十一話 日記

七の月二十日

あの子と共に本を読んだ。子供の頃思い描いていたおとぎの国を、ふたりで語り合った。久しぶりに絵本を開いたよ。


七の月二十二日

書庫の片隅に横笛を見つけた。小さい頃見た楽団に憧れて買ってもらったものだ。クレナは心得があるらしく、綺麗な音を奏でた。器用な子だ。


七の月二十五日

舞踏会に誘われたが断った。しばらく行っていないから、散々質問責めにされるに決まっている。放っておいてくれ。


七の月二十七日

少し体調を崩した。今までの疲れが出たのだろうか。クレナは心配して隣にいてくれた。君のおかげで辛くないよ。


八の月一日

すっかり具合も良くなった。クレナと庭でお茶をして、花言葉を教えた。君にぴったりの花を教えると、少し驚いていたようだった。よく似合っているよ。


八の月四日

郊外の畔に出掛けた。もちろんクレナと一緒に。体力があれば小舟に君を乗せて遊びたかったのだけれど。水に触れるクレナはとても綺麗だったよ。


八の月六日

ジェイが遊びにきた。やっとクレナのことを紹介できたよ。あの子の美しさに彼も驚いていたようだ。でもあまり興味を惹かれたわけではなさそうだったな。


八の月十日

クレナに新しいドレスと、それに合う装飾品を贈った。鎖の痕がまだ消えないようだったから、それを隠せるつくりだ。はじめは遠慮していたけど、僕のために身につけてくれた。とても似合っていたよ。


八の月十一日

いくつかの縁談を持ちかけられたが、すべて断った。とてもそんな気分ではない。考えたくもなかった。今は、クレナがいればそれでいい……。


八の月十二日

クレナが少しずつ笑うようになってくれた。ときどきふわりと笑っては、はっとして口元を隠すんだ。可愛らしいね。


八の月十六日

クレナは僕の心を癒してくれる。灰のような日々も、淡く色づいていくようだ。神様に感謝している。クレナと僕を、出会わせてくれたことに。


八の月十九日

ジェイも、クレナも、僕を救ってくれた大切な人だ。出会わなければ、僕はきっとこんなふうに笑ってはいられない。僕の中で本当に大きな存在なんだ。だから、たとえなんと言われても、僕の気持ちは変わらないよ。……こんなことを書いてしまうのは、やっぱり僕が弱いからかな。そろそろ頁もなくなるし、日記の整理でもしようか。

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