第十九話:光のオーブと敗者

 森の奥に進むにつれ、道の様子が変わってきた。

 サイレントには進む上で障害物を取り除く他、僕が歩きやすいように地面を固めるように指示を出している。だから、道はまるで重機でも使用されたかのように平面になっているはずだが、次第に折れた木樹やら大きめの石やらが混じり始めた。

 僕が前回、森に入ってからまだ三日程しか経っていない。雨が降ったのでぬかるんでいるのはいいとして、その程度の時間で木や石が飛んでくるとは思えないから、多分エルダー・トレントや他の魔物が通ったのだろう。


「シャロさ、クロロンがどの辺まで無事だったかとか覚えてないの?」


「……ごめんなさい」


「いや、叱ってるわけじゃないけど、一応目安としてね」


 俯くシャロから視線を外して前を見る。


 事前に聞き取った話では、逃げるために走り出してすぐ、『送還』を宣言したらしい。という事は、クロロンがロストしたのはエルダー・トレントと遭遇した場所からそれほど離れていない場所のはずだ。エアー・ストリームで敗北を察し逃げ出したというのだから、遭遇した場所にはエアー・ストリームを放った跡があるだろう。


 現実世界にはマップなどの便利なウィンドウは表示できないし、何よりフィールドがゲーム時よりもずっと広いがそこまでわかれば位置はなんとなく特定出来る。

 もしもエアー・ストリームの跡に辿りついてしまったら、見落としたかなにかの拍子で道を逸れた位置に落ちている可能性が高い。


「……ブロガーさん、けっこう考えてるんですね」


「いや、すっごい単純な理屈だし……」


 目を見開くナナシノとシャロにため息をつく。

 NPCが無能でお使いクエストばっかりよこしてくるのは既に嫌になるくらいに知っているが、プレイヤーのナナシノが全く考えていないのはいかがなものだろうか。

 まぁ……道沿いに進みながらウロウロするだけで見つかりそうではあるけど……。


 そんな事を考えながらしばらく歩いていると、ふとシャロが高い声を上げた。


「あっ……!」


 鳶色の目を大きく見開き、ふらふらと前に駆け出す。

 今にも転びそうになりながらサイレントの隣を通り抜けると、木の根本に落ちていた丸い球にたどり着いた。

 仄かに光る、手の平に乗るくらいの大きさの球だ。見覚えのある光のオーブは雨に振られても穢一つなく輝いている。


 シャロがそれをまるで半身でも見つけたかのように抱きしめ、俯く。


「く……くろ……ろん……」


 ナナシノがそれに続き、シャロの元に駆け寄り、その肩を抱く。

 肩を震わせ、声を押し殺し涙をこぼすシャロとナナシノを見て、サイレントが僕の足先をつっついた。 


「美しき眷族愛だな。羨ましいぞ」


「どうでもいいけど、まだスタート地点に立っただけな事わかってないよね」


 光のオーブの効果は微々たるものだし、一度使えばなくなる。よしんば眷族召喚でアルラウネが出たとして、クロロンは死んでいるんだから同一個体である可能性はないんじゃないだろうか。

 そもそもの問題として……シャロは召喚できるだけの魔導石を持っているのだろうか?


「主は情緒がないな」 


「サイレントに言われたくないな」


 まぁだが、そんな事は僕にはどうでもいいことだ。シャロがアルラウネを召喚できようができまいが、僕の受けたクエストは光のオーブの入手まで、である。さすがの僕も、運営チームや開発チームじゃないのでシャロにアルラウネを確定で引かせることなんてできない。


 今回のクエストでは色々わかったこともある。主に現実の仕様についてだが、それでいいということにしよう。


 俯き涙を流していたシャロが立ち上がり、覚束ない足取りで僕の元に駆け寄ってくる。涙を袖で拭い、まだ目は少し充血していたが、今にも決壊しそうな儚い笑顔を浮かべ、頭を下げた。


