サクセス・グリーンライフ!
音愛
カミサマ代行のいろは
弁当の中に入っている、緑色の草みたいなアレ。一度は目にした事があるだろう。一秒でも興味を持った事は?自分で言っておいてなんだが、自分の名前すら分からないこの俺、緑の草みたいなアレから言わせれば、興味を持たれる要素を持っていない。だから、何の感慨も無く捨てられていく事に、俺たちは諦めがついている。というか、弁当の食べられない部分にいちいち感傷していてはキリがないと言うものだ。所詮俺たちは脇役なのだ。脇役は脇役なりに、身を潜めて静かにお暇しようじゃないか。
こうしてゴミ箱へまっしぐらな俺の人生………おっと、緑の草みたいなアレ生は、こうして終わりを告げようとしている、それに身を委ねようではないか。
誓って言うが、俺はこの一週間もない緑の草みたいなアレ生に悔いは無い。悔いを抱けと言う方が無理な話だ。俺たちには喋る口もなければ、愛を表現する身体も、物を掴んで使う手も、地面を踏みしめて思いっきり走る脚も無い。それに、願う頭も無いのだから。
グッバイ、俺の短い緑の草みたいなアレ生。
ハロー、無機物のあの世。
「ねぇ、そこのキミ。今カッコつけてた緑の草みたいなアレだよ!聞いてんの?……おい、この寛大なボクにだって怒るアタマはあるんだぞっ。聞いて!話を!」
………どっかから声がした。俺は仕方なく返事をしてみる。
「何か用か?」
「そう!キミに用があるんだ。いい話、聞いていかない?タダだよ、聞くだけなら」
「結構です」
こういう話には穴がある。それに、緑の草みたいなアレの声が聞こえる時点でロクでもないに決まってる。どうせ、ホイホイついていった後で、残念でした!緑の草みたいなアレに食わせるタンメンはねぇ!とか言われるのがオチだ。
そう思って、ゴミ箱のベッドに身を沈めたのだが………。
「キミ。後悔してないとか言って、理不尽に思ってるでしょ?どうして、一週間も経たないくらいしか役に立たない自分に、考えるココロが与えられたのかって。ホントは、世界に不満を持ってるんでしょ。どうして、こんな自分に自我があるんだって。実は」
そしてその声はこともなさげに。
「それ、ボクがやったんだっ。理由?理由はね………キミに、カミサマをやって欲しいからなんだよ」
そして、俺は、拒否権すら無く、やたらテンションの高い声の主人に言われた通り、カミサマとやらを代わってやる事になったのだった………。自分で言っておきながら訳が分からないが、仕方ない。こういうのは、運命なのだから。
「ようこそ、神の世界へ!」
緑の草みたいなアレを代表して、俺は、どこかの世界の神になった。
一日目
「キミには、第五十三世界の監督をしてもらいたいんだ。ボク?ボクはほら、あれだよ。いろいろやる事があってね?決して、カミサマがめんどくさくなったから、ココロが痛まないようなその辺の無機物に自我を付けて、それをカミサマにしちゃえとか思ってないから!じ、じゃあね!」
と、神とやらはそんな事を言っていた。
要は、厄介ごとを押し付けたのだろう。
煮え切らないモノを抱え、何だが分からないまま俺は今、神がそれまで使っていたという部屋にいる。
「………どうせなら人の姿にしてくれればよかったのに」
俺の今の姿は、緑の草みたいなアレを人間大のサイズにして、ゆるキャラみたいに両目と口、耳に手足をつけたザ・やっつけ作業。確かに手も脚も願ったのだが、それにしたってこれは無いだろう。
子供が絵に描いたみたいな丸い手、
「………世界に降りて神の力を使って事件を解決。もしくは、この部屋の『カミサマリモコン』で神の鉄鎚を加える……で、下界の様子はそこのモニターで見える、と。うっわでっか!目チカチカす………って、このために目でっかくしたのか?……あの神。でもまぁ、やることは単純だし」
部屋の外には出られない。その代わり、扉を開ければ下界の好きな所へ出ていける。
モニターには、世界が危なそうな事件が起きそうな場所が、それとなく四つに分割された画面でなんとなく映っていた。大丈夫なのか、これ。
神は言った。
「この世界はね、今、いもけんぴを信仰する一派によって、アタリメ王国が危機に陥っているんだ。いや、ふざけてないから!ホントにそういう世界があるから!……だからキミは、いもけんぴ派とアタリメ派に特に注意して欲しい。頼んだよ!」
