泡沫ミッドナイトブルー

@kaijima

第1話

 「この男を知らないか」

 「うーん」

 《異頭族−メニアック−》の男が、少年に写真を見せ尋ねてくる。

勿論心当たり等無かったが、この男の身なりが裕福に視えた。だから嘘を吐くことにした。

 

 それに《異頭族−メニアック−》の電子レンジ型種なんて見たことも聞いたことも無い。

 

 異頭族とは《常人族−ノーマン−》と見た目はあまり変わらない。二足歩行の人型種族だ。ただ大きく見た目が変わっているところがある。それは頭部だ。型種によって変わるその頭部は無機物である。目、鼻、口、耳と言った人型の頭部にある付属品が一切ない。どうやって見聞きしているのかは解明されていない。

 

 この男は電子レンジの頭部だが、他にもカメラ、ジュースの空き瓶等がいた。生まれた時からそうなのか、成長過程でそうなるのかそれも解らない。何故なら幼体が確認されていないからだ。

 

 一時期、異頭族の里が研究機関に狙われた事があったがすべて返り討ち。交渉であってもすべて決裂。謎の多い種族である。

 

 その秘匿性に加え、珍しい型種の頭部はカースドアイテムと呼ばれ、何らかの魔術に使用される。その為、マニアに高く売れる。

 

 有権力者も欲しがり、多額の懸賞金をかけることも珍しくはない。

 

 それを偶々知っていた少年は、この男を殺す事にした。この決心まで3秒は有さなかった。

 

 理由は金。彼にはある理由で金が必要なのだ。

 

 やるしかない。こんなチャンス滅多に無いのだから

 「…あっ、そう言えばこの人なら見たことがあります」

 「なに本当か!」

 「(かかった)確かこっちで見かけました」

 路地裏は今の時間、人通りが少ない。誘い込んで一気に殺す。

 

 「この先です」

 「分かった」

 異頭族の男が先に進んだ。この先は行き止まりで、退路は来た道を戻るしかない。少年と異頭族の男は子供と大人程に体格差があるが…

 「(『死神抱擁−グリム・ニルヴァーナ−』を一瞬で出現させれば…)」

 勝てないかも知れない。それでも

 

 「『死神抱ッ…!」

 「殺気なんてものあると思うか?」

 「(!)」

 気取られたのだろうか?異頭族の男は少年を見ず、問いかけた。そして答えが帰ってくる前に続けて

 「俺はあると思う。この頭珍しいだろう?欲しがってる奴が居てな。そいつは多額の賞金を俺の頭につけやがった。だから毎回狙われる。そして次々現れる刺客を20回程撃退したら分かったよ。これが殺気か、ってな。あんたら賞金稼ぎだろ出て来いよ」

 「なッ!?」

 その質問は少年に宛てられたものではなかった。

 「ちッバレちゃあ仕方がねえな。その餓鬼もてめぇの仲間だろ?」

 少年は声のした方向を見る。11人。恐らく常人族が殆どだが、中に女型の…     

 「(あれは《機甲族−アイアンメイカー−》…が一体…つけられていたのか)」

 

 《機甲族−アイアンメイカー−》は、     

 全身機械の種族。型種によって容姿、能力は様々。パーツの入れ替えによって環境に適応する。異頭族に並ぶ謎に満ちた種族。どうやって繁殖しているのかも不明。一応生命体と言う部類である。

 

 人型の機甲族は矢張り常人族と然程変わらない見た目を持つ。彼女の顔を隠し、常人族の少女と紹介されても誰も疑問を持たないだろう。

 

 しかし、少年は一目で機甲族と看破した。それは顔面パーツが常人族のパーソンパーツではなく、両眼が存在しない軍用レーダーパーツだからだ。あれは死角が存在しない戦闘に特化したもの。

 

 しかし、機甲族が街中でこのパーツを使用する事はまず無い筈だが…。

 

