第5話 一日の晩。



 今日から始まった、俺の新たなスクールライフ。


初日が勝負ということもあり、俺としてはなかなか仕掛けたつもりだ。

元来コミュニケーション能力の高くない時分じぶんであることを考えれば、

滑ったとはいえどあのボケを人前で、

しかも初めて出会った面々の前で出来ただけ成長を感じる。

「実際のところは無意識だからノーカンな」なんて酷なことは言わないでくれ、俺はご都合主義に生きる人間。粗さがしをされるといささか困る。


 今は自宅にて反省会、テレビからやたら耳に残るニュース番組のオープニング、「ゼーロー」が聞こえてくる。あぁ、23:00か。


とりあえず、まずは今日の戦果せんかからだが、

結果から言わせてもらうと、

最初のミスを利用した作戦でなんとか持ち直すことができたと

俺個人的には思っているので、なんというか、及第点きゅうだいてんってことにしておこう。時には妥協も重要なんでな。


――みなまで言うな、ご都合主義を察してくれ。


 持ち直した経緯いきさつについてだが、まず『クソ部長』に食いつかれ、軽くイジられる。この時点でクラス内カーストなるものはが確定してしまったのだが、ハブられるよか全然マシだ。『ハブ』られさえしなけりゃイイってのも無論、だきょ――。これは忖度そんたくだ。


例の六~七人の集団に混じりこんで、なんとか上手くやり過ごすことに成功した。聞き逃してしまっていた名前についても、改めて手に入れることが出来た。印象付けの観点からみるなら、記憶の片隅かたすみくらいには俺の顔はきっと残っているだろう。


 もう二つうれしい誤算ごさんがあったのも収穫だったか。

一つ目はメンバーの内の数人と連絡先を交換こうかんすることに成功したこと。

そしてもう一つは、塾の長期休業中に行われた講習などでちょくちょく顔を見た覚えのある奴がその中にいて、しかも俺のことを覚えていたこと。

この二つはかなりありがたい。だからまぁ及第点とは言っているが、が味方したこともあり、ナイスな滑り出しってなとこだ。


――当初の目標はもう忘れろ。いいか近藤、これが『現実』だ。お前が描いてるような学園ライフは画面の向こう側にしか存在しないんだ。


なんにせよ、これで完全にあぶれることは当分の間はないはず。


リビングの絨毯じゅうたんに寝っ転がって、パズドラをやりながらホッとする。

『権力』云々に縛られないような自由な生活を送りたかったのが本音ではあるが、

どうにも人付き合いというものが存在する時点で、それがスクールライフをかたどる主要しゅよう要素ようその時点で、ほぼほぼ無理ってことは理解できた。『現実』とやらのおかげでな。


既にこの時、自分自身っすらではあるが見えていたのだが、それはまぁ、またあとで。


『ほんとう』がないものねだりで終わってしまわないために、人間関係を泥臭どろくさくチマチマと構築こうちくしていくことは必要不可欠、なのかね。


『理想を見るとバカを見る』、どうにもこの世界はオレにとっては厳しい生き方を強制するみたいだな。




――さて、と


はやいとこ、明日の支度したくを整えよう。

んでもって風呂入って、アラームセットして――。

はぁーあ、序盤じょばんのこの神経すり減らす感じはどうにも好きになれねぇもんだなぁ。



あしたは――、新入生歓迎会かんげいかい……?

よくわかんねぇけど、交友こうゆう関係ひろめれるチャンスかもな。

あーあ、くやれってか。





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