「ぐすっ……ぶろがーさん、本当に……ありがとうございましたッ!」


「礼はいらないよ。まぁ、見つかってよかったね」


 僕はクエストを受けてそれをクリアしただけだ。NPCからお礼を言われても全く嬉しくない。

 ナナシノもまたシャロの隣に並ぶと、涙の浮かべた目をこちらに向け、頭を下げる。NPCのために涙できるとか、できた人間だ。


「私からも……ありがとうございます。ブロガーさんがいなかったら、オーブ、消えちゃうところでした」


「……できることならなんでもする?」


「よ、要相談、で。……でも、感謝してりゅのは本当です、よ?」


 噛んだ。恥ずかしそうにナナシノが口元を押さえる。

 まぁ、ナナシノのためにやったわけでもないからなぁ。


「まー、いい経験になったんじゃない。簡単なフィールドでも何が起こるかわからないってことね」


「……そうですね。次に立ち入る時はもうちょっと気をつけて……いきます」


 こんなこと早々ないと思うが、その気持ちを忘れなければ眷族がロストするその時を少しだけ延ばせるだろう。

 アイリスの単騎兵を最初の眷族に選んだナナシノには今後も苦難がいっぱいだ。


 足元にいるアイリスの単騎兵を眺める。ナナシノとの対比で膝くらいの小さな騎士だ。最初も言ったが、これを使えるレベルまで成長させるのは並大抵のことではない。


「というか、さっさとアイちゃんを進化させなよ。アイテムあげただろ?」


「……あ……そ、そうでした。それなんですけど――」


 ナナシノが何事か言いかけたその時、サイレントが僕の膝をとんとんと叩いた。


 足元を見る。サイレントがぽっかり空いた目で僕を見上げ、黒い腕を伸ばす。


「主、話してるところ悪いんだが……アレ……どう思う?」


 それが指し示す方向を見て、僕は顔を顰めた。


 サイレントが作った幅広の道。光のオーブが落ちていた更に先で、道の右側の木が折れている場所があった。まるで何かが通った跡のように、外側に樹木がなぎ倒されている。


 サイレントが続ける。ナナシノが瞬きしてそれを確認し、不思議そうに首を傾げる。


「あのさぁ、主。パトリックって召喚士、言ってたよな? 自分たちよりも先に森に突入したグループがいるって。そいつらさぁ……この道と同じ道を通ったはずだよなぁ?」


「……ああ、わかった。わかったよ、サイレント。何も言わなくていい、わかった」


 僕はパトリック達とエルダー・トレントの戦闘をこの目で見ているが、その前に森に入ったというグループは見ていない。

 そいつらはどこに行ったのか?


 エルダー・トレントと出会わずに森の奥に進んでいる? 途中で道を逸れた?

 あるいは引き返したのならば、僕達と遭遇しているはずである。歩きやすい道をあえて外れる理由はないのだから。


 外に倒れた樹木を確認する。力づくでへし折られた跡だ。よく見れば、昨晩の雨で柔らかく湿った地面にはいくつもの足跡が残っていた。

 エルダー・トレントが逃げた跡。そして、その上からついた人間の足跡だ。


 昨晩降り注いだ雨上がりの空気は太陽に熱され気持ち悪いくらいに生暖かい。


 そう言えば僕が言ったのだ。こういうクエストではベタな展開が待っている、と。

 光のオーブを探しに行ったりすれば、本来滅多に出現したりはしないレアモンスターが高確率で現れるだろう、と。


「なるほど……現実故の理屈、か」


 ゲームの頃は運営の嫌がらせの一言で方がついた。現実では違う。

 シャロの光のオーブがここに落ちていた。エルダー・トレントが逃亡した跡がその側に残っている。その二つの間に関連性がないと考えるのはあまりにも浅慮ではないだろうか?


 エルダー・トレントが、召喚士がオーブを拾いに戻ってくると考え、ここで待っていた、というのはどうだろう?


