第2話




「クロ坊………………」

『なんだ?』

「宿が…………ない………………………」

『まぁ今日は野宿だろうな。そこの木陰とかどうだ?焚き木を作るのを応援してやってもいいぞ』

「英雄が…焚き木………」

『…………はぁ、いいか?

 まずお前は英雄じゃない。死体で、亡者。

 不死者で、永遠に血を流す者。限りの無い命故に、その命を価値あるものには変えられず。ただ無為に過ごし、眠ることすら許されない。今の所はな。』

「今の所………………………」

『お前が木の枝を集める間に英雄の話をしようじゃないか。死体のお嬢さん』


「…………………僕は、英雄になりたい」


『ぁあ。お前の大好きな英雄の話だよ。

 …とある騎士がいた。主人を失くした騎士だ、とても高名だったという。』

「王道だ、美しいね…僕が憧れた英雄だ。でも、僕じゃ絶対になれない、僕はただのスリ師で、盗人で、追い剥ぎだったから。」


『だが主人を喪い、野良犬と成り果てた男は、人を斬り殺し剣を奪い、狂気の果てに竜を殺してその血を啜った。』

「…………僕と同じ、鉄と汗の匂いだ。それに、人を殺したんだ、無関係な人を!自分が、自分が生きる為に………なんだってした。」


『啜った血は自らの糧となり、また新たな地の戦いへと誘った。』

「…それは自分の意志なのか?英雄の意志は命を奪う事を望むのか。戦わなくても、もう充分だった筈だろ」


『…今もまだこの世の何処かで戦い続けているという、哀れな英雄の話だ』


「…………………………今も」


『英雄なんてそんな物だ。自己犠牲であれ、戦闘狂であれ、最後により強大なものを倒せば、封じれば英雄。人に崇められる結果さえ残せば、どんな悪人も犯罪者も英雄』

「…………………………そうか。うん、その方がいい」

『焚き木の用意は出来たか?』

「うん」

『…………お前は、アレか?やっぱり真っ当な英雄が好きなのか。魔王を倒して姫を助けて、それから竜を自分の身体を糧に封印するような奴か』

「それは………」

『随分昔の逸話にあったな。ま、そんな英雄のおかげでお前みたいな死体が産まれたならそれは中々面白い話だろう…どうした?』

「僕は………僕、そんな英雄嫌だよ。」

『…………?』

「だってさ、さっき話してくれた血を啜った英雄も、盗人の僕も、そんな英雄が本当にいたら。英雄なんて呼べないじゃないか。

 そんな存在がいたら僕等はただの愚者だ。そんなの………………………僕も、その人も。あんまりにも可哀想だよ…………………………」

『…………………………………』

「可哀想だ。」

『…………』



「クロ坊を拾った時、君は目も開けなかったし話もしなかったんだ」

『誰かが被ったから、目を覚ました。それだけのことだがな。

 私を被り、私の主人となったのがお前なのも何かの縁だろう』

「僕、君が目を覚ました時、まるで勇者になった気分だったんだ。聖剣に選ばれた気分だった。英雄になれると思ったんだ」

『英雄だから、聖剣に選ばれたのか。聖剣に選ばれたから、英雄になれたのか。

 はたまた、英雄が持ったから聖剣となったのか』

「…………でも、君は聖剣じゃない」

『私はただの帽子だ。


 ………………もう横になったらどうだ?今日の戦いで疲れたんだろう。

 眠れはせずとも、横になり布団をかぶるのはお前にとって新たな力に変わるんだろう』




「クロ坊」

『ん?』

「…………これがおとぎ話だったら、良かったのにね」

『……………』

「…………おやすみ…」


『…………ぁあ、そうだな…』












『この世界がどうか、御伽話であれば』

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