 「(…どうする…いや、待てよ?これは賞金稼ぎ側につけばいいのでは?逆に好都合…?)」

 少年は思考を巡らす。この状況を打破する為、好転させる為に。しかし、その思考は無駄に終わった

 

 

 「この餓鬼は関係ない。偶々ここに居ただけなんだ」

 「(っ!?この状況で人の心配…どれだけお人好し…)」

 「それは駄目だ。俺たち【墓入れ−グレイヴァーズ−】を観られたからにはその餓鬼も生かしちゃおけねえ。」

 賞金稼ぎのリーダー格らしき人物が少年をも消すと宣言した。ここから少年の決断は早かった。

 

 「(この異頭族を殺すのは辞めだ。オレはこんないい人を殺す事なんて出来ない。金は後でなんとか…)」

 「だ、そうだ。餓鬼ンチョ。下がってろ」

 「へ?」

 少年は突然飛んできた命令に思わず変な声が出た。加勢するつもりだったが、この異頭族の男は腕に覚えがあるらしい。下がれとわざわざ言ったからにはとんでも無い技を繰り出すに違いないだろうと、言われた通りレンジ男の後ろへ様子を見るように隠れた

 「(…なん…レンジを開けた!?それ開くの!?)」

 チンッと小気味よい音をさせながら現れたるは仰々しい装飾に彩られている鍵のかけられた装丁本。

 

 少年はその本を見たことが無い。しかし視認した瞬間、奇妙な寒気がした。

 「(…あれは)」

  まるで本能が恐怖しているかのような胸騒ぎ。

 「(魔本か…?)」

 噂に聞いたこと位はあった。生きた本。契約者しか使用できない本で、自身で知識を蓄え続け、見たものに叡智を与える。

 

 代価として何かを要求する様だが…

 「俺はまだ死にたくない。だから本気で抵抗させてもらう」

 再びレンジから取り出した鍵で、本を解放する

 「(頁が勝手に!?)」

 塞き止められた水が急に流れ出したかの様な勢いで本がひとりでに開き、紙がバラバラとめくれ、数100ページと言うところで止まる。

 

 それを異頭族の男は見もせずに

 「『裏切り者の寝返り−ターニング・オーバー−』」

 何かの術だろうか。彼は賞金稼ぎの集団に向かって指を指しながら何かを呟いた。

 

 「グワッ!?」

 「っ」

 「何!?」

 突如、賞金稼ぎの内3人が宙へ舞った。 女型の《機甲族−アイアンメイカー−》がふっ飛ばしたのだ!

 

 「敵じゃなかったのか…?」

 少年の驚愕を聞き、異頭族の男は解説する。

 

 「《機甲族−アイアンメイカー−》はプライドの高い種族。滅多な事じゃ他種族とつるむ事はない。博打だったがやっぱり洗脳されてたか」 

 「やられた!対抗呪文か!」

 集団から魔術師の装いの女が悲鳴を上げる

 

 「(確かに、常に自国の事を優先し、パーツを替えスパイとして他種族へと扮する。そんな種族が賞金稼ぎに加担するとは思えない。)」

 明らかに機甲族と分かる扮装に疑問を抱いていた少年は合点がいった。

 

 「(洗脳を解除する、『裏切り者の寝返り−ターニング・オーバー−』。ただそれだけの術だがこの場合は大いに意味がある!見たところ洗脳を施した奴は集団の中に居ないしな)機甲族の姉ちゃん!今まで不当に操られて頭に来てんだろ!手を貸せ!」

 「…言われなくても…!」

 更に2人を倒した!残り5人!不意の出来事とは言え集団の中心に居ながらあの立ち回り、味方に成ったのはデカい

 

 「機甲族の姉ちゃんこっちに来い!一掃する!」

 「!」

 賞金稼ぎの集団から雑技団顔負けの跳躍、空中で3回転しながら異頭族の横へ着地し並ぶ。

 

 「お見事…これは俺のオリジナルの術で制御が出来ねえ。衝撃に備えなァ!」

 少年と機甲族の女は身構える。

 

 「『技名募集中−ネームレス…!!!!!」

 異頭族の男が腕を前に付き出す

 「術が飛んでくるぞ!防御呪文を!」

 賞金稼ぎのリーダー格が魔術師へ命令を飛ばす、が

 「ーーー(口がッ身体がッ!?)」

 「遅い!!」

 凍結!退路を断つかの様に巨大な氷壁が出現し、その付近に居た者はこぞって凍りついた

 

 「がーーーあッ!?」

 賞金稼ぎ共は全員動けない!

