P.A~プロジェクト・エンジェル

霜花 桔梗

第1話 魔女と呼ばれた 普通の女子高生?


 世界の終わりに

 あなたは誰と過ごしますか?

 これは終わりの始まりの物語。

 今から30年後に世界はオメガクライシスと言うウイルスによって世界の生物のほとんどはデータ化してしまい世界は仮想空間と同じになっていた。

 そして、現在の世界では八番目の感染者が出ようとしていた。

 彼女を境に感染者は爆発的に増え。そう終わりの始まりが起きようとしていた。彼女は『八番目の魔女』と呼ばれていた。

 彼女の名前は『川崎 美詠』私の任務は美詠のデータを阻止する事である。

 また、美詠がデータ化して爆発的に感染者が増えたのかは不明である。


 私は大学の研究機関で助手としてアルバイトをしていた。

 仕事は単純な雑用なので高校生の私でもつつがなくこなしていると。ある日の事である研究機関長が私に重要な任務をしないかと声をかけられた。

 私の所属している研究機関が次元データ転送技術により私は三十年前に行かないかと持ち掛けられた。

 私は一晩考えさせて下さいと頼んだ。

 研究機関からの帰り道にこの大学の名物の銀杏並木を通り抜けていた。秋には落ち葉が舞下りて近所の子供達の絶好の遊び場になる。青くしげる銀杏もデータの塊で世界は終わりを迎えようしていた。

 電車を乗り継ぎ自宅のマンションに着く。もう一時間かかっても良いから、もう少し大きめの間取のマンションにして欲しかったと少し親を恨んでいた。


「ただいま」

「お帰り」

 

 私は親との挨拶もそこそこに自室に籠ると趣味のCDなる媒体でビートルズの音楽を聴く

 この時代CDを扱う店は少なくまた高価なので何枚かあるCDは一財産である。

 愛とか平和を歌った曲はこの終わりを迎えた世界には皮肉でしかなかった。

 データ化された人類は戦争や内乱の悲劇をさらに好む様になり生物として終焉は近いとされていた。

 音楽を聴きながらベッドに横になり天井に向けて手を伸ばす。

 私もまた世界平和に興味がある訳でも無く純粋に仕事として受ける事にした。

 翌日私は大学の研究室を訪れていた皮肉にも世界のデータ化は新たな技術革新をもたらし過去の世界に行く事が出来るようになっていた。そして、30年前のスマホと呼ばれる端末で大流行している『プロジェクト・コマンド』なるゲームが世界の データ化の発信もとであるらしい。

 MRIの様な機械に固定されると教授のGOサインだけが記憶に残っていた。

 そして、気がつくとそこは30年前の世界であった。

 手にしていたメモには住まいと転校する高校の住所があった。

 諸手続きは未来の世界からすでに済んでいた。

 そして、私は『私立櫻木高校』美詠のクラスに転校生として入る事となった。

 朝のショートホームルームの時間に私は紹介された。


「『立花 誠』です。よろしくお願いします」


少し、初老で背が低い男性の担任は美詠の隣に座るように言う。

 

「よろしくね」

「はい」


髪は長くごくの普通女子高生であった。


『八番目の魔女』?少し、想像と違うけど私の任務は始まったばかりだ。


 私が椅子に座ると美詠はこちらを向き。目と目が合う、その瞳は綺麗で不思議な気分にさせてくれた。


「あぁの?私と友達になってくれなせんか?」

「えぇ」


驚いた見た目に似合わず積極的だ。

私が驚いていると美詠は恥ずかしくそう言った。


「ごめんなさい、突然に……自分でもよく分からないけど誠さんとは縁を感じるの……」

 縁か確かに美詠に会う為に未来から来たのだから仲良くなる事は好都合な訳だし。

 でも、少し迷いもあった。美詠は『八番目の魔女』何が正しく何が間違っているのかも調査対象だからだ。

 私は笑顔で答えるが心の中では複雑な気分であったが美詠の笑顔に私は少し安心した。

 それから数日後の授業中に私は美詠の顔を不意に見るとその不思議な瞳に見入っていた。

 それは透き通った泉の様であった。


「何を見ているの?」


こちらに気づき美詠は小声で訊ねて来る。

しまった、つい見入ってしまった。

私は少し照れくさそうに目をそらし。


「美詠さんの瞳が綺麗で不思議な気持ちにさせてくれたから」


 と、答える。自分で考えても少し恥ずかしい答え方だった。

 そう、その姿はとても可愛く私は美詠が普通の女の子である事を再認識した。

 それは心理学の本で言う追憶の想いに似ていた。

 それが恋なのかは自分でも分からないでいた。

 そして、この胸騒ぎは何だろう?

