気出してね」
美詠は微笑んでくれた。
やはり美詠への感染が世界の終わりの引きがねとなっている様だ、どうすれば美読への感染を防げるのだろう?それ以上にこの笑顔を守りたかった。
それから放課後、美詠と少し話そうとしてみた。
何か公私混同してした。
私は任務でこの過去の世界に来ているはずなのに、美詠の魅力に魅かれていた。
そして、簡単な雑談がはじまる。
話からして美詠はあまり体が強く無いらしい。
それでも仕事で忙しい母親の分まで家事に追われているようだ。
「あ、そろそろ、帰らないと」
「うん、また、明日……」
美詠は時計を見て呟くと帰って行った。
どうやら幸せな時間は終わりのようだ。
胸がチクチクする。この気持ちが寂しい?
そして教室で一人になると立ち入り禁止の屋上に行き月を探してみる。曇り空に月など出ている訳もなく少し心が痛んだ。
私はデータの塊なのに、この気持ちは何?
そう、本で読んだ事のある寂しいと言う気持ちだろう。
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