少年期
大人の真似する子供
祖母と話していた。祖母がおこづかいをくれると言った。幼い私は母のするように遠慮のポーズをとった。子供は素直にくれるというものをもらうものだと祖母は私をたしなめた。結局おこづかいをもらったのかどうかは記憶に残っていない。
あるとき、保育園からの帰り道で母が言った。もしもお父さんとお母さんが離婚したとしたらどうする? 私は迷いのしぐさを見せず、自分は長男だからお父さんのところに行くと言った。これは父への愛着もあっただろうが、根拠としている長男だからというのは、大人の話から知った価値観だったに違いない。
子供のころに大人の真似をするという経験をもつ人は少なくないのではないかと思う。私もそのように子供の時期を過ごした。次第に大人の真似をする私が私であるような周囲の認識が形成されたように思われ始める。私というキャラクターが出来上がっているような気がした。しかし、このキャラクターは私自身ではなく、私が大人を真似している姿に由来して、私の本当の欲動は封じ込められた。自分のほうからは周囲の空気によって封じ込められたように感じられたが、そのようなありもしない空気をひとり感じ取っていた私自身によって封じ込めていたのに違いない。
しかしこれを訂正することは難しく、本当の欲動をおもてにすれば、これまでの自分との整合性がとれない。私は大人の真似をする自分を引き継いでいくよりほかに道を見つけることができないまま、成長していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます