第4話 初絡みの瞬間


 ――やったぞ、やっちまったぞ、俺は完全にやらかしたぞ。


第一印象に『クソ部長』だなんてネガティブの極致きょくちみてぇな評価与えてどうすんだ俺!!!

こんなボケかまされて「ハハハッ」なんて笑いが起きる訳ねぇだろう!!


 あーあー……。かますっていうことの意味合いが違うんだよな……。


むろん『クソ部長』自体はほんとうに呼ばれていたわけで。キッチリから。内心どこかでネタにして遊んじゃいたいなんてことをたしかに思ってはいた。でもまぁ、とてもじゃないがタイミングとして初見の人にやるようなことではない。

もし同じことをされたらオレは間違いなく「ア?てめぇどこのメンヘラだよ」くらいには反感を抱く。


 そしてあんじょう、教室から笑いがおきるわけでもなく、ただの謎なカミングアウトをして多少の失笑しっしょうを買っただけ。それで俺の順番は終わった。


テンパったメガネがしでかした後も自己紹介は円滑えんかつに進んでいく、者、者、素直に自分は恥ずかしがり屋だと者まで。内容は人それぞれ多岐たきにわたるが、先ほどの失態しったいと同レベルのことをやってしまう奴は一向に現れない。一応言っておくが、俺だって仲間は欲しいぞ。どうして君たちはそこまで避けるのだ。


「ういっす! ――っとお、自分はぁ真壁樹まかヴぇたつきっす!! 中学時代は卓球部っす! 自分はー、テンション上がっちゃうと、ちょっとストッパーの方が必要みたいな感じになっちゃうと思うんで、そこんとこおなしゃっす!」


 自分の番を終えてからしばらく後にきた、。それまでは己のミスにばかり気がいっていて、ほとほと他人の紹介は耳を通過しているだけの状況だったが、なぜだろうか、こいつだけは耳にとまった。


 口調、態度、入学初日というのにすでに学ランを着崩したチャラい風貌ふうぼう。きっとこれが『』な日々に『』を謳歌おうかするタイプなんだろうな。そう思ったからだろうか。

いかにも中学時代、ヤンキー系のグループでウェイウェイやってましたって感じがする。短い話が、ゆくゆくクラスで『権力』を持つ可能性のある人間ってことだ。

「こいつは今最も、『覇権はけん』に近い!!」的な。


 スタートの自己アピールに関してはこののこと以外はなにも覚えていない、そのくらい形容できないなにがしかがあって、またどこかでうらやましいなとも思っていたからか。


「さぁて! 軽く紹介が済んだところで、そろそろ式が始まる時間だから、体育館に移動しようか! はい!名前順にならんで~!」


 高瀬に言われるがまま席をたち、廊下ろうかに並ぶ。

 多少打ち解けた雰囲気になって、話している人間もちらほら見かけるようになったが、それも真壁の周辺に集中。まぁ当然か。スタートダッシュを先に決められたのは正直悔しかったが、割と痛手だなと『危機感』も覚えていた。

――どうにもオレという人間は常に上から物事を見てしまうみたいだな。



 体育館に移動して、入学式がり行われる。

さすがに式の最中にぺちゃくちゃ喋るようなやつはまだこの時点では俺の見た限りどのクラスにもいなかった。


――そして式が終わり、


「はい! じゃあ、とりあえず今日はこれで学校はおしまいです! 明日も集合は、8:40までに集まれるようにお願いしまーす! それじゃあ、また!!」


教室に戻った俺たちに高瀬は教壇きょうだんの上からそう伝えると、

さっさとクラスを後にしてしまった。


 この瞬間、初日の『』。

完全フリーにしてかつ『自己紹介』と同レベルで最重要ともいえるポイントだ。

ここで周りにいるクラスメイトに話しかけることが出来るか、はたまたヒヨってボッチ帰宅をキメるのか。その選択次第で今後の学生生活は大きく変わってくる。


――ザワザワ、


徐々にクラス内が騒がしくなりはじめ、自然と数個ののような形にグループが出来上がっていく。


俺もこうしちゃいられない、いまも座ってる席から見て左前の位置、教卓のすぐ脇のところで男子勢が六~七人固まっている。その中にはなんとあのもいる。ここにカチコミをかけるしかないだろう、勇気出せ、歯くいしばれ!俺!!


 といってもまぁ、元来ビビりな俺にそんなオラオラなことは出来るはずもない。

なんとか勇気を振り絞ることだけには成功していたので、ここはあくまでに。



なにを言うわけでもなく、輪の隙間すきまにさりげな~く、スッと混じりこむ。あたかも「最初から僕、いましたけど?」みたいな雰囲気をかもし出して、それっぽい立ち振る舞いを見せる。が、言葉は一言も

『話しかけられ待ち』を主に、適当な場面で同調どうちょうをしておき、溶け込む。

能動的にはけっして動かない『は寝て待て』の構え。

智将・近藤の降臨だ。



ここでミスを取り返す!!!


そう思っていた矢先やさき

「あ、おまえ、クソ部長じゃんか」


グループ内のひとりが俺に早速食いついた、予測通りだ。

出だしはアレだったがこれをとっかかりにしていけば、あるいは――。

ふむふむなるほど。餌にすれば言い訳だ。あとは竿のスキルってか。



あわい一筋の希望が心に差し込んだ。

手綱は手元から離れてはいない、舵取りなら自分次第でどうにかできる。



それに、まだ一日目だ。高校は三年ある。

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