第53話、役職

 あっという間に暑い夏も過ぎ去って、気が付けば秋も真っ只中。ずいぶんと過ごしやすい季節になった。

 キキョウ会は順調な運営を続けることができ、これといった問題が発生することもなかった。全くないかといえば、そういういわけじゃないんだけどさ。大所帯になりすぎ問題とかまぁ色々ね。


 とにかく、余裕のあるそんな時だからこそ、やっておくべきことがあるだろう。

 いざという時が訪れてからでは遅い。備えあれば憂いなし。いつだって万全を期しておくことが会長の責任てもんよ。


 キキョウ会じゃあ、明確な役職ってのは私が務めてる『会長』しか存在しない。

 ふと思う。私に何かあったらキキョウ会はどうなる?

 いざという時に困らないような措置を、できるだけのことをしておくべきではないか。

 そんなわけで、今まで何となくやってた役割分担を、肩書を付けて明確にしようと考えたわけだ。立場が人を作るとも言うし、何らかのプラスの作用だって見込めるかもしれない。


 まずは私が草案を作って、キーマンには相談してから全体を決めよう。

 さて、役職といえばどんなものがあるか。一通り、並べてみるしかないわね。


 取り敢えずは『副長』だ。いざという時、私の代わりを務める役割ね。はっきり言って、力がなくては生きていけない世界ならば、武力こそが最も尊ばれるべきだ。私に代わってトップの役目を務めるのならば、戦闘班の人物こそが相応しい。

 その中で最もリーダーシップを発揮できるのは、ジークルーネとグラデーナかな。どちらかを『副長』に、そしてもう片方を『副長代行』としよう。


 次に『本部長』かな。組織の運営や金の管理、まぁ細々とした面倒なことを色々と任せる役割ね。これはフレデリカで決まり。すでにやってもらってることだから問題ないはず。

 税所はこの主要なところだけを根回ししてみようか。



 通常営業を終えた夜、早速ジークルーネとグラデーナを私の部屋に呼び出した。

「ユカリ殿、お呼びか」

「どうしたんだよ、三人だけでなんて」

 普段こういうことはしないからね。どことなく二人も緊張してるように見える。

「ちょっと相談があってさ」

 何かあった時のために、また組織として体裁を整える意味でも役割分担を明確にしておく必要性を説く。

 そのために私の代わりを務める『副長』と『副長代行』をやって欲しいと告げた。あんたたちが適任だってね。


 だけど一通りの理由を話してみても、グラデーナは乗り気じゃなさそうだ。

「あたしに難しいことは無理だぜ? ジークルーネに任せた」

「グラデーナ、難しい事は他のメンバーに任せておけばいいさ。ユカリ殿の代わりなんだから、トップとして堂々と構えていればいいだけだ」

「そうよ。私だって小難しいことはフレデリカやジョセフィンに投げっぱなしだしね。必要なのは強さとメンバーからの信頼よ」

 ジークルーネのナイスアシストに乗っかる。キキョウ会のトップを張るに必要なことは、なにを置いても武力と信頼だ。他のメンバーにもそれはあるけど、現状で一番と思えるのは目の前にいる二人だと私は思ってるからね。ここはぜひとも引き受けてもらいたい。

 押しに押すと、納得したのかどうか頷いてくれた。

「……しょうがねぇ。だったら、あたしは副長代行の方が気楽でいいな。それなら出番はないも同然だろ? 第一、ユカリとジークルーネの両方に何かあるなんて考えたくもねぇ」