「サイレントさぁ……」


「怖気づいたのか? 主」


「いや、全然そういうわけじゃないんだけど……」


 何故クエストの一つや二つで怖気づかなければならないのか。この程度で怖気づくようならば森に入ったりしない。

 今重要なのは――


「これってクエストだと思う?」


 ゲームではクエストウィンドウを開けばクエストの達成条件を見ることができた。だが、それが開けなくなった現在、クエストの境界があやふやになっている。

 きょとんとしているシャロを見る。とりあえず光のオーブは取り戻した。クエストをクリアしたにしては魔導石がまだ手に入っていないが、帰り道で発見出来るかもしれないし、そもそもギオルギの時と同様、結局見つからないかもしれない。


「面倒くせえなあ」


「主はいつも変わらないなあ」


 僕はもう疲れているのだ。森の中を歩くのはたとえ比較的平坦な道であっても面倒くさいし、ジメジメ蒸し暑くて嫌になってくる。

 だが、ここまで来てこのまま帰るのも癪だし、考えるのもなんか面倒臭い。それに、今進まなければ後で、あの時進んでたらレアアイテム手に入ったのかなーとか思うのだ、きっと。


 後悔先に立たず。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。


 木樹の倒れたその向こうを見る。どんどん森の奥に伸びていく足跡の、その先は見えない。

 ほんの数秒考え、面倒臭さとゲーマーとしての矜持を天秤に乗せた結果、後者に傾いた。怖いもの見たさ、ではないが、興味がないでもない。


「まぁ……進もうか」


「……はい」


 ナナシノとシャロが恐る恐る頷く。フラーが僕を見上げ、ぱちぱちと手を叩いた。


 泥だらけで酷く歩きにくい道を進んでいく。

 細く刻まれた跡はエルダー・トレントの足跡だろう。更にそれを上書きするようについた人の足跡を踏んで進んでいく。

 足跡の数からして、恐らくパトリック達の方が多い。


「そういえば、パトリックは先行組は十人くらいだって言ってたなぁ」


「聞いた話では……報酬で揉めたとか」


 奇怪な鳥の鳴き声と虫の声がじりじりと樹林に響き渡る。

 ナナシノがせわしなく周囲を見回しながら教えてくれた。


 ギルドからの報酬は僕も確認したが、ルフとギルドポイントだけだった。確かにそれなりの数字だったが、眷族の命には変えられないだろう。僕からすればゲーム内マネーなんて紙切れみたいなものだが、NPCの価値観は違うようだ。


 警戒しながらサイレントの後をついていく。不思議と魔物の気配はない。

 数分も歩いた所で、サイレントがピタリと立ち止まった。シャロがその光景を見てよろよろと一歩後ろに下がる。

 ナナシノが呆然としたように呟く。


「な、なんですか、これ……」


 それは――戦闘の跡だった。


 元々生えていたであろう木樹は根こそぎばらばらになり地面にまるで枯れ葉のように積み重なっている。

 地面には無数の亀裂が刻まれ、一種災害の跡のようにも見えた。破壊の範囲は先程見たエアー・ストリームよりも遥かに広く、もしも上空からこの場所を見れば強い違和感を感じさせられたことだろう。


「んー、全滅か……」


 いや、パトリックがエルダー・トレントと交戦していた時点で結果は決まったようなものだった、酷いものだ。


「全……滅?」


「いや、だってほら、あれさ……」


「!?」


 予想外の光景に視野が狭くなっていたのか。状況が分かっていないナナシノに、戦闘の跡、その端に転がっている人体の方を差した。ナナシノが小さく悲鳴を上げ、しかし直ぐにそちらに駆け寄る。