アホか。
いや、緑の草みたいなアレが神をやっている時点でこの世界はロクでもないような気がするが、砂糖まみれのジャガイモの菓子を信仰する奴らがお摘みのイカの王国に反逆しようとしてる時点で俺はキワモノを押し付けられたような気がしてならない。それに、俺に神の役職を任せた時のあの声といったら、笑いを堪えているように聞こえた。
ーーー全く、神に転生できて、ついているのかついていないのか。
二日目。
今日は初めての神の仕事がやってきそうだ。
モニターの奥では、二人の男女が言い争っている。
『あんたに何が分かるっていうんだ、砂糖の塊が歯にベトベトくっついてウザいあのゴミを信仰してるあんあらに!』
アタリメ派の女が叫ぶ。あんたらも大概だと思うぞ。
『はーぁ!?てめーら、生臭いイカの干したのを国王にしてるヤツには言われたくねぇな!?』
アタリメ国王だったのか。砂糖菓子を信仰してるあんたらも同じような立場な気がするんだが。
『ああん!?』
『おめどこ中だよゴラァ!?』
………あれかな、中学生なのかな。
とにかく、ここは緑の草みたいなアレ的に見過ごせない。
ええっと、リモコンにはなんて書いてあるのか。
『神の鉄鎚その一。カミサマは見た!ジャングルの奥地に潜む謎の影!』
『神の鉄鎚その二。スクープ!第五十三世界のカミサマと第八世界の熱烈不倫!取材班は捉えた!?』
『神の鉄鎚そ』
俺はリモコンを見るのをやめた。
………仕様がない、あそこに降り立とう。
俺は扉をそっ、と開けてみた−−−。
三日目。
俺はついに異世界に降り立った。
その世界は、絵本の中に出てくるみたいな王国の様子を呈していた。人間だけではなく、擬人化した枝豆や煮干し、魚人やハッカ人などが街を闊歩していた。多分この世界の創造主はお摘みが好きなのだろう。
慣れない手足でてくてく歩いていくと、しばらく先に、昨日モニターで見た二人の男女が見えた。何故昨日なのかというと、カミサマ時間は現実時間より一日早くなっているらしい。つまり、あのモニターはカミサマ時間的に過去の話を見通している訳だ。ただ、現実時間的には何の利点にもならないので、正直、カミサマ時間とか作ったやつは頭が悪いだろう。扉からは、モニターで指定した場所に行けるのだから。緑の草みたいなアレに頭の良し悪しを言われる時点で、もう神の世界とかまともなやつがいないような気がしてきた。
っと、もう俺の声が届く範囲だろう。
「争いはやめたまえ。君達が争っている間に、世界では尊い命が失われていっているのだ!君達はくだらない事で争っていていいのか!?いや、良くないはずだ!」
神っぽい事を神っぽく大仰な手つきで言っているのは、ただの大きい緑の草みたいなアレだ。シュールすぎる。
しかし………。
「はっ、あ、貴方は!?」
アタリメ派の女が顔面を蒼白にして叫ぶ。頭おかしいのかな。
「ま、まさか………世界に危機が訪れたその時君臨すると言われている『裁定者』!?」
いや、何だよそれ俺緑の草みたいなアレだぞ。
『み、緑の草みたいなアレ様!?』
………もう、ゴミ箱が恋しい。
十五日目。
大変な事になった。
三日目のあの場所を何とか収めたはいいものの、つい数分前まで口論していた男女が仲良く俺を担いで、緑の草みたいなアレがいかに偉大かを説いた歌を大声で歌いながら街中を走り回った挙句、アタリメ国王に謁見を申し入れた。それだけならまだしも、アタリメ国王が、まぁその名の通りただのアタリメで、その身の数十倍くらいある玉座にポツンと一つ置かれているだけ。その国王(アタリメ)には謁見される顔も口もないために、顔も口もある俺が国王になってしまった。なんだその三段論法は………。
これにて、いもけんぴ派とアタリメ派の十八年に渡る激しい戦争は終結し、国中が食えや踊れやのお祭り騒ぎ。そして、一週間の創立祭を毎年の恒例行事に約束され、「緑の草みたいなアレ王国」が設立された。
国王は思う。
もうこんな世界早く滅びた方がいいのではなかろうか。
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