Epilogue:夢の終わり

「青葉ちゃん、正座」


「…………はい」


 シャロリアの物言わせぬ口調に、七篠青葉はベッドの上に正座して身を縮めた。


 ぐるりとシャロリアが部屋の中を見回す。

 部屋の中は整頓されていた。王都に宿を取って一月あまり。出されていた私物は全て大きな鞄の中に収まり、すぐにでも出ていける状態だ。


 青葉がちらちらと時計を気にしている。時刻は午後の三時。まだ日は高い。


 そのどこか気もそぞろな様子に、シャロリアが頬を引きつらせた。こほんと小さくせき払いをし、腰に手を当てて高い声で宣言する。


「今からお説教します」


「……はい」


「私は、青葉ちゃんには呆れて何も言えません」


「なんで敬語……」


「正座ッ!」


「はいぃッ!」


 すかさず飛んできた叱責に、青葉は慌てて居住まいを正した。こういう時のシャロリアは年下だとは思えないくらいに逆らい難い雰囲気がある。

 背筋を伸ばしながら正座する青葉に、シャロリアは一度頷き、本題に入った。


「師匠は青葉ちゃんに三日間、お別れを言ったり、身辺整理するための時間をくれました」


「……はい」


 貴重な三日間だ。


 青葉が世話になった人の数は多い。迷惑も掛けた。飛行船を直すのも手伝ってもらった。もう一度会ってお礼を言いたい人だって何人もいる。


 ここは王都でもう古都には戻れそうにないが、せめて最後に現状を教えておきたかった。お別れの言葉だけでも残したかった。残すつもりだった。


「そして、あっという間に二日が過ぎてしまいました」


「…………」


「師匠は色々なところに手紙を書いて、ギルドとかあちこちに挨拶にいって……青葉ちゃんはその間、何をしていましたか……?」


「…………」


 青葉が黙り込み、情けない表情でシャロリアに整理された荷物を見る。

 二日間。あっという間だった。何かする余裕なんてなかった。考える余裕がなかったのだ。


 パトリックを初めとした数人に手紙を数通書いたが、青葉がもともと考えていた量の半分もいっていない。最後にやろうと思っていた眷属との冒険も出来ていない。


 青葉は優秀な人間だ。いつだっててきぱきと行動していた。

 いつも明るく笑顔を絶やさない青葉はシャロリアにとって親友であるとともに、師匠とは別の意味で憧れの召喚士でもあったのだ。


 上目遣いで見上げてくる青葉に、シャロリアが深々とため息をつく。


「言わないなら、私が言うよ?」


「…………」


「青葉ちゃんはこの二日と半日の間、師匠のことだけを考えていました」


「!? か、考えて……ないもん」


 身を縮める青葉に更に追撃するようにシャロリアがやるせないため息をつく。


 どこかずっと浮ついている青葉に一番迷惑を被ったのはすぐ近くにいたシャロリアだった。

 シャロリアだって、本当はお別れする前に色々青葉とやりたいことがあったのだ。話し足りないことだってあった。なのに、青葉はずっと上の空だった。


 僅かばかりの不満を込めて、シャロリアが言う。


「青葉ちゃんは、一日目、朝から何もせずにずっとそわそわした結果……何故か髪を切りにいきました」


「……はい」


「この間切ったばかりでまだあまり伸びてないのに」


 綺麗に切りそろえられた前髪をつまみながら青葉が唇を尖らせ、小さな声で反論する。


「…………ちょっと伸びてたもん」


「いつもそんなに頻繁に行ってないでしょ!? ……しかも、師匠は気づきませんでした」


「それは……ブロガーさんが悪いもん」


 ちらちらと青葉が投げかけられる視線に全く目を向けることもなく、ブロガーは平然とやるべきことをしていた。

 青葉の消沈っぷりは目も当てられなかった。


 頬を膨らませる青葉に、シャロリアが続ける。


「一日目夜。青葉ちゃんは私が昼間に片付けておいた服をもう一度出して一人でファッションショーをしました。私は青葉ちゃんに手紙書かなくていいのって聞いて、手紙を書かせました。片付けは私がやりました」


