新任国王・箱入り緑

緑の草みたいなアレ王国

国王二十日目

俺は最近、ついこの間までアタリメが寂しく置かれていたあの玉座の上に敷かれていた。それも仕方のない事で、俺は緑の草みたいなアレにはアンバランスな顔と手脚を付けただけの身体だ。つまりどういう事かというと、俺は自由に歩ける代わりに、座る機能を失ったのだ。それもそのはずで、座るためのケツが無い。

あの神を、俺は殴っても文句は言われないのではなかろうか。

そんなこんなで、この国の国王は、数十人近くが跪く王の部屋で、荘厳な椅子の上に顔を上に向けて寝そべるしかできないのだ。そんな国王に国を任せ、やんやと騒ぎ続けるこの国の住人は、緑の草みたいなアレ的に頭が逝っていると言わざるを得ない。

もうやだこんな国。





国王三十二日目

今日は隣の国の使節団が俺に挨拶をしにやってくる。これで他の国からの客は数件目だが、俺はもうこの世界の人間や亜人………いや、お摘みが、どんな輩かを分かっている。

一昨日謁見に来た国は、「トップオブザシウマイビーン王国」だったか。シウマイの上のってる嫌われ者のアイツを信仰する奴らの国である。

昨日の国は、「刺身の下に敷いてある白いアレ王国」のはずだ。刺身の下に置いてある白いモヤモヤしたアレを神格化した国である。

他にもいくつかの国が俺の元に頭を下げ、をしに来て、確信する。


この世界の人間は頭のネジを全部抜いて中にあんこでも詰めてるに違いない。


「陛下、伝令です………そろそろ、だそうです」

俺の秘書(のはずだ)が玉座の前に膝をついて(いるだろう)報告をしてくれる。こうも不明瞭なのは俺はこの椅子に座ってから、起こしてくれる侍女さんと謁見する国の人たちの顔しか見てないからだ。

身構えるも何も、俺は天井を見るしかない。ただぼうっとして時間を過ごしていると、 がこん、と扉についている大きなノブでノックされる音が聞こえる。

「………入れ」

俺の声は真上に届く。玉座から離れている扉へは、俺の側にいた秘書の人がその内容を伝えにいく、というのが、緑の草みたいなアレ王国の通例と化した。この国の人間はみんなこいつみたいな奴ばっかだと思うと、緑の草みたいなアレのトゲトゲが痛む思いだ。

「失礼します、閣下!」

声を揃えて言われたのに、侍女が身体を起こしてくれる。

口はあるが、噴き出すものがない俺ですら、盛大に噴き出してしまった。

「この度は、我ら『いもけんぴ王国』、ご挨拶に伺った次第!是非そのお耳に我らの愚説が届くよう!」

なぜって?

いもけんぴ王国と名乗った奴ら数十人が、鼻の両方の穴にいもけんぴを指して、ブリッジをしていたからだ。

いや、その前に、いもけんぴ派国まで作ったのか。手配が早すぎるだろ。

「して侍女よ。あの奇行は?」

「あの気持ち悪い格好は、ゴミを神格化した〇〇○の伝統的な挨拶………ああいえ、失礼しました。挑発行為にございます。奴らをこの部屋に入れるなとあれほど言っておいたのですが………奴らめ、手を回していたのか忌々しい」

………なるほど。

ツッコんだら負けだろう。




『いもけんぴ王国』、来訪

「それで………陛下にお伝えしたい事とは、すでに陛下もご存じだとお聞きしております」

いもけんぴを鼻から抜いて鼻血を出しながら、口の周り血だらけで言ったのは、いもけんぴ派の国王だった。緑の草みたいなアレが言うのもなんだが、国王ってなんだっけ。

「ああ。分かっている」

そう、俺は分かっていた。いもけんぴ派がなぜ今こうして頭を下げているのかを。

「この世界一の大国と名高い、あのベンギエイル帝国との戦争のために、陛下に連合国代表になっていただきたいのです」

この国王が言っている、帝国。今までの例から言って、ごくごく普通な帝国だと、初めて聞いたときは感動したものだった。

しかし。

この帝国。国内の“椅子”と名のつくものすべてが、洋式の便器になっているというのだ。そして、トイレが存在しない。ではどこで?簡単な質問だ。椅子の代わりに座っているものがあるじゃないか。

そんな国と戦争したくない。

「しかし、世界経済が帝国の事業によって、帝国に牛耳られている状況はなんとしてでも打破しなければなりません。このままでは、帝国以外の国々が、帝国の傘下になる日も近いかと」

そう。帝国は大きくなりすぎた。

帝国を統べる皇帝が、「もう国外に支出するのやめようぜ」と言えば、帝国に従属する事で持ちこたえてきた種々の国が完全に帝国に統合されてしまう。

均衡が崩れる。

緑の草みたいなアレ的にも、阻止すべき事案に見える。そのために考え出されたのが、という手段。

「是非とも、陛下こそが、我々の勝利を刻むつるぎとなるのです!」

両手の指の間に、計六本のいもけんぴを挟んで、天高く手を挙げ熱弁する国王。その後ろに控えるいもんけんぴ派も、手こそ掲げていないが、いもけんぴを挟むポーズを取っているのが分かる。

俺は気にしないことに決めた。

理屈は分かるが、その連合国代表に選ばれたのが、なぜ俺なのだろうか。まさか、これもあの神の仕組んだ結果というのか?

そこで思い出した。俺は国王になってからあの部屋に戻っていない。それもそのはず、ほぼ一日中玉座のある王の間にいるのだ、戻ればそれだけで問題になる。

なぜ?と侍女に尋ねるのだが、

「いえ、それは不可能かと」

「どうしてだ?」

すっ、と侍女が取り出したのは、一枚の紙切れだった。

「これ、連合国代表の同意書なのですが………王が寝てる間に、王の手形をとっておきましたので、事実上、既に王は連合国代表でございます」

………俺って王だよな。

すると、前の方からヒソヒソ声が聞こえてきた。いもけんぴ派のやつらからだ。

「なあ、あんな緑の草みたいなアレでよかったのか?シウマイビーンもいるだろ」

「バカお前、歩って喋るシウマイビーンがどこにいるんだよ。でもアレを見ろ。歩って喋る緑の草みたいなアレが国王やってるじゃねぇか。これほどなすりつけて心が痛まない相手はいないぜ?適当に御いもけんぴを渡してれば機嫌取れるだろ」

「それもそうだな!」

「勝ったな、ガハハ!」

………丸聞こえですよ、その国王に。


神といい、こいつらといい………俺、ふつうの緑の草みたいなアレに戻りたい。


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