 教室の中は相変わらずカツカツとチョークの音が響いていた。

 世界史の授業は淡々と続いていた。

 人類が争いを好み悲劇を繰り返してきた事を暗記するこの時代の平和さに少し戸惑いを感じていた。


 この任務は予想以上に辛いものとなろうとしていた。

 そう、私はデータの塊で生身でなく恋など出来る訳もなかった。


 私は無機質な自宅の部屋でベッドに横になりながらCDというレトロな規格で音楽を聴いていた。CDは唯一の娯楽として教授に頼んどいてもらった物だった。聴いていたのはビートルズ。しかし、このバンドは何時の時代でもそれなりに人気があるらしい。

 世界の終わった後の自分が聴くと何とも言えない気持ちになる。

データ化された世界では愛とか平和なんて言葉は無いと思うかもしれないが、人の業なのかデータ化された世界ですら争いが絶えない。

 時々、思う私は本当に世界を救いに来たのだろうかと。

そんな思いが頭の中をめぐっていると、私は美詠の透き通った瞳を思い出す。

 確かにデータ化された世界には存在しない瞳の美しさだ。


『八番目の魔女か……』 


 彼女がオメガクライシスに感染してデータ化するとあの瞳も失われるのかな……。

 少し、今日の美読との会話を思い出す。


「転校生って事は引っ越して来たのだよね」

「えぇ、遠いところから」

「遠い街か……今度、引っ越しする時は私も連れていって」

「冗談でも笑えないな」

「え?田舎なの?」

「田舎というか、何も無い所だよ」


 データ化された世界の個体は確かに一見生物と変わりないが生も死も有る不思議な空間である。しかし、コンピューター上の仮想空間と同じで生命は存在しないのである意味死の世界である。

私が返事に困っていると。


「元の街に彼女でもいるの?」

「いないよ」

「ホント?」

「いないさ、私はそんな平和な世界から来たのではないからね」

「ごめんなさい」


 話しはここで途切れてしまった。私は逃げる様にその場を立ち去った。

 その後、私は立ち入り禁止の屋上で空の青さは未来と同じなんだなと流れ行く雲と共に空を眺めていた。

 屋上の柵にトンボが一匹まっていた。捕まえようするがとどかない。大した問題でないと自分に言い聞かせて。また、空を眺めていると。


「ここに居たのね」


 後ろから美読に声をかけられる。うーん、当たり前か話の途中で逃げ出したのだから。


 「少し心配したよ」


 笑顔で私に話しかける美詠に胸が痛んだ、何だろうこの感情は?私は戸惑いを隠せないでいた。

 データ化した生物は著しく異性に関心を持たなくなるのが一般的なことであり、この気持ちは何かと自分に問続けたが、きっとこれが恋愛感情と呼ばれるものなのだろう。


「綺麗な青空だね」

「うぅん」


こんな時はどんな話をしたら良いのだろう。

私は混乱する中つい出た一言が……。


『つ、月が綺麗ですね』


「え?」


流石に丁度よく月など出ているわけもなく……。

彼女を困らせてしまった。


――――

 無機質な部屋にかかる音楽が止まっている。

 どうやら、少し寝ていたらしい。

 見慣れない天井は今日の出来事がただの夢だったのかと思わせる物であった。

 少し夜風当たろう、私はベランダに出てみる。少し月が見えたなら思いつつ、外に出るがもちろん、そう都合よく月は出ていなかった。

 都会の濁った空に星が幾つか見えた。夜風を感じながら想いにふける。せめて今だけは……。

 しかし、『月が綺麗ですね』は今考えても恥ずかしいかな。

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