第三話:ダンジョン攻略と魔導石

 魔導石は特定条件で得られる。

 一つ目はクエストをクリアした時。二つ目はダンジョンやフィールドを攻略した時。

 つまり、うまいことやれば一回のクエストで二個の魔導石を手に入れる事ができるのだ。


 二つ目の攻略というのはダンジョンやフィールドを最奥まで潜るか、もしもボスがいる場合はその討伐の事を指す。

 序盤のダンジョンやフィールドのボスは弱いので弱っちぃサイレントでもなんとかなるだろう。


 例によって安全策を取ることにした。フィールドの攻略はイレギュラー発生の確率が高いので止めておく。色々な条件を加味した上で僕が最初の攻略対象に選んだのは【暗闇の岩洞窟】だった。


 間違いなくアビコルで最も簡単なダンジョンである。階層はたったひとつであり出現モンスターは雑魚中の雑魚であるブルージェルスライムのみ。

 これならば負けようがないし、魔導石のストックも一個だけだがある。


 採取クエストはブルージェルスライム・コアの納品。ナナシノ曰く、あまりに簡単過ぎるのでなりたての召喚士くらいしか受けないクエストらしい。最高の依頼だ。


 満を持してクエストを受けに行った僕に、何時も僕が受けたクエストを処理してくれているゴンズさんは呆れた表情で言った。


「おいおい、ブロガー。ようやく雑用以外のクエを受けたと思ったら、今度はスライムコアか」


 文句を言われようが呆れられようが、意志を変えるつもりはない。


「ほっといてよ。今の僕はスライムコアを集めたい気分なんだ」


「……あのギオルギを倒した召喚士の言葉とは思えんな。ブロガー、わかっているのか? 今のお前は――シルバーランクの召喚士なんだぞ?」


 召喚士のランクはクエストをこなした数で決まる。鉄、銅、銀、金、白金と上がっていくが、長くやっているプレイヤーはその大体が最上のランクだった。

 ランクによって受けられるクエストが変わったり、いくつか特典があったりしたはずだが、さしたる意味はない。さしたる意味がないので忘れてしまった。


 ぐちぐち文句を言い出すゴンズさんに、僕の後ろからナナシノがひょっこり顔を出した。

 よく手入れされた長い黒髪に、ゴンズさんが目を少し大きく見開く。ここ最近は一人でクエストを受けることが多かったので、そのためだろう。


「すいません、ゴンズさん。私も言ったんですが、ブロガーさんがどうしてもって……」


「なんだ、青葉の嬢ちゃんも一緒に行くのか」


「はい。ブロガーさん、なんだかんだ初めての納品クエストなので念のため……」


 一端の口を聞くようになったじゃないか。強面の男を相手に引くことなく会話する様はもうプロの召喚士コーラーである。

 僕は表に出していないだけでいつも話しかける時に少し引いているのだが、ナナシノが順応性が高いと言っていたのは本当のようだ。


 ゴンズさんはじっとナナシノを見ていたが、大きく頷き言った。


「まぁ、青葉の嬢ちゃんが一緒なら、いいか……おい、ブロガー。あまり迷惑かけてやるなよ」


 んん? その反応おかしいだろ。ナナシノは銅ランクで、僕は銀ランクだ。僕の方が上なのだ。

 僕はしばらく考えて、ゴンズさんを指差し、あえて辺りに響き渡るような声で言った。


「このロリコンめ」


「なッ――」


 文句を言われる前にさっさと踵を返す。カウンターは安全性を確保するため、こちらのスペースとはガラスで区切られている。出てくる前にさっさとクエストに向かおう。


 ざまあみやがれ。ゴンズさんなんて、変な噂が流れてしまえばいい。

 大体、いつも馴れ馴れしいと思ってたんだよね。僕にもナナシノにも。召喚士に対する態度がなっとらん。


「あ、ちょ――ブロガーさん!?」


 取り残されたナナシノが慌てたように駆け寄ってくると、隣に並んだ。


 交渉だけでなく、ナナシノの格好は更にパワーアップしていて、僕よりよほど歴戦の召喚士っぽい。腰に巻き付かれた太く頑丈そうなベルトには以前見せたサバイバルナイフと水筒、革袋が下がっている。羽織ったローブも買った当初とくらべて日で焼けて汚れ、色褪せておりいい味を出していた。膝まであるブーツは完全防水で、湿地に行くなら必須アイテムだと自慢していたのを覚えている。