「……それは……ごめんなさい」


 頭を下げる青葉に、シャロリアはこほんと一度咳払いして次に行く。


「二日目朝。青葉ちゃんは朝から何もせずにずっとそわそわした結果、用事があると言って私を置いて一人で出かけました」


 まだあるの!? 目を見開くが、その眼光に何も言えずに身を縮める。

 思い返してみればこの小さな親友の怒りはもっともだった。忙しい時にやることではなかった。


 そこで、シャロリアが優しい声を出した。


「何をしてたの?」


「そ、それは……用事が――」


「私は実は気になってこっそり後ろをついていきました」


「!? な、なんで!?」


「青葉、ちゃんは………………大通り沿いのお店で……真っ赤な顔をしながらこそこそと、可愛い下着を選んでました」


「――ッ……みゅう……」


 あまりの恥ずかしさに、変な声をあげて青葉がベッドの上に倒れ込み、頭をかかえてごろごろ転がった。

 まさか見られていることに気づかなかったのか。いつもの青葉なら気づいたはずだ。


 シャロリアが表情を歪める。見ているこっちも恥ずかしかったのだ。何度止めに入ろうと思ったかわからない。


 師匠からの要求だって頑張れば断れたはずだ。にも関わらず返事をしてしまった上に三日間へっぽこになってしまった青葉の様子を見せられたシャロリアはもう限界だった。最後の方はもう諦観の思いだった。


「ただの話し合いだよね?」


「……だ、だって……そう、だけど……でも……」


「髪を切ったり、新しい、し、下着を買ったり、滅多にやってなかったお化粧とか香水買ってみたりとか、いる? いらないよね?」


「……ッ……うぅ……もう、やめて」


 首元まで真っ赤にして白旗をあげる青葉に、シャロリアはこの三日間で溜まった不満をぶつける。


 これが最後だ、最後の最後に蔑ろにされた親友に対してこれくらい許されるだろう。


「しかも……青葉ちゃんは帰ると決めたあの日から……入浴時間が……倍になりました。私が言わなければ、全然準備出来ませんでした。あ、この準備は……師匠に、あげるらしい、半日の準備じゃなくて、帰る準備のことです。そっちの準備はバッチリみたいだったね! 青葉ちゃん!」


「ッ……いやぁ……」


 もはや苛立ちすら感じない。


 こうしてごろごろしながらも青葉はずっと時計を気にしている。そんな頻繁に見ても時間が進むわけがないのに。

 そもそも今こうしてお説教中に入ってこられて、青葉はどうするつもりなのだろうか。まさかふらふらついていくつもりなのだろうか。


「青葉ちゃんは! この三日間! 私に全部準備を任せて! ベッドの中でもお風呂の中でも、ずっとえっちなことを考えてましたぁ! 声が漏れてしまたぁ! 私は、全部見てましたぁ!」


「や……もう、ゆるして――」


 惨めだ。涙すら出ない。もともと勝ち目がない戦いだったのだ。

 だから、シャロリアの内にあるどうしようもない感情は押し込めておくべきなのだろう。


 柔らかい枕で亀のようにまるまる青葉をぼふぼふ叩き怒鳴りつける。


「師匠は、半日貰うって言ってたのに、青葉ちゃんは三日間、全部あげちゃってましたぁ! 青葉ちゃんの嘘つき! 行かないって言ってたのにぃッ! 許さないッ! 絶対許さないからッ! この、このぉ! 青葉ちゃんのばかッ! 青葉ちゃんの、いんらんッ!」


