少年期

大人の真似する子供

 祖母と話していた。祖母がおこづかいをくれると言った。幼い私は母のするように遠慮のポーズをとった。子供は素直にくれるというものをもらうものだと祖母は私をたしなめた。結局おこづかいをもらったのかどうかは記憶に残っていない。


 あるとき、保育園からの帰り道で母が言った。もしもお父さんとお母さんが離婚したとしたらどうする? 私は迷いのしぐさを見せず、自分は長男だからお父さんのところに行くと言った。これは父への愛着もあっただろうが、根拠としている長男だからというのは、大人の話から知った価値観だったに違いない。


 子供のころに大人の真似をするという経験をもつ人は少なくないのではないかと思う。私もそのように子供の時期を過ごした。次第に大人の真似をする私が私であるような周囲の認識が形成されたように思われ始める。私というキャラクターが出来上がっているような気がした。しかし、このキャラクターは私自身ではなく、私が大人を真似している姿に由来して、私の本当の欲動は封じ込められた。自分のほうからは周囲の空気によって封じ込められたように感じられたが、そのようなありもしない空気をひとり感じ取っていた私自身によって封じ込めていたのに違いない。

 しかしこれを訂正することは難しく、本当の欲動をおもてにすれば、これまでの自分との整合性がとれない。私は大人の真似をする自分を引き継いでいくよりほかに道を見つけることができないまま、成長していった。

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