 ナナシノはもう十回以上討伐・納品クエストを受けているらしいので、経験だけならば僕より上だ。NPCとパーティを組んだ経験もあるといっていたし、頼りになるのは間違いない。

 が、さすがにゴンズさんの反応は不服過ぎる。お仕置きのために昨日から出していないサイレントがもし表にいたら同意しそうなところが更にむかつくわ。


 黙って歩いていると、二人と比べたらまだマシなナナシノが言った


「ブロガーさん、その……前から思ってたんですが。その、ロリコンって、やめませんか?」


「なんで?」


 ロリコンにロリコンと言って何が悪い。


 純粋な疑問にナナシノが少しだけ恥ずかしそうな仕草で言った。


「いや……だって私、その……そんなに、子供じゃないですし……」


 確かに、ナナシノは十代後半である。ちょっと身長は低めだが胸も相応に育っているし、生活力も下手したら僕よりある。アビコルに存在する数多ロリキャラと比べたら全然大人だ。


 だが、僕はそんな事を言っているわけではない。僕の目的はゴンズさんの尊厳を貶める事であり、ナナシノがロリキャラかどうかなんてどうでもいいのだ。


「ゴンズさん、多分もう四十近いし、相対的に見たら十分ロリコンだと思うけど」


「……いや、別に、ゴンズさん、私に変な目を向けたりしてませんよ?」


 確かに、ゴンズさんの眼差しは娘に向ける類のものである。強面だし、昔は犯罪とかしこたましてそうな面をしているが、今のところはまともな人間に見える。今のところは。


 僕は素直に謝罪した。


「悪かったね。確かにナナシノはちゃんと胸も育ってるようだし、ロリではないな」


「そうですよ。こうして、ちゃんと胸も――ってッ!?」


 ナナシノが自分の胸を見下ろしたところで固まる。その顔がみるみる赤くなっていく。

 女召喚士の服は(恐らくゲームの人気的な事情から)可愛らしいものが多く、ナナシノの着ているローブも身体、特に胸のラインが出るような構造になっている。

 ナナシノは若干天然が入っているのでかわいーとしか思っていなかったのだろうが、見せつけてるんだもん、そりゃ見るわ。


 顔を真っ赤にしたままナナシノが浮ついたような怒鳴り声を上げる。


「にゃ? ブ、ブロガーさん!? ど、どこ見てるんですか!?」


「いや、見てるだけじゃない。ナナシノ、押し付けてきたじゃん。ほら、こーこーに」


「へッ!?」


 二の腕を指差すと、ナナシノは完全にフリーズした。


 ギオルギのクエストをやった時の事だ。

 そもそも、ナナシノが僕を助けに来た時も抱きついてきたし、クエストの方に意識を集中させていたのであまり覚えていないが、感触もなんとなく記憶に残っている。


 ナナシノの方もクエストに夢中だったのだろうか……しかし全く記憶に残っていないとは思わなかった。

 立ち止まるナナシノに合わせてしばらく待っていると、震える唇でナナシノが言う。


「ど、どうしよう……もうお嫁に行けません……」


 おかたいねえ。今時そんなセリフを聞くことになろうとは。


「大丈夫。ナナシノならよりどりみどりだよ。よかったねー」


 せっかくフォローしてあげているのに、ナナシノの顔色は変わらない。湯だったように真っ赤な顔で聞いてくる。 


「む、無理ですよ。うぅ……もしお嫁に行けなかったら……ブ、ブロガーさんが貰ってくれますか?」


「ねぇ、ナナシノって姫プレイって知ってる?」


 男に貢がせるプレイの事である。今の言動を天然でやっているなら才能があるだろう。


 何でたぶらかして金貢がせろって言った時にできずに今やってくるのか。

 だが僕には耐性がある。無駄無駄ぁ。

 そもそも、アビコルではプレイヤーの性別を自由に選べるのだ。女キャラの比率が多いが大部分が中身男だ。ナナシノがネカマである可能性は否定できない。


 僕はナナシノを一笑に付した。


「残念ながら僕には無駄だけどね。ところで全然関係ないんだけど、もう一回僕の腕に抱きついて胸を押し付けてきてくれたらお小遣いをあげよう」


「むね――え……や、やらないですよッ!?」


