第8話 授業以前な劣等感。


――翌朝。


 今日は本町と待ち合わせをしていない、での登校。

そうはいっても元々、双方そうほうに会話なんてほとんどなかったのであまり変わった感じはしない。デフォルトとしてスマホが暇つぶしの相手であったからだ。


その設定は本日も変更されることなく、ホームでの待ち時間、目的の駅に着くまでの隙間時間すきまじかんは決まってスマホに費やされる。

たまにふいと周りの様子を確認したりするのだが、今や車内にいる大方おおかたの人は俺と同じ体勢で、器用きように指をすべらせながらタッチパネルの操作をしている。

 なにしてるのかまでは分かりかねるところだが、他人の画面をのぞき込んでまで知りたいとも思わないので、「ニュースでも見てんじゃないのか」程度の憶測おくそくで済ませている。


ちなみに俺はパズドラ以外では『Temple run』をインストールしている。文字通り、遺跡いせきの中をただひたすら走り回るゲームだ。「いったい何が面白いのか」という意見もあるかもしれない。単純作業の繰り返しには違いないが、これがなかなか面白い。しかしながら片手でやるのには少々むずかしい。

あまり良いスコアも期待できないので基本的に通学中はやらないことにしている。


最寄もよりの駅に電車が到着するなり、iPhoneをポケットにしまいこんで高校までの道のりをテクテク歩く、略して『テクる』。余談だが『歩きスマホ』はしない。これも俺が決めている『Temple run』的ルールの一つだ。

テクりにもスマホにも半端な集中力しか割けないのではそれこそ時間の無駄だろう。あとはまぁ、危険だし。一応ね。



よいっしょ――。


教室に入り、机に荷物を置いたのちに席に座る。通学時間が徒歩含めて片道約1時間なんてのは初めての経験で、しかも通勤つうきんラッシュにまれるもんだから来るだけでも体力を消費する。中学時代は家から徒歩20分圏内けんないに学校があったので何を気にする必要もなかったし、むしろ『電車通学』がちょっぴり大人に感じられて、なんて思っていた程だ。今すぐに撤回てっかいしよう、『生き地獄』だ。日々進んで地獄へ体当たりをする企業戦士の精神に敬礼。


「おはようクソ部長ー」


「おっす黒川、おはよう」


「教科書のお金持ってきたー?」

「明日から授業とか、なんか嫌だよなぁー」


「まぁ、授業全くなくて暇を持て余すのもアレだけどな」


「確かにね笑笑」


 黒川裕貴くろかわゆうき

1stグループ(最初のメンバー)のひとり。

今のとこ一番接しやすいのは黒川だ。『好青年』がすごくマッチする、いかにも人のよさそうなこの少年は、中学時代、陸上部に所属していた。

勝手な想像をするに、彼はきっと『優等生タイプ』に違いない。

同中にもこういうやつは何人かいたな。深い仲ではなかったが。


俺との軽い会話を終えると、黒川はまた友達のところへ。

幅広はばひろくいろんな人と仲良くなれるそのスキルを俺にも分けてくれと言いたい。


こうして『』となった俺は、「よぉ」・「おはよう」と自分の机の周りを行くクラスメイト達に挨拶あいさつこそすれ、それ以降会話に発展させることまではできない。


 次第しだいにやることもなくなり、時間つぶしの『iPhone』に逃げようと、おもむろに右ポケットから取り出してイジり始める。それでも周囲の奴から、「あいつは話し相手がいなくてスマホをいじってる」とは思われたくないという意地があったので、左手をポケットに突っ込み、クールをことに。こんな感じで常に人目ひとめを気にしているもんだから、肝心かんじんの右指はホーム画面を行ったりきたりのスワイプだけ。

間違いなく時間の浪費ろうひである。

「矛盾がはなはだしい」とは言ってくれるな。百も承知だ。――その時。


「ねぇ」

「ん? あぁ、水林か」

「あのさ、近藤って中三の時、山海さんかいセミナー通ってたりした?」

「あ、うん。中一からずっとだよ」

「やっぱりかぁ。講習の時に見かけたことあったからさ、もしかしてーとか思ってたんだけど、そっかそうだったか」

「あ、待って。言われてみれば俺もなんとなーく心当たりがあるような……講習クラス一緒だったっけか」

「そう。安藤あんどうの古文対策の授業でな笑笑」

「あのクラスか、安藤な笑 あいつ一人でボケて爆笑ばくしょうすんのマジでやめてほしかったわw」



 俺自身もぼんやりとしか覚えていなかったが、

そういや、水林こと『水林遼みずばやし』は塾が同じだった。通常授業の校舎こうしゃは違ったが、講習時の合同授業ごうどうじゅぎょうで何度か顔を合わせていたのが記憶の片隅かつたすみにあった、だからなんか見たことあるような、『デジャヴ』を感じていたわけだ。まぁ実際のとこ会ってるから、厳密には『デジャヴ』とは言えないが。

 ついでにいえば、彼は真面目でかつノリも良いの人間。



俺にはを持っている輩が、ちと多すぎやしないだろうか……?いまのとこ『運』を除けば優れた面など一つもないんだが。


水林と塾の話題で盛り上がっていると、今日こんにちも元気に高瀬が登場。


「はーい! みんなおはよう! まずきょうはー、教科書!」

「これをね、えー、皆さんに買いに行ってもらいたいなと思います」

「お金は各々持ってきてると思うので、さっそくえーっと、二棟にとう『会議室』に行って買ってきてくださーい」


「近藤今から行くでしょ?」

「あぁ、金持ってきてるし」

「んじゃ一緒にいこーぜ」

「いいよ、いこいこ」


席を立って水林と『会議室』へ向かおうとした時、


「あ!! やっべーー! 俺やったわ。 金忘れたんだけどwww」



真壁が少しニヤつきながらそんなことを言っているのが耳に入った。

おそらくで話を聞いていなかったタイプ。

『天然』で『忘れん坊』な要素もクラスでには非常に有用ゆうようなツールだ。



おいちょっと待て、周辺しゅうへんみんな『個性的』すぎだろう。

いよいよもって俺のってなんなんだよ。ってなんだよ。


『え〇り』? 『ピ〇子』?


うっせぇよ。


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