「……何楽しそうなことやってんの君たち」


「ひゃ!?」


 呆れたような声。いるはずのない声に、シャロリアが小さな悲鳴をあげて、壁に背をぶつけた。


 慌てて振り返る。師匠がいた。あまり整えられていない黒髪に冷たい印象の目。

 今までの気勢が抜けていくのを感じる。


「し、ししょう……いつの間に……」


「いや、ちゃんとノックして入ってきたんだけど……予行練習?」


 何の、とは聞けなかった。

 情けないところを見られ、シャロリアの顔がりんごのように赤くなる。慌てて時計を確認するが、予想よりもだいぶ早い。


「……その……まさか…………も、もう、時間、ですか?」


「いや、先にシャロとも今後の事を話しておかなくちゃと思ってさ。一応、名目は師弟のわけだから……」


「え……?」


 予想外の言葉に、シャロリアが思わず大きく瞠目する。


 まさか自分への話の時間を取ってくれるとは思っていなかったのだ。慌ててベッドから下りる。

 青葉も亀のように丸まったままだったが、驚いているような雰囲気があった。


「なんか楽しそうなところ悪いけど、今いいかな?」


「は、はいッ……大丈夫、です」


「じゃー少し借りるよ。その後、ナナシノね」


 


 §




 シャロリアが戻ってきたのは、それから一時間程経った後だった。


 真っ赤に腫れ上がった目に、頬に残った涙の後。

 その胸元には青葉も貰ったものとちょっと似た一冊のノートと、いつかエルダー・トレントを倒した際にドロップした宝玉が大事そうに抱えられている。


 まるで夢でも見ているかのような虚ろな表情。

 その潤んだ目が青葉を見て、一言ぽつりと漏らした。

 

「めんきょ……かいでんだって……言われた……。何も残してあげられないけど、ってぇッ……!」


 その今にも泣き出しそうな表情に、青葉がいてもたってもいられずそれを抱きしめる。


 胸元に頭を押し付けシャロリアは声を殺して泣いていた。

 青葉は何も言わず、この世界に来てできた親友を抱きしめ、ただその頭をそっと撫で続けた。






§ § §






 どんな生活にもいずれは終わりが来るものだ。

 その終わりが意図したものじゃなかったとしても、その生活が幸福だったのならば、きっと文句をいうべきではないのだろう。


 目を覚ますと、真っ先に気づいたのは右手の中に当たる硬い感触だった。


 ベッドから身を起こし、手を持ち上げ、それを窓から差し込む日の光に透かす。


 手の中にあったのは虹色に輝く不思議な光沢の石だった。ベッドに入った時は確かになかったはずだ。


 しばらく黙ったままそれを見ていたが、やるせないため息をつく。

 本当に人生うまくいかないものだ。


「今更ログボとか、遅いって……」



 ログインボーナスの魔導石を袋に入れ、ポケットにしまう。


 やるべきことは全て終えた。悔いは……ない。


 世話になったNPC達に手紙を出しギルドに報告もした。シャロにも全て必要なことは伝え、師弟関係を解除した。


 窓を開け、空気を入れ替える。

 見渡す限りどこまでも蒼穹が広がっている。帰るには良い日だと言えるのではないだろうか。


 冷たい空気で目が覚めたのか、隣でぴくりとも動かずに眠っていたナナシノが身を起こした。


「んみゅ……おは、よう……ございま……ッ!?」


 現状を理解したのか、さっと毛布で身体を隠す。今更隠すような物でもないだろうに。


 大体、嫌がってたら本当に会話だけで我慢するつもりだったのに、やる気満々だったよこの子。

 ……いや、これ以上は言うまい。


 身支度を整える。体調は万全だ。ナナシノも少しだるそうだが、問題はなさそうだった。


 服を着替え、荷物は全てポケットに入れる。部屋を出ようとしたその時、ナナシノがふとおずおずと声をかけてきた。


「あの……ブロガー、さん」


「ん? どうかした?」


 視線を合わせてこないが、声は昨日と比べてほんの少しだけ甘さが混じっている。

 問い返す僕にナナシノはしばらく逡巡していたが、小さな声で言った。視線を逸したまま、僕の手をためらいがちに握ってくる。


「……か、帰るの、少し……伸ばしませんか?」


 ……今更、凄い事言うな、この子。


 首元が赤く染まっている。どうやらまだ別れが惜しいようだ。

 まさか情でも湧いたのだろうか。ななしぃはエロいなぁ。


「一日?」


 ふざけて聞き返すと、ナナシノがしばらく黙り込み、答えた。


「……い……一週間……?」


 …………ナナシノって、細身だけど凄い体力あるよね……。


 どれだけ話し合い(意味深)したいのか。


 ナナシノのことを考えて半日だけにしたのに、僕が負けそうだよ。というか、完全に負けてたよ。ああ、僕の負けだ。サイレント達をしまっておいて本当によかった。サキュバスかな?