 何だやらないのか……残念だ。ギオルギの財布からドロップした金を浄化するチャンスだと思ったのに。

 何事もなかったように歩き始めると、ナナシノが顔を真っ赤にしたままついてくる。


「サ……サイレントさんがいないと……勝てない」


 まさかナナシノはサイレントがいれば勝てると思っているのか。

 残念ながら半引きこもりゲーマーのメンタルは鋼なのだ。そうでなければとっくに孤独で部屋から出てる。


 ぼそぼそとナナシノがつぶやく。どうやら彼女は恥じらい深いようだ。


「でも……ブロガーさんも、その……ちゃんとそういうのに興味、あったんですね」


「まー可愛い女の子のグラフィック目当てでゲームやってたところあるし」


 そのせいで重課金者になってしまったのだ。

 古今東西、二次元三次元問わず、男というのは可愛い女の子に弱いものなのである。

 悲しい話だぜ。



§

 


 【暗闇の岩洞窟】は初心者用ダンジョンらしく、古都を出てすぐの場所にあった。

 人っ子一人いない草原のど真ん中に岩でできた洞窟があるのはひどく違和感がある。どういう理屈だよ。


 歩いている内に平常心を取り戻したナナシノが道具袋をがさがさやりながら言う。


「ダンジョンっていうか、何もない洞窟なので人なんていないですよ……。中入って十メートルくらいで行き止まりです」


「それは……好都合だ」


 別に僕は楽しむためにダンジョン攻略にきたわけではない。そもそも、洞窟にたどり着くまでで少し疲れてしまったのでさっさと終わらせて帰りたい。


「……ブルージェルスライムもなかなか出てこないらしいです」


「アビコルのダンジョンは最低一エンカウントだから大丈夫だよ」


 アビス・コーリングではダンジョンとフィールドには明確な差異がある。フィールドはランダムエンカウントなので魔物が一切現れない事もあるが、ダンジョンではどんなダンジョンでも最低一度は魔物と遭遇するのだ。そういう風に、アビコルはできている。


 ナナシノが僕の言葉にむっとしたようにこちらを見上げた。


「前から思っていたんですけどブロガーさん、現実とゲームを混同してません?」


 してるよ。だってこれはゲームだもん。少しばかり現実と混じっているが、今のところこの世界は僕の知るアビス・コーリングと大きく乖離していない。納得いかないのはログインボーナスくらいだ。


 僕はそれに答えず、呪文を唱えた。


「『召喚コール』」


 黒の光が溢れ、サイレントが呼び出される。僕は常にサイレントを召喚していたので、ほぼ丸一日という今回の送還は最長だ。サイレントは現れるや否や僕の方に飛びついていた。


「あるじぃ、ひどいよおおおおおお! あぶっ」


 それを、握っていたギオルギの杖で叩き落とす。べちゃりと妙な音を立てて地面に落ちたが、HPは減っていない。

 しくしく泣き真似をしているサイレントを足でぐりぐりと踏みつける。サイレントはぬいぐるみみたいな踏み心地がした。


「さぁ、サイレント。ダンジョン攻略に行くぞ」


「言ってることとやってることが違うよう」


「なんかサイレントって凄い踏み心地がいいよね。さすが『一単語の系譜ザ・ワード』だ」


「褒められてる気がしないよう」


「……何やってるんですか」


 【暗闇の岩洞窟】は、その名の如く真っ暗だ。全体が灰色のごつごつした岩で出来ており、内部からはぴちゃんぴちゃんと水の滴る音がした。

 ナナシノ情報では随分と浅いようだが陽光は入らず、入り口から最奥は見えない。


 サイレントがよろよろと立ち上がり、僕の身体によじ登ってくる。中に入ろうとしたその時、ナナシノが慌てたように言った。


「ブロガーさん!? 明かりもなしで中に入るつもりですか?」


「大丈夫だよ。サイレントは暗闇に耐性あがるし、僕はプレイヤーだから」


 アビコルではフィールドやダンジョンによって様々な特徴が存在する。フィールドエフェクトと呼ばれるものだが、暗闇のダンジョンでは暗闇耐性を持つ眷属でなければ命中率にマイナス補正がかかるのだ。

