王宮に置かれていた日誌 第一巻


第三紀286年 軍神の月26日


日々変わらない王城での生活をより明るく健やかな物にする為に、今日から日記をつけることにした。

王城にも書記官や年代期編者などはいるらしいが(私は叔母に連れられた聖祭で一度目にした程度だが)城や市街地で起こった重要な出来事や季節の区切りを形式ばった形で記録するだけでは王への冒涜にさえ感じられる。


この日記は私の父、フラム2世に自らの剣と命を捧げた、1人の人間の個人的な記録だと思って欲しい。



第三紀286年 軍神の月28日


宮廷画家がなにか大作に関わっているようで、中庭から追い出された為自室に籠もって本を読む事にした。いつか役に立つと王室教師から受ける授業は退屈な物ばかりだが、これも父の期待に応える為に必要な物なので仕方がない。

王が禊になり、幾ばくかの月日が経つ。

家と心と、かつての仲間達を奪われた魔女達は敵であれ同情せざるを得ない


土地は王が手にしたが、最愛の姉妹の魂が永遠に父の傍にあり続けるように、彼女達の心も私の夢の中で生き続ける。



第三紀286年 豊穣の月3日


賓客をもてなす立食会が開かれた。ずっと立っているのは退屈だったが、新しい友の援助は確かに此方にとっては有意義な物だったらしい。

城門の前の冷えた空気は私の肌に合う。近衛兵があまり城の外に出るなと騒ぎたてるが、敷地内にいるのにあまりにも文句が多い。市街地にすら行った事がないのだから好きにさせて欲しい



第三紀286年 豊穣の月6日


王に陳情を述べに来た者がいた。それ自体は良くあることだったが、客そのものが私にとって初めて見る、物珍しい民だった。

ルーンと名乗ったその黒い帽子は、元はかの悪虐たる魔女の所有物であったらしい。結果、彼の陳情は受け入れられた。

何とも不可解な運命のいたずらが彼に王の力を授けたのだ。だが、聖騎士達にすら名乗ることの憚られる傲慢の証に一体誰がなれるのだろう?




第三紀286年 太陽祭の月15日


王国は美しいまま。私は城の中のまま。英雄は現れないまま。




第三紀287年 血命の月15日


魔女の報復が始まった。街は血に飢えた亡者が溢れている。死の呪いだ。恐ろしい死の呪い。私もいつかああなるのだ



第三紀287年 収穫の月2日


王の力を借り魔女の死の呪いに対抗するべく血脈に連なる者達を呼び出した。そうして余計に街は腐っていく。王の力が、使い方を違えただけで世界を破壊していくのだ。こんなにも悲しいことがあっていいのか?然し、私はまだ死んではいない。

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