連合国代表はじめました
連合国代表一年と三ヶ月
連合国司令本部。
ここでは今まさに、最終決戦のための会議が、各国の王が集まって行われていた。
「王よ!」
「お答えを!」
………長い月日のせいで俺は、この世界がつくづく常識外れであるという事実を、忘れていた。
「………帝国には、今攻めれば勝てるだろ」
「おお………!我らが王のお答えだ!すぐに伝えろ!!」
部屋の隅に控えていた司令官の秘書が頷くと、少しだけ雰囲気が弛緩したような気がする。
それぞれの国の王が、それぞれの思いを胸に、それぞれ違う表情で、戦地を案ずる会議室の熱気は、まるで戦場まで伝わっていくかのような激しさだった。
「これは………
どこかの国の王が漏らした言葉は、その場の誰もが理解している事実。突き刺さる現実の薄情さと夢幻のような勝利の酔いが感覚を麻痺させ、這い寄る恐ろしい二文字から逃げるために………。
連合国前線
会議室より、モニター越しの代表一年と三ヶ月と二日
「兵士よ聞け!」
緊張が高まる前線に、作戦の実行を受けた司令官の張り詰めた声がこだまする。その瞬間に、すべての兵士が顔を強張らせ、覚悟とともに見つめるのは、暁に染まる地平線の向こう側で、こちらと同じようにその時を今か今かと待ち兼ねているだろう帝国軍の影だった。
「貴様らが背負っているものはなんだ!?自分の命か!国の命運か!家族や友人か!………仲間の遺志か!何を思い戦地を駆ける!?何が為に声を上げる!?その手にあるのはまやかしの武器か!?それを肯定し、否定するならば、今こそがその時だ−−−ッ!!武器を取れッ………!己が信じたものの為に走れ、戦え、叫べ!闇を払い進め!夜明けは近い!暁の地平線に勝利を刻め!………行くぞ!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」
鬨の声が大地を割り、曇天を裂き、不屈の戦意が龍のように恐れを薙ぎ倒し、ここに、最後の戦いが始まろうとしていた。
時を同じくして、帝国軍側でも地鳴りのような声が湧き出ている。
何ものよりも雄弁に、その事実を語っているようだった。これは、戦争だと。勝利のために足掻く、兵士たちの闘いなのだと。
幾千の兵士が足を進める音が、重く大地を揺らす。それだけでなく、覚悟を決めた兵士たちの叫びは、風すらも脅かす。
「「「ゴー、ギンギー!」」」
「ゴー!!!」
それは開戦の合図。
連合国軍、帝国軍の両軍の兵士が疾駆する。
両手には虫取り網と傘の柄の部分。
謳うのは己が覚悟。
背中にはおんぶの形で捕まる仲間の兵士。
握りしめた決意は、左胸に。
切り裂くのは、背中の仲間の持ついもけんぴ。
頭には、同じく仲間が被せたヘルメット。
「「ギンギー!ギンギー!」」
兵士たちは、相手のヘルメットに虫取り網を被せ、その隙に傘の柄の部分で相手の脇腹を攻撃し怯ませ、相手の背中に乗る兵士の口にいもけんぴを入れるべく、それぞれの戦いを繰り広げる。その壮絶さは、過去のどの戦いよりも熾烈。うまく口に入らず鼻や耳にいもけんぴを突き刺しながらも、片手の虫取り網で縦横無尽にヘルメットを捕まえ続ける伝説の
「くっ!ヘルメットを取られた!」
「いやっ、まだだ!エッジ班早く!」
「「おおおおお!!!」」
「なにっ!?こいつらいくつ持ってるんだ!?このままじゃK-ブレイクするぞ!」
「恐れるな!我らの方が数は上!帝国軍に栄光あれぇぇぇぇ!!!」
………しかし!
数倍の数の差があったはずの帝国軍と連合国軍の差は、たった二人の活躍によって覆される。
「なっ、あいつ………!?指の間にはさんだいもけんぴを一本違わず口に!?あり得ない!このままでは押し負ける………!」
帝国軍の兵士をなぎ倒し、連合国軍の前線を加速度的に進めるのは、幾多の戦場を無傷で駆け抜けた伝説の兵士。ゴールデン・ヘルメット!そのヘルメットが虫捕られた事は一度もない!
連合国軍の士気が上昇したのは言うまでもない。
「ゴールデン・ヘルメットに続けえええ!今こそ我らの勝利を掴む時だ!」
すでにヘルメットを虫捕られた司令官が、何度も何度も相手の傘の柄の攻撃を受けて変な声を出そうになるのを抑えながら、上ずった声ながらも鼓舞する様子を見ていた周りの兵士の目が変わったのがモニター越しに分かった。
ゴールデン・ヘルメットの、ヘルメットの下のピンクのサングラスが閃いた瞬間に、十人の帝国軍兵士の口にいもけんぴがあった。
ゴールデン・ヘルメットは二人で一人。残像が残像を残す特注の虫取り網と特別製の傘の柄捌きに、あまりに高速すぎて、いもけんぴの砂糖が剥がれていくけんぴ捌き。
勝利は………近い!
連合国軍の誰もが確信しただろうその予感通り、そして奇しくも俺の投げやりな発言、
『帝国には今攻めれば勝てるだろ』
が、真実となってしまったのは、それから二時間の激戦の後だった。
戦場に倒れる帝国兵の口にはいもけんぴが。地面には無数の虫取り網と傘の柄が刺さり、そしてその先の丘には、明けの明星を背にしたゴールデン・ヘルメットの姿が。そのヘルメットは………無傷。
「美しい………」
誰の口から漏れた言葉か、或いはこの場で共にモニターを見ている国王達の誰かが発した言葉か。
だが、俺は、不覚にも、その通りだと思ってしまったのだった。
ふざけてんのか。
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