 だが、眷属には影響があるが、プレイヤーは死なないし暗闇とかも関係ない。


「だ、大丈夫じゃないですッ! もう! 大体、なんですかその軽装! ダンジョンを舐めてるんですか!?」


 なんだろう、ナナシノにだけは言われたくないんだが……。


 確かに僕は食べ物の一つも持っていないしナナシノのようにサバイバルナイフも持っていないが、強力なサイレントがいる。召喚士としてはよほど正常だ。


 ナナシノは憤ったように言うと、袋の中からスティックのような物を取り出した。


 それをまるで指揮棒のように揺らし、説教してくる。


「いいですか、ブロガーさん。眷属は頑丈でも私達は弱いんですから……ダンジョンやフィールド探索を行う際は事前の準備が不可欠なんですよ?」


「へー、そうなの。よかったねー」


 僕にとっての事前準備は魔導石だけだ。それがあればとりあえずサイレントはロストしない。

 気のない返事に、ナナシノが頬をふくらませる。


「もう! 大体、どうしてこんな真っ暗な洞窟に明かりもなしに入ろうとするんですか! 常識で考えてください!」


 常識が違うんだなぁ、きっと。

 ナナシノは一通り憤ると、まるで感情をぶつけるようにスティックを折った。折れたスティックが強い光を放ち始める。

 なんかどっかで見たことあるぞ、それ。アイドルコラボのイベントの時に使った記憶がある。


「こういう暗闇の洞窟では『懐中魔灯』か『スティックライト』を使うんです! ちゃんと準備しておくんですよ?」


「ナナシノは本当に順応するのが早いなぁ」


 一ヶ月でこれである。一年もすれば完全にこの世界に溶け込むんじゃないだろうか。


 ナナシノはライトを手に勇敢に前に進むと、僕の方を向いてニコリと笑った。


「いいですか? ブロガーさんは後ろからついてきてください」


「普通逆じゃない?」


「主は情けないなぁ」


「いいからついてきてください!」


 一言多いサイレントの頬を引っ張りながら、納得する事にする。 

 このダンジョンじゃ頑張ってもロストできないだろう。ナナシノのお手並み拝見といこうか。


 躊躇いなく歩みを進めるナナシノについていく。洞窟の中には強い水の匂いが漂い、地面が少し濡れている。

 感心しながら進んでいくと、すぐにナナシノが立ち止まった。


「ここが終点です」


「早いなあ」


 岩の壁を前に、ナナシノが振り向く。アイリスの単騎兵も振り向く。


 分岐もなければ迷いようもない。僅か数秒で初のダンジョン攻略が終わってしまった。

 小さくため息をつき、ナナシノが言う。


「だからつまらない洞窟って言ったでしょ?」


 ゲームのグラフィックからはわからなかったが、想像以上に狭い。


「魔導石が手に入らないなぁ」


「……こんな所で手に入るわけがないでしょ。ブロガーさん、魔導石って滅多に出ないものなんですよ? 才能がある召喚士程、見つけやすいと言われているみたいですが……」


 ナナシノがなんか言っているが、アビコルなら一クエストで一律一個手に入るはずなのだ。

 そこで、ぽんと手を打つ。忘れていた。


「魔物を倒してないから攻略完了になってないんだな。よし、サイレント。ブルージェルスライムを倒せ」


「……どこにいるんだ? 主」


 どこかにいるはずだ。そうでないと理屈に合わない。

 洞窟内部を観察するが、岩洞窟は狭く隠れる場所なども少ない。

 ナナシノが説明してくれる。ぼうっとしたライトで下から照らされたナナシノの顔は幽霊のようだった


「ブルージェルスライムは魔力の宿った水により自然発生する魔導生物です。魔力の強い地に湧きやすいので……この洞窟ではなかなかわかないようです。湿原には結構いるんですが……」


