第4話

「う…………………………………………」

『なんだ、やっと目が覚めたのか?狗の事は覚えているか?』

「狗…………?っていうか、ここどこだ。墓場でも獣がいた道でもないよな」

『お前が倒れている間にどこかに運ばれたようだな。王からの褒美とでもとればいい』

「一本道か……野宿してた場所に戻って休みたい…身体中ボロボロになってきたみたいだし」

『ま、歩くしかないだろ。もしかすると今日の宿が見つかるかもしれないぞ』



「ここになら生きてる人はいるのかな」

『ここも今迄いた所も、お前みたいな奴は時々いた。でもまぁ、大体の者達は心を喪い発狂してるな。今迄も何度か倒した事があっただろ』

「………………そうゆう奴を殺してやるのも英雄の仕事だ」

『然り。

 王国は衰退した。王と騎士達に倒された者達の呪いは形を持って辺りに巣食っている』

「なら、呪縛を解放してやるんだ。英雄ならば救済するべきだよな」

『然り。今は正気を保った人々も、幾度目かの夜が明けた時に心を喪うだろう』

「その時は、僕が」

『然り、然り、然り。それが英雄ならば』

「それが…………あ」


『やっと着いたみたいだな』

「ここ暫くずっと野宿だったからな!やっとふかふかの布団で眠れるんだ……!

 …お邪魔します……えっと、カウンターはここかな?崩れててバランスが悪いな」

『落ちぶれた騎士や盗賊が奥にいないか見てからにした方がいいんじゃないか?』

「あっ、戸棚の中に薬がある!!!見ろくろいの、薬!薬だぞ!!!!!!やったぁ!!!これは拝借して行こう」

『お前が盗賊だったか…』

「失礼な。勇者の特権だろ、民家から物品を拝借するのは…………ん、あそこにちょうどいい机があるな。あそこに宿代は置いていけばいいか」

『そういった所は律儀なのにな。まぁどうせ主人のいない宿だ。好きにしたらいい』

「うん。金も他に使い所は無いし、こうゆうことはしておかないと、人らしさを忘れる気がするんだ」

『お前もそうゆうことを気にしたんだな…』





『部屋を見るとするか』

「うん、薬はいつ使えばいいかな」

『いざという時に武者震いを止める為に使えばいいさ、お嬢さん』

「その言い方やめて!…ねぇ見て、水浴び場もあるみたいだ」

『ぁあ、随分と泥だらけだし、血塗れだからな。汚れを落としていこうか』

「あ、いくら僕の裸が美しいからってあんまりジロジロ見るんじゃないぞ」

『何度も見たし見飽きたからな…………おいやめろ!ごめんなさいごめんなさいその汚いゴボボボボボボボ』

「クソ帽子をドブにたまった汚水で洗ったら多少はマシな中身になると思うんだけどなぁ」

『………………』

「…よく考えたら僕が後で被るんだった……水浴び場で洗ってあげよう、うん。僕はなんて優しいんだ!」

『なんて英雄だ…………………おま

「ちゃんと口と目を閉じてないと水入るよ」

『ゴボボボボボボ!ボボボボボボ!ボボボ』

「あーーー…………………」







「布団!布団!ベッドー!」

『帽子かけもあるぞ!気が利いた宿だ、よっと』

「『は〜〜〜〜…………」』

「とりあえずひと段落だね」

『明日はどこに行くか考えてあるのか?』

「どこに…………って言われてもな。急に知らない場所で目が覚めたんだ。できれば人がいそうな方に進みたいけど」

『なら城を目指すべきだろうな』

「城ってどこにあるの?」

『北西の方だ、ちょうどそこの窓から見えるんじゃないか?』

「んー…本当だ。大きな城壁が見えるし、とりあえずあそこに向かって歩いて行こう」

『ぁあ、だが今日はもう遅い。そろそろ寝た方がいいんじゃないか』

「そうだね、おやすみクロ坊」














「クロ坊。まだ起きてる?」

『そもそも私もお前も眠らないだろう』

「わかってるけどさ…」

『で、どうした?』

「うん、あのさ、クロ坊はなんでも知ってるよね。狗の事とか、先の城の事とか」

『そうでもない。私は知らない物は知らない。遠く、私達に辿り着けないような世界やそこで生きた住民達の事。皆が知らない事は私も知らない』

「でも、僕が知らない事を沢山知ってるんだ。いつものことといやそうかもしれないけど」

『そうだったのか』

「だからさ、君にはさ、僕の事、全てを知っておいて欲しいんだ。知らない事があるならなんだって教えるから」

『?なんでだ』


「世界の全てを知ってる人からも、《わからない》なんて言われたら、僕の存在自体があやふやに見えるから」

『全ては知らない。お前は私に聖剣の夢を見ているだけに過ぎないだろう』

「でも、ちゃんと知っておいてよ。僕がなんなのか。僕が誰なのか。僕がちゃんとここにいるって事。」

『………そうか。

 お前は南の、城壁の外の街で産まれた。貧しい少女で、盗人になったが飢えて死んだ。

 白い髪は死体になる前は銀色で、目はもっと青かった。これからもだんだん灰色がかかっていく瞳。名前は………………………………………………







 寝たのか?…そうか。なら私も眠ろう。何も考えない時間は必要だ。休むことは。

 その目蓋の裏の暗がりが、温かい物であることを祈っているよ』

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