「それを言うなら、そもそもユカリ殿に何かが起こるとも考え難いが。とにかく、この件はわたしも賛同するところだ。副長と副長代行以外はどうするつもりだ?」

 よし、副長はジークルーネ、副長代行はグラデーナで決まりね。

 特にジークルーネは元組織人だし、こういった組織だった形にしていくことは分かりやすいし大いに賛成なようだ。

「事務系の役職についてはフレデリカに相談してみるわ。戦闘班は何人か班長を決めて、残ったメンバーを振り分けようかと思ってるんだけど」

「それなら班毎に担当を決められて、運用がしやすくなるかもしれないな。班分けはどうする?」

「順当に実力か、得意武器や魔法適正で分ければいいんじゃねぇか」

 話がポンポンと進み出す。良い感じね。あとはざっと班長を決めてから、班員については暫定ってことで適当に割り振った。

 別に永遠にこれで行くってわけじゃないし、今は取り敢えずの形でいい。


 お次は事務方だ。

 事務方のトップとして任命するのはフレデリカでもう決めてる。

「というわけで、『本部長』はフレデリカにやってもらうから」

「……唐突な話ですけれど、お受けします。わたしの補佐はエイプリルで構いませんね?」

 話の速い奴は好きだ。さすがは心の友。

「もちろん。今までどおり、あんたたちには事務方の一切を任せるつもりよ。単に役職を明確にするってだけだからね」

 今までフレデリカとずっと一緒にやってきてくれた、収容所時代からの仲であるエイプリルを相方につける。

 他の事務方メンバーや見習いたちも、フレデリカとエイプリルなら上手いこと使ってくれるだろう。



 今のところ暫定ではあるものの、決まったのはこのとおりだ。

【会長】:私

【副長】:ジークルーネ

【副長代行】:グラデーナ


【本部長】:フレデリカ

【副本部長】:エイプリル

【事務局長】:ソフィ

【本部付事務班若衆】:14名(オーキッドリリィ、以下8名、見習い5名)


【第一戦闘班班長】:アンジェリーナ(副長:穏やかなお姉さま=ヴェローネ、ロベルタ、ヴィオランテ、以下2名、見習い5名)

【第二戦闘班班長】:メアリー(副長:ブリタニー、以下4名、見習い6名)

【第三戦闘班班長】:アルベルト(副長:獣人少女=ミーア、以下4名、見習い6名)

【第四戦闘班班長】:ボニー(副長:おっとり系エルフ=リリアーヌ、以下4名、見習い6名)

【第五戦闘班班長】:ポーラ(副長:シャーロット、以下4名、見習い5名)

【戦闘支援班班長】:シェルビー(以下3名)

【遊撃隊長】:オフィリア


【情報統括室室長】:ジョセフィン

【情報統括室副長】:オルトリンデ

【情報統括室付若衆】:9名(グレイリース、以下4名、見習い4名)


【会長付警護長】:ヴァレリア

【顧問】:ローザベル、コレット



 各部門の長と副長、顧問は幹部として遇する。これまでに中心となって活躍してくれてたメンバーに、肩書を与えた格好ね。

 特に今までと変わりないけど、この幹部会を通じてキキョウ会に関する重要事項を決定していく。見習いも増えてより大所帯になったことだし、組織としての分かりやすさは必要だろう。


 新しい幹部としては、第五戦闘班副長に元貴族令嬢のシャーロットを据えた。この決定はシャーロット自身の強さもあるし、下級貴族ではあったものの、学もあるし堂々とした振る舞いも幹部として十分であると評価したためだ。

 一覧にして分かるように戦闘班の人数も理想的になってきた。これならローテーションで、見回り、護衛、訓練、休暇などを順に回していける。いざとなれば、私や副長たち、情報統括室のメンバーがいるし、事務班だってある程度は戦える予備戦力だ。もうキキョウ会の戦力は縄張りの規模を考えれば潤沢といっても差し支えない。


 私や副長は平時に戦闘班を持たないけど、そうでない時にはいくつかの戦闘班をまとめて率いる役割となる想定だ。

 平時には、そうね、どうしようか。私は自己訓練や研究、新人教育なんかがメインになるかな。必要があればどこかに出張ったり。

 副長たちもじっとしてるのは嫌なタイプだろうし、私と同じようにしてもらうかな。特別なことは今は思いつかないし、何かやりたいことでもあるなら好きにしてたらいいと思う。


 顧問のローザベルさんとコレットさんには、年長の幹部として何かとメンバーの相談に乗ってもらう役割だ。組織や仕事のことからプライベートなことまでね。年の功ってやつだ。それとは別にメンバーの治癒や回復薬の補充にも尽力してもらう。



