第6話 新歓――よりも前のガチな日常


 新入生歓迎会当日。

別の視点から見ると、高校生二日目。


本日もむろん遅刻はしない。

そして共に学校へ向かうのは、この男。本村翔次。


心持こころもちは昨日と全くもって異なるものだが、登校風景はといえば、おおむねおんなじ。

朝の挨拶あいさつのやり取りから、他愛たあいない質問。んでもって教室前での「じゃあな」。

「お前はほんとうに本町と友人関係にあるのか?」 

なんて言われかねないくらいにすごく微妙びみょうな距離感。これぞ同盟関係。


前日よかいくぶんかは過ごしやすくなった教室で、

朝のホームルームが始まるまでの短い間を友達づくりに費やす。

『友達づくり』とはいうものの、実のところ最優先事項さいゆうせんじこうは、すでに出来た友達との親睦しんぼくを深めること。これに尽きる。


「よぉクソ部長」

「お、おはよう」


そこまで仲の深くない人間から話しかけられると、いまだに少しどもってしまう。

やっぱし、案外俺って大した人間じゃあねぇんだなぁ。

『クソ部長』と声をかけてくれた優しい奴の名は赤城陸あかぎりく

こやつも性格は違えど、種別的にはと同じ『リア充科』に属するホモ・サピエンスだ。制服を真壁以上に着崩しているので俺界隈かいわいでは有名人のひとり。さすがに学ランの袖をYシャツと同じ要領ようりょうでまくり上げているのは俺的にいただけない。


「――今日、新歓だよな」

「そうそう。あれって結局何やるイベントなの? ただの歓迎式みたいな感じ?」

「深くは知らねぇけど、でもま、たぶんなんかしら面白いことしてくれるイベントだべ」

「おかたい感じでさえなけりゃ良いなぁ~」


二人で軽くくっちゃべっていると、続々と初日の輪メンバーがやってくる。

まさに今登校してきた感じのやつもいれば、他グループと話してからこっちにやってきた者もいる。しばらくして、昨日と同じ輪が変わらない位置に出来上がった。


赤城と真壁から、山村やまむら藤崎ふじさき水林みずばやし黒川くろかわ

はやくも初めましてじゃないメンツのかたまりだ。集まったところでおのずからガンガン話をする奴はまだいないが。真壁も話を振られれば「ウェーイ」って感じのノリになるだけであって、自発的じはつてきにグイグイせめてくることはしなかった。


 さっそく話題に困った俺たちはこぞって今日のイベントに関しての話を。そしてそれもネタが尽きたとみるや、『クソ部長』への無茶ぶりにシフト。


「クソ部長、なんかおもしろいことやんべ?」

「アレじゃね? しかなくね?」

「いやアレじゃねぇって。だよな? クソ部長」


「お、おう。それだよそれ、アレじゃねぇよ」


「え? それって何だっけ?」

「つかアレもなんだか忘れちまったよー、クソ部長説明頼むわー」



ざつい。いくらなんでも雑すぎる。

全ての処理を俺頼みにして好き放題に場を荒らしやがって。

しかもこのタイプの振りは中学でもされたことがない、したがってそれに当てはまるようなネタの引き出しもない。


かといってここでだんまりを決め込むのも面白くない、一か八かの回答だ。


「へ? おま、アレってのは――、アレだよ、え〇りかずきだ」

「あと、それは泉ピ〇子な」


 我ながら、朝っぱらからずいぶんと謎な解をみちびき出したものだ。

この答えが俺を苦しめることになるというのも言わずもがな気づいていた、だけれどもそれ以外になんにも思い浮かばなかったのだから仕方ない。腹をくくれ。


こんなことを言ったもんだから、帰ってくる答えはもちろん――。


「ピ〇子? え〇り? ちょ、モノマネやんべ?」

「なに一人で渡鬼わたおに再現? しぶくねww」

「いいじゃんいいじゃん、やれよ」


墓穴ぼけつを掘りに彫りまくって、規模的にそれはもう『鉱山』じゃねぇのかってくらいの深度だが、まぁまだ想定内。


渡鬼は一度たりとも見たことないし、ましてピ〇子の真似なんてするわけがない。

ただ、別だ。過去にバラエティ番組で、芸人のホリが『絶対に言わないシリーズ』なるモノマネをやってたのを見たことがある。それをそっくりそのままパクろう、もう何年も前の事だから覚えてるやつもいないだろ。


「じゃ、え〇りやるわ」

「えー、え〇りかずきが、絶対に言わない言葉モノマネ」


「はゃく風呂はいれよぉ~、クソババァ」


半分キョトーン、半分がクスクス

悪かねぇ反応。これ案外使えんな。


「はーい、みんな体育館移動して―! これから新歓だよー! 列は名前順だよー!!」



朝を締めくくる合図の号令。 

今朝もまた、理想の『青春』への道のりを一歩




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