 広場のあちこちには光のオーブが落ちていた。ちょうど一番近くに転がっているオーブを拾い上げ、光に透かす。


「なるほど……こういうストーリークエストか。よくあるタイプだな」


 基本的にこういうゲームはプレイヤーを持ち上げるように出来ているものだ。NPCは無力な一般人役であり、こういった事態では為す術もなく負ける事が多い。噛ませってやつだ。エレナには是非見習って頂きたい。


 どうしていいのかわからずわたわたしていたシャロが、僕の手の中の光のオーブを見て、小さな声をあげる。


「そ、それ……」


「雑魚眷族のオーブだね。まぁ、元々の召喚士にしか使えないはずだけど、綺麗だし欲しいなら持ち帰ったら?」


「い、いや……いいです」


 シャロがブンブンと首を横に振った。


 ひびの割れた地面をサイレントがぺたぺた触れて調べている。いつも何を考えているのかわからないフラーもこの光景に怯えているのか、珍しく僕の後ろに隠れていた。

 這いつくばるような姿勢で、サイレントが頭だけこちらに向ける。


「地属性の攻撃魔法だ」


「エアー・ストリームが切り札だと思わせておいて、それよりも範囲の広いスタン付与魔法ぶち込んでくるのがエルダー・トレントの手口だからね」


 本当に嫌らしい敵だ。ひび割れた地面やらなぎ倒された木樹はその跡だ。

 パーティが安定していない状態――耐性のない眷族で食らうとパーティが崩壊してしまう。まぁ、大体レア度の高い眷族は耐性持ってるんだけど、攻略サイトも見ずに遭遇した初心者が良く悲鳴をあげていた。

 威力はエアー・ストリームと同じくらいだったはずだが、スタンを食らってしまえば手も足もでまい。


「パトリックが心配だな、主」


 NPCの無事なんて知らんわ。奴らもプロの召喚士コーラーなんだから、自分のケツくらい自分で拭くだろう。

 しかし、これは驚くべきことだ。


「逃げた跡があったから……逃げた振りをして戦場を変えたのか。油断させるため、か?」


 元々、アビコルの魔物のAIはかなり優秀だったけど、現実だと更に精度が高いな。


 あるいはそういうクエストなだけかもしれないが、厄介な相手である。

 パトリックとの交戦でスタンを使わなかったのも、それが理由だったのかもしれない。油断させておいて一撃で戦線を決壊させるため。

 上げて落とす。いかにもアビコル運営がやりそうな所業である。地獄に落ちろ。


 サイレントがもっともらしく頷く。


「霊種を舐めちゃいかんな。無駄に年食っていないぞ」


「怖いねー」


「ねー」


 サイレントと怖い怖い談義をしていると、倒れ伏した召喚士の頭を抱き上げ、様子を見ていたナナシノが高い声をあげた。


「ブロガーさん、この人、生きてますッ!」




§




 アビス・コーリングでプレイヤーは死なない。が、NPCは死ぬことがある。召喚士は召喚士でもプレイヤーとゲームキャラはまた別なのだ。

 だから、全員倒れていた時点で死んでいるんだろうと思っていたが、何を間違えたのかほぼ全員に息があった。アビコルは健全なゲームだが、それはあくまでエロ方面であって、グロは割と解禁されているので、これはそこそこ珍しい。


