孤児院に置かれた日誌 最終巻
第三紀287年 賃金の月1日
ここでは姫君である必要は無いし、1人の働き手としてやっていける。本来ならあと一年城で勉強してさえいれば女性のふりをする必要は無くなる筈だった。その時が早まったのは正直喜ばしい。
仕事内容は朝に井戸から水を汲む事と教会を綺麗に保つ事以外に、道化師や剣士達に魔法を教えることも含まれた。
剣士達は市街地から生きた人を保護し、私の妹を救う為により強い力が必要だった。道化師は単純に私の使う魔法を気に入っただけのようだが。
これらの理由から私は彼等に王宮で学んだ魔法を教える必要があった。要点を抑え、丁寧に説明すると彼等は私の頭を撫でて夕食を増やしてくれた。しかし私は夕食が増えようとそうでなかろうと彼等にそれを教えただろう。
これが私の役目であり、義務だからだ。
第三紀287年 賃金の月13日
今日の熱は酷かった。私の病気は病気であって病気ではないのだと思う。
父が禊になり、全てを良い方向へと変えたあの日から父が父ではなく王となったように、私も私ではない別のなにかになる為の準備が必要だった。
少なくとも、もう人には戻れないのだ。私も、妹も、父も。
死者の呪いは私にも与えられたのだろうか?
アヴィオールは市街地と同じように破壊と混乱の渦に巻き込まれつつある。
道化師は私を生かそうとするが、それも難しいだろう。
第三紀288年 軍神の月17日
道化師は死んだ。私が呪いに侵され、亡者として蘇り二ヶ月も経っていた。漁村へ歩いた時に1人の亡者にやられたのだ。敬愛した道化師が。
私を外へと連れだし、私を私で無くした彼が。
教会を離れるのは危険だ。我々はここに留まらなければならない。大丈夫、全て上手くいってる。
第三紀288年 豊穣の月3日
剣士達が帰ってこない。いない。いない。どこにも。私の役目は?仕事は?義務は、私はもう姫にはなれない。王子にはなれない。人にはなれないのだ。何になれば?愛しい人々を守る為に、次は何をすれば?いない。剣士達はいない。道化師もいない。私がいない。父はいない妹はいない人々がいない。誰かが戻ってくるだろう。そうですよね?我が父よ。
第三紀289年 血命の月3日
私は私でない、別のなにかにならなければ。
覚悟を決める時だ。最早狂気を恐れる必要もない、私が狂気となったからだ。私は市街地の人々を守ろう。狂った亡者供を刺して、刺して、刺して、刺して、そうしたら刺して、刺すんだ。燃やしもする。私は私の中に。
そうして、全てを変えるべきなのだ。
第三紀295年 浄罪の月12日
古い日記を見つけ、我が王に事の顛末を伝える為に文をしたためる事にした!
教会では道化の服を手に入れた。驚く程クラウに良く似合ってる。
市街地に残った人々は全て孤児院に避難させた。
最初に城を出てからどれくらい経ったんだ?わからない。哀れなクラウはなにもわからない。でもだから道化はしあわせなのだ
第三紀295年 浄罪の月19日
毎晩おてんき、市街地には亡者ばっかりでもうやだやだ!クラウが昔父と語り合うように、小さな愛しい子に手を出してやると小さな子は逃げて、すぐに戻ってきた。素晴らしい休息のいちにち!
私の全ては市街地を、愛しい人々を守る為にある!しかしそんな道化にも、哀れな間抜けなピエロにも休める為の場所が見つかったのだ!そしてこの聖地は何者にも穢されることはないだろう。
何故なら私はクラウ。道化はおよそ万能なのだから!
第三紀295年 収穫の月24日
クラウは行かなければ。城壁の外から人が来たのだ。お客さん!なんてすてきな響き。
でも孤児院のみんなを傷つけたら容赦しないよ。
そう、なにかがおかしい。それでもクラウは市街地の番人!私は父の子ではなく、これからも絶対に人にはなり得ない。
クラウはお客さんを歓迎しなきゃいけない。
夜が明ける頃には市街地に着くだろう。
私は笑うが、笑わば笑えと、道化はそう思う。そして光の娘や、王や、市街地の全てがうまく行ってくれるように願うのだ
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