第22話



「貴様が持って良い力では無いだろう、それは」

 ここまで平静を保っていた盲者は、少女を守るように現れた影を見て激しい憤怒に顔を歪めた。

「下賎な死者に与えられるべき物では無い、誇り高い剣士の影を汚したな!」

「影が僕に与えた力は他でもない、アリアナ彼女自身の意志だ」

 男が獣のように唸り、少女へ赤い刃を持って襲いかかる。

 黒い影に導かれるままに少女が剣を振るうと、赤い刃は霧のように一瞬で搔き消える 。

 男は眉を歪めると素早く懐から鉄の短剣を取り出し、少女の心臓目掛けて投げやった。

 自ら目掛けて飛んでくる鉄の塊を氷塊で防ぎ、男の身体を袈裟斬りにするよう剣を振るう。

「元盗人に小競り合いで勝てると思うなよ」


 一瞬間を置いて、男の身体がゆっくりと崩れ落ちる。少女が剣を見ると影は跡形も無く消えていた。

 荒い息を整えようと地面に座り込むと、道化師が少女の千切られた腕を持って歩いてくるのが見えた。

「腕………………」

「まだ間に合うかもしれない、じっとしていると良い。道化師はおよそ万能だから治癒魔法だって使えるんだ」

 一呼吸おいて道化師が片膝をつき、少女の隣へしゃがむのを眺めていた帽子は唸るように声を上げた。

『戦いはなんとかなったが、わからない事も多い』

「何故王が血族を討たなかったか」

『アイツは何故こんな所にいたのかもわからない』

 帽子の言葉を聞いて道化師はふと動きを止めた。

「ああ………………もし、もしかしたらの可能性がある。でも…尖ってない。面白くない冗談のようだ。けれど…」

『なんだ、早く言え』

「彼は玉座を狙ったんじゃなくて、玉座に選ばれた所だったとしたら?

 次の王が玉座に座したなら………それは多分、またこの世界は終わり続けるって事だ。国は永遠に不滅だが、命も永遠にそこには無い。死者だけの世界だ。変化が無い世界の為に王が引き継がれるなら」

 重い沈黙が暗い地下の中で流れた。

「次の王が選ばれるのはいつかわかるか?」

 少女が沈黙を破り声を上げる。

「余り時間が無い事は確かだと思う」

「なら今から確かめに行く」

 少女の言葉に帽子が目を見開く。

『王と謁見するとでも言うのか、お前は』

 頷く少女を見て『愚かな英雄気取りだ』と笑う。

 だが帽子はその行動を否定することは無かった。

 ただ、道化師の方を向き『王城に進むまでの道を教えてくれ』と静かに言うだけだった。



 結果的に道化師は二人を王城に向かわせ、自分は市街地に戻り新たな人を探すことになった。

 二人の背が見えなくなるまで手を振って見送り、それが終わると小さくため息を吐く。








「………この所業の理由は選定か、我が王よ」


 道化師の声は、地下水路の闇の中に溶けて消えた。

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