 だがダメだ。僕もナナシノを手放したくはないが、三日という制限時間は僕がぎりぎり自分の気が変わらないであろうと考える、そういう期間だったのだ。


 ナナシノもちゃんと身辺整理出来たことだろうし、欲望に流されてはいけない。


 隣の部屋で一人夜を過ごしたであろうシャロの表情は酷いものだった。

 赤く充血した目に、眠れなかったのか目の下には濃い隈が張り付いている。


 シャロは全ての身支度を終えて出てきた僕とナナシノを見ると、特にナナシノの方をじろりと見た。

 昨日話をした時は大泣きしていたが、その目つきを見た感じだと大丈夫そうだ。


「…………声…………漏れてました」


 親友の指摘に、ナナシノの顔が耳元まで真っ赤になる。


「……ッ……そんな、おおきな声出したりは……」


「青葉ちゃんのばかッ! ……師匠の…………馬鹿」


 シャロがぷいとそっぽを向き、一言吐き捨てた。


 長い間、滞在した宿をチェックアウトする。

 ログアウト機能はどこでも使えたが、どうせなら広い場所で帰ることにした。


 めてお君と相対した公園にはポツポツしか人はいなかった。

 まだ数日前の戦闘の跡が残るその場所に立つ。


「ここで、いいんですか?」


「まーどこでもいいしね」


 ナナシノがどこか恥ずかしそうな表情で僕の側に立った。

 この世界に来た時、ナナシノは制服だった。今の格好はローブだ。どうやら初日に売り払った制服を買い戻すことは結局できなかったらしい。


 冷静に考えたらナナシノは元の世界に帰った後の方が大変かもしれない。

 何しろ、家の中にいたはずなのに半年間行方不明になって、突然帰ったと思ったら見たこともないローブ姿になっているのだ。


 僕は一人暮らしだし、働いているわけでもないからどうとでもなるけど、ナナシノは学生みたいだし……。


「家族がびっくりするかもね」


「……そう、ですね……」


 目を伏せるナナシノに、シャロが寂しげな笑みを浮かべた。

 アイちゃんと、その頭の上に乗っかったサボちゃんも少し離れた位置で主を見ている。


 帰る準備は整った。やり残したことはなにかないか……。


 ノルマとヨアキムには煽りの手紙を送った。

 巫女には直接話をしに行ったし、フィーとエレナとめてお君にも事情を説明する手紙を送った。何か不備があってもシャロが残るのだから、なんとかするだろう。


 シャロが一歩前に進み、至近距離から僕を見上げる。唇が震えている。今にも泣きそうだったが、泣いてはいない。


「師匠……どうか……お元気で」


「ああ。世話になったね。ちゃんと一流の召喚士になるんだよ。僕の弟子なんだから」


 シャロには免許皆伝と同時に、召喚士と眷属についての情報をできるだけ記した冊子を渡してある。


 変な眷属を引いたりしない限りは、読めば猿でも強くなれる。

 この世界に来て得た金やアイテムも大部分はくれてやった。うまくやればそこそこ上位の召喚士になれるだろう。


 その姿を見ることができないことだけが少し残念だ。


 シャロはじわっと目に涙を溜めたが、まるで誤魔化すように青葉の方を向いた。


 そして、どこか居心地の悪そうなナナシノを抱きしめる。

 なんか枕で叩かれていたようだが、仲は相変わらずいいらしい。


「青葉ちゃんも……元気でね。私、青葉ちゃんのこと忘れないからッ!」


「うん、うん。ありがとう………………あと……ごめんね」


 小さな声でナナシノが謝罪する。シャロがぴくりと固まる。


 しばらくして、シャロが満面の笑顔で僕を見た。ナナシノを振り払うと、僕の手を掴んで自分の頬に当てる。データとは思えない肉質だ。


「師匠。もしも、青葉ちゃんに飽きたら………わ、私が、います、から……いつでも、どうぞ」


「!? シャロ!?」


 なんかナナシノとシャロって少し似た匂いがするんだなぁ。


 ナナシノが僕の腕を掴み、ピッタリと身を寄せてくる。

 息遣いと仄かな甘い香りが漂ってくる。タガが外れたのか、昨日からサービス満点だ。


 もう一日伸ばす?


「あれ……? そういえば、サイレントさんは……?」


「もう別れは終えたよ」


 『話し合い』に興味津々みたいだったから送還したまましっぱなしだ。

 出してたら絶対怒涛のツッコミが入ってたよ。その被害にあうのは主にナナシノだよ。

 今頃【黒冥界】で歯ぎしりしていることだろう。


 そして、僕は空を見上げた。

 その時を察したのか、ナナシノとシャロが黙る。


 雲ひとつない青空。輝く太陽のすぐ近くにはこの世界の象徴である七つの月が薄っすら見える。


 この世界に来たあの夜のことを鮮明に思い出す。

 この世界に来た時、七つの月が僕の事を歓迎してくれた。そして七つの月に送迎され帰る。


 あの夜と、そして今日この日のことを僕は生涯忘れないだろう。


 数年ぶりだったが、そして短い間だったが、やはりアビコルは僕の心を掴んでやまなかった。


 ナナシノが僕の腕を離し、背中に手をまわして抱きしめてくる。シャロもそれに触発されたように僕の腕に抱きついてくる。公園を利用していた他の人々が奇異の目でこちらを見ていた。


 これでログアウトが起動しなかったらとんだ笑いものだな。


 もしそんなことになったらまたナナシノとシャロをつれて世界を旅しよう。

 まだまだ訪れていない都市は、イベントは、会っていないNPC召喚士はいくらでもいるのだ。


 僕は目を閉じ、しばしその夢を心に描き、そして唱えた。


 さようなら、アビス・コーリング。




「『ログアウト』」




§ § §




「ブロガー……さん? シャロ」


 ぎゅっと目を閉じていた。だが、空気の変化だけで何かが起こったことはわかった。

 頬を撫でていた冷たい空気が篭ったような空気に変わる。


 そんなつもりはなかったのに、出てきた声は今にも泣きそうな声だった。

 抱きしめていたはずの身体がいつの間にか消えていた。細身だったが、七篠青葉にとっては大きな身体だった。


 心臓がどきどきと強く鼓動していた。

 意を決して目を開く。


 誰もいなかった。

 親友も、好きな人も、可愛らしくて頼りになる眷属も。


 代わりにあったのはいつか失った日常だった。ふらふらしながら記憶を頼りに電灯のスイッチを入れる。


 どこか懐かしいクリーム色の壁紙。整頓されたベッドに、勉強用に買ってもらった机とノートパソコン。机の上にはオレンジ色の携帯電話と誕生日に買ってもらった財布が放置されている。


 強い立ちくらみを感じ、どすんとベッドに座り込む。


「帰って……きた?」


 まるで長い夢でも見ていた気分だった。

 慌てて自分の姿を見下ろす。


 そして、青葉は泣いた。


「……良かった……」


 夢じゃない。日本ではまず手に入らないであろう召喚士のローブの姿。背負ったリュックサックも向こうの世界で青葉が冒険して購入したものだ。


 部屋の外からがたがたという音と、懐かしい声が聞こえてくる。階段を駆け上がる音が聞こえる。


 どうやっていいわけよしよう。信じてもらえるだろうか。


 夢じゃない。そして、一抹の期待を込め、青葉は唱えた。



「『召喚コール』!」







===あとがき===


お付き合い頂きありがとうございました!

これにてアビス・コーリング完結になります。

ここまで十ヶ月、書き続けることができたのは応援頂いた皆様のおかげです。

少しでも楽しんで呼んでいただければ、作者としてとても嬉しいです。


今後も別作品を投稿していきますので、そちらもよろしくお願いします。

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