 湿原は蟹が出る可能性があるから行きたくない。

 そもそも、魔物とエンカウントしないダンジョンなんてあるわけがない。それはダンジョンと呼べない。


 首を傾げる僕にナナシノが諭すように言ってくる。


「ね? わかったでしょ、ブロガーさん。ここは現実なんです。何もかもをゲームと一緒にしちゃダメで――」


「お、いたぞ」


 サイレントの腕が伸び、天井から染み出すように現れたブルージェルスライムを貫いた。さすが奇襲値の高いサイレントだ。

 ナナシノが目を見開き、天井に縫い止められたスライムを見上げる。


「で? なんだっけ? ここではなかなか沸かないんだっけ?」


「……ブ、ブロガーさん、運がいいですね。私、ここでスライム見るの初めてです」


 やれやれ、これだから玄人気取りは。現実の経験値はナナシノの方が上かもしれないが、アビコルの事は僕が一番知っているのだ。


「サイレント、クエストクリアとダンジョン攻略報酬で魔導石が二つ手に入るはずだ。探せ」


「い……いやいや、ブロガーさん? 魔導石って滅多に出ないんですよ? 私は五個手に入れましたけど、こんな短期間でそんなに手に入るのは百人に一人の逸材って言われたんですから。こんな簡単な洞窟で出るわけが――」


「じゃー十個持ってた僕は二百人に一人の逸材かよ」


 召喚に魔導石が必要なのに魔導石が手に入らない世界とか、それはもはや育成ゲーではない。

 この世界の魔導石の扱いがどうなってるのか気になる所である。が、まずは魔導石だ。魔導石魔導石。


 サイレントがスライムから触手を抜くと、どろっとしたスライムの死骸が天井から落ちてきた。


 慌てて避ける。グラフィックで見るだけならまだしも、僕は虫とかも苦手なタイプなのだ。


 ナナシノは平然とした様子でかがみ込み、ぐじゅぐじゅしたアメーバのような死骸を至近から見下ろす。本当にもうこの子はたくましくなって……


「初心者用のクエストなので納品は一体分です。スライムは死ぬと柔らかくなるのでコアはスプーンとかでも簡単に取れます」


「マジか……」


 アイテムだけ残ったりしないのか。

 予想外だった。グロを見るのは別に構わないが触れたりするのは勘弁願いたい。スライムでも嫌だ。 


 ナナシノがスプーンのようなものを取り出し、青い半透明のスライムの死骸にそれを突っ込む。ぐるぐるかき混ぜると、その中央にあったビー玉のような物体を摘出した。


 手の平で転がし、僕の方に差し出してくる。手際いいなぁ。そっちの方に感心してしまう。


「やっぱり魔導石は入ってませんね。……まぁ、私がスライムから魔導石を見つけたのも最初だけでしたし」


 受け取ったスライムコアはひんやりとしていた。


「ブロガーさん、器は持ってますか?」


「見ての通り持ってないけど?」


「……はぁ。じゃあ、今回は私の使いますね。納品物はコアだけですが、スライムの体液も売れるので……」


 腰から試験管のようなものを取り出すスライムを納め始めるナナシノアオバ。まるで一人だけ別ゲーやってるかのようだ。

 もしかしたらもうサバイバルナイフで色々解体できるようになってたりするのだろうか、恐ろしい世界だぜ。


 そして果たして眷属のアイちゃんはそんなナナシノの事をどう思っているのだろうか。


 そんなことを考えていると、ちょこちょことあちこちを歩き回っていたサイレントが僕の方に腕を伸ばしてきた。


「主、見つけたぞ。二個……確かに二個だ」


「ああ、ありがとう。助かったよ」


 手の平に受け取った魔導石は二個。

 スライムの中からは出てこなかったが、どういう理屈かはわからないが、必ずしも採取対象から手に入るわけではないらしい。

 ともかく、手に入らなかったならばまだしも、手に入ったのならば何の問題もない。


「え? ええええ……? そんな事があるわけが……」


 魔導石をしまおうとした瞬間、ナナシノが食い気味に近づいてきた。ほぼ反射的に魔導石を握った手を上げる。

 僕の身長は平均的だがナナシノがちっこいので手を伸ばせば届かない。


「悪いけどあげないよ。どっちも僕のだ」


「見るだけ。見るだけですッ!」


 大体、人のクエスト報酬を貰おうなんてとんでもない人間だ。ナナシノがついてきたのだって、僕の方から頼んだ記憶はない。

 手を下ろし、開いてみせるとナナシノは大きく目を見開いた。


「た、確かに、両方とも……ブロガーさんの……魔導石……みたいです」


 誰のかも理解できるのか。便利のものである。呆然としているナナシノを置いてさっさとしまう。


 これで魔導石は三個。この調子で幾つかダンジョンをクリアすればすぐに元の数まで戻るだろう。






「同時に二個も魔導石が手に入るなんて……才能? それとも本当にブロガーさんの言うとおり……いや、でも――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る