 重傷でまともに動くこともできず、生きているか死んでいるのか不明な者も何人かいたが、少なくとも脈があった。

 といっても、このまま放置していたらクエスト結果ウィンドウには行方不明者が十人も出たと表示される事になっていただろうが、幸いである。

 僕はNPCの命に価値を見出していないが、こちらにデメリットがないのであればあえて殺そうとも思わない。


 フラーに指示を出す。魔法を使える進化1アルラウネが順番に怪我人の間を周り、その手の平を頭に当て、最下級の回復魔法――アースヒール(小)を使った。

 HPをほんの少しだけ回復させるないよりマシ程度の魔法だが、人間相手にもちゃんと作用したようだ。完治まではいかないが、どうにか意識を取り戻す程度には回復出来た。


 これはいい実験結果が取れた。今度筋肉痛になったら是非掛けてもらおう。


 ナナシノが最初に起こしたおっさんの召喚士がげほげほと咳をして、こちらを見上げる。厚手のローブは泥で汚れ、今にも死にそうな顔色だったがどうやら死にそうにない。


「す、すまねぇ……油断した……」


 死ななくてよかったね。僕はせっかくなのでにこやかに対応した。

 ナナシノが生存確認してなかったら置いていってたぜ。


「まぁ、お互いさまだ。発見してくれたナナシノに礼を言うんだね」


 僕の言葉に、おっさんはよろめきながら立ち上がり、女神でも見るような目をナナシノに向けた。


「青葉ちゃんも……本当に、助かった。この借りは――必ず」


「い……いや、そんな……無事で、本当に良かったです」


 涙を浮かべ、ナナシノが見惚れるような笑みを浮かべる。多分こういう所が彼女が人の間に溶け込める理由なのだろう。

 僕はこんなところで感動的なシーンを繰り広げようとするナナシノの間に割って入り、さっさと話を進めることにする。


 ぬかるんだ地べたにうつむき座り込む者、眷族がロストした現実を改めて実感したのか泣き崩れる者、何をしていいかわからず呆然とする者、光のオーブを探す者。全滅した憐れな召喚士達を見渡し、大声をあげる。


「全員歩けるか? 森は危険だし、さっさと外に出たほうがいいと思うんだけど、反対者いる?」


 しばらく待つが、特に反対意見はないようだ。

 まぁ反対意見あったとしてもそいつを置いていくだけなんだけど。

 ロストしたのは可哀想だけど、前を見て生きればいいさ。どうせ碌な眷族でもなかったんだし、へーきへーき。


 満身創痍な様子でそれぞれ立ち上がる。パーティを組んで歩いていただけあって、全員顔見知りのようだ。

 それぞれ肩を貸し合い立ち上がるのを見て、空を見上げる。まだ太陽はてっぺんに輝いている、近くにエルダー・トレントがくれば予兆があるので直ぐに分かるだろう。


「まぁ、これだけ怪我人がいたら逃げ切れないだろうし、エルダー・トレントが襲来してきても戦うしかないけど……」


 そもそも、エルダー・トレントを追いかけていったパトリック達の結果も気になる。

 先行組のざまを見ればなんとなく結果は読めてる気もするが――途中で回収出来るのならば回収しておきたいし、エルダー・トレントと戦えるのならば戦いたい。まだ僕はレアモンスターのドロップを諦めちゃいない。


 僕の零した言葉に、おっさんが歯を食いしばり、押し殺すようなうめき声を出す。


「ブロガー……もしも、奴が現れて――どうにもならず逃げ切れそうになかったら、遠慮なく俺達の事は――置いていってくれ」


 こいつは何を言っているんだ?


 分を弁えないNPCの戯言を僕は鼻で笑った。

 アビス・コーリングのクエストはそういうものではない。ナナシノ達は逃げ出したらしいが、生粋のアビコルプレイヤーに逃走の二文字は存在しない。


 勝てないならばクエストを受けない。クエストを受けたのならば、覚悟を持つ。魔導石を尽く砕く覚悟を。

 エレナに挑戦するならばボーナスが入った直後、一択なのだ。


「勝算もないのにこんな所こないよ」


「お、俺達だって、勝算は――あった」


 おっさんNPCが興奮したように顔を真っ赤にして怒鳴る。


 そういえば、先行組といったが、どうして敗退とはいえ一度エルダー・トレントとの戦闘を経験したパトリックと袂を分かつことになったのか聞いていなかったな。ナナシノは報酬で揉めたといったが、普通そういうのは折半じゃないの?


 おっさんは僕の視線の色に気づき、力なく声を落とした。


「俺の眷族は……あらゆる魔術を封じるスキルを持っていたんだ。だが、奴には通じなかった」

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