 そして異頭族が付き出した掌に大人の頭部大の火球が現れた

 「(退路を断ち、行動を制限し、周囲への衝撃を配慮した術!凍結だけで十分なのに二段構え!凄い!)」

 少年は素直に感心した。隙の無い術。それも2つの術を同時に行使し、オリジナルとは…最早魔法。"失われた魔法−ロスト・スペル−"に匹敵し得る偉業だと。

 

 「歯ァ食いしばれ…『解放−バースト−』!!!!!」

 発射と同時に着弾。恐ろしい程の速度。私でなければ見逃してしまう。手から放たれた火球は爆音と衝撃を放った。

 

 火球の熱量によって氷壁は融解し、蒸発。周囲は蒸気に見舞われ何も視えなくなる。

 

 「二人共掴まれ!逃げるぞ!」

 待っていたとばかりに異頭族の男は両手を出し声を上げる


 「!」

 「!?」

 機甲族の女はノータイムで手を取り、少年は突然のことであたふたしているところを業を煮やした異頭族が無理やり首根っこを掴み、その場を跳ぶ!

 

 残されたのは、身体から煙を出し続け倒れている賞金稼ぎの男女4人。先に

機甲族に倒されていた5人は偶然か将又意図的か。氷壁の後方に居た為気絶しているだけでほぼ無傷だ。

 

 そして口から煙を吐き出し尚も両足で立ち尽くす男が1人。その顔面は焼け爛れ、見るも無残な容姿である。

 

 しかし、その顔は"剥がれ落ちた"。

 

 

 

 

 「『八方美人−サーフェイス−』…一回死んでしまいましたが、歯を食いしばっていて正解でした。」

 虚空の顔の持ち主は、目だけで後方を確認。この威力で建造物に一切被害を出していない異頭族の術に感心し、

 「楽しくなりますね」

 と呟いた。

 ご機嫌な口笛がヤケに甲高くこだました。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「早いな…喧嘩か?」

 「旦那ァ…例の奴かも知れやせん…」

 「全身火傷だがまだ息のある4人…そして"顔の剥がされた仏が6体"…くッ【顔剥ぎ−ルーター−】か…」

 「しかし解せやせんねぇ…」

 「なんだ?」

 「いやね…奴の手口は何時も一人を狙った犯行じゃねえですか。それにこの付近で爆音がしたって言うんでさぁ」

 「ふむ…奴にしては派手だな」

 「そしてこっから本題なんですがね…この事件が起こる1時間前、奇妙な電子レンジ頭の《異頭族−メニアック−》が人を訪ねてこの街を彷徨いてたって話でさぁ…」

 「何!?そいつが【顔剥ぎ−ルーター−】か!?」

 「そいつは早計過ぎやしやせんか?今まで誰も目撃したことがない星がわざわざ人目につく姿で、それも自分の姿をひけらかすみたいな真似…俺ならしやせん」

 「じゃあ関係ないのか…」

 「いえね?無関係じゃねえと思いますぜ?そいつを張ってりゃ何れ奴に辿り着く。俺の勘がそう言ってるんでさぁ」

 「お前の勘は中るからな…よしその線で捜査しよう。私は一旦戻る。お前は?」

 「俺ァもう少しこの辺調べて見ますよ」

 「分かった。…気をつけろよ」

 「旦那も.......」

 

 

 

 「.......また無能な上司ですか。何時も苦労しますねぇ…さて、この顔はキチンと手入れしないと」

 

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