 一部に根回ししつつ、大体のところを決めてしまって、全員が揃った夜に編成を発表した。

 見習いを中心に驚いたのもいるようだけど、必要性と利便性は概ね納得してくれたらしい。

 中には別に今までどおりでもと言った声もあったけど、どうしても反対したいわけでもないようなんで、当面はこの新体制でやっていくことで決定した。

 まぁ、やること自体は今までとそう変わらないしね。


 そんな中、オフィリアは自分の役割に疑問を持ったようだ。今までにない役割だし、それはそうだろうね。

「なぁユカリ、あたいの遊撃隊長ってのは何をすればいいんだ?」

「うん、オフィリアには広く活動してもらうことを想定してるわ。エクセンブラの外に出てもらうことだってあるかもね」

 オフィリアの戦闘タイプは万能型だし、元冒険者としての機転の良さや経験もある。特殊な仕事をこなしてもらうには一番だろう。

 もしもエクセンブラから出て何かをしてもらう場合には、身軽に活動してもらいたいと思ってる。

「そうか! あたいなら街の外での活動にも慣れてるしな」

「具体的に決まった方針があるわけじゃないから、今のところは街の中で活動してもらうけどね。情報班とは逆の役割になるかな」

「逆だって?」

「情報班はあんまり目立たないようにしてるからさ。オフィリアには逆に、堂々と余所の様子を見に行ってもらったり、むしろ目立ってもらう役割ね」

「それが遊撃隊長か。いいね、あたいに合ってるかもな」

 危険がありそうな場所だったら私か誰かが同行するし、戦闘班の中から選抜してオフィリアに同行させることだってある。

 遊撃班はまだテストケースだから今のところはオフィリア単独だけど、必要に応じて増員が必要ならそうしていく予定だ。


「会長、わたくしが副班長というのは本当なんですの?」

 第五戦闘班の副班長に抜擢されたシャーロットが若干顔を紅潮させつつ私に聞いてきた。

 新しく幹部になったのはシャーロットだけだから、そう言いたくなるのも分かるってもんだ。

「本当よ。シャーロットなら問題ないと思ってるんだけど、自信なかった?」

 ちょっと意地悪く聞いてみるものの、明らかにやる気が漲ってる。遠慮も萎縮もないし、任せて正解ね。

「そんな事はありませんわ。ですけど、本当にわたしくで構いませんの?」

 シャーロットは口調に関しては高飛車なお嬢系だけど、実際には努力家だし面倒見もいいタイプだ。

 他にも副班長なら任せてもよさそうな、シャーロットと同期のメンバーもいないこともなかったけど、最適であると判断した結果だ。

「戦闘班の班長たちも納得してることよ。もし変えて欲しいのなら無理をさせるつもりはないけどね」

「いいえ、光栄ですわ。わたくしが副班長! 頑張りますわ!」

 ぐっと拳を握って気合を入れる様子は微笑ましい。頑張って欲しいわね。


 ちなみにグレイリースは戦闘班に入る予定だったんだけど、彼女の魔法適正である影魔法が使えるレベルに成長したことで、ジョセフィンとオルトリンデが情報班に是非にと口説き落とした。

 本人に異存ないなら、私たちも言うことはない。

 情報班にはグレイリース以外にも多くがメンバー入りしてるけど、偵察や情報収集の他にも集まった情報の精査やら資料の整理とか、結構やることが多い。ジョセフィンとオルトリンデは増員を喜んでくれたけど、今までが申し訳なさ過ぎたわね。

 大事な『情報』を扱う部署だし、このメンバーは必要以上なほどに厳選してある。先を見据えれば、より重要度の増していく部署になるだろう。多くの働きを期待したいわね。


 キキョウ会は見習いも含めて人数はかなり多くなったけど、各班の戦闘レベルや適正、人数のバランスはよく配置できてると思う。

 その多くなった人数は、まだこれからも増えていくのかな。無制限には増やせないけど、可能な限りはね。

 でも、そろそろ新たな稼ぎが欲しいところ。念願であるキキョウ会自前の賭場に着手しようか。それから支部もね。まだ本部の収容人数に余裕はあるけど、溢れかえる前に手は打っておきたい。

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