第3話 風の花、嵐の山(後編)
(1)
根付の所有者は小春さんである。
三百八十円と引き換えに情報を得た俺は部活を休んで小春邸に足を運んだ。前回の訪問から四日たっている。あの坂道で再び両脚を虐めなければならないことには躊躇を覚えなくもなかったが、小春さんに会う口実ができたことは素直に嬉しかったし、二度目ともなると最初のときほど辛いとも思わなかった。
小春邸に辿り着いたときには彼女も既に帰宅しており以前と同じく和装に着替えていた。小春さんは俺の再訪に驚きこそすれ邪見にはせず、にっこりと笑って「先日はありがとうございました」と砂糖たっぷりのコーヒーを注いでくれた。
俺は小春さんに用件を伝えた。嵐山という大学生に出会ったこと。根付の持ち主を探すように頼まれたこと。神坂という先輩に相談したこと。小春さんが持ち主だと教わったこと。そして、写真を見た小春さんが持ち出してきたのが根元の切れたとんぼ玉だった。
根付が小春さんのものではないということ自体はある程度予想できていた。なぜなら嵐山さんが話していた女生徒の特徴と小春さんの容姿が一致しないからだ。
根付を落としたという女生徒の特徴は次の4つ。二年以上の学年で、背は高くなく、髪が短くて、眼鏡はかけていない。あとの情報は印象と推測が混ざっているのでひとまず考慮に入れるべきではないだろう。
小春さんの場合、二年以上の学年で眼鏡はかけていないという点は話のとおり。背も人並み程度なので合致していると言っても差し支えない。だが「髪が短かった」という証言がどう考えても該当しない。仮に小春さんが半年前から髪を伸ばし始めたのだとしても、その時点で既に短いと形容できるような状態ではなかったはずだ。見間違うとはとても思えなかった。
以上のような前提を持っていたがゆえに根付の現物を見せられた際には少々混乱してしまったのだが、落ち着きを取り戻すと動揺は疑問に切り替わった。持ち主でないのならなぜ小春さんが根付の片割れを持っているのか?
「これは預かりもの……と言うより私が成り行きで持ったままになっているもので、本当の持ち主は柊冬子という西高の女生徒です」
「え、冬子先輩!?」
今度こそ肺腑の底から驚いた。
「やはり、ご存じなんですね。冬子のこと」
「ご存じも何も……今の美術部の部長が冬子先輩です。小春さんのことを話してくれたのだって先輩なんですよ」
でも、まさかこの件で先輩の名前が出てくるとは思わなかった。確かに冬子先輩であれば嵐山さんが並べた四つの特徴にも当てはまる。冷淡な先輩にしては趣味が可愛すぎる気もするが、現物を手元で保管している小春さんが言うのであれば間違いはないだろう。
灯台下暗しとはまさにこのこと。神坂などに相談せず初めから冬子先輩に訊いていれば早かったのだ。
「ですが……」
と、小春さんは言葉を溜めた。言葉を選んでいるようにも見えた。ややあって口を開いた。
「……藤宮さんが御相談なされたのは、神坂美星さんと、ご友人の中山さんですよね? 眼鏡をかけて、肩のあたりまで髪を伸ばした」
「ええ、全くタイプが正反対って感じの」
「お二人が私を根付の持ち主だと間違うのも当然のことなんです。そう誤解させたのは私ですから」
「神坂先輩たちとはどういう関係なんです? 小春さんのことも知っているようでしたけど、結構、その」
「毛嫌いしている?」
本人の前で簡単には頷けなかったが、話題を切り出した以上は仕方がない。力なく首肯した。小春さんは「いいんです」とかぶりを振った。
「元々は神坂さんも西高の美術部員でした」
「え?」
神坂が、元美術部員?
「お話に出てきた中山さんも。去年は冬子とも一緒だったんですよ。と言っても熱心に活動していたのは中山さんだけで神坂さんはいたりいなかったりというふうでしたが」
偶然って怖いわね。
あの言葉の意味がようやく理解できた気がする。もしかしたら神坂は俺が美術部に籍を置いていることも知っていたのかも知れない。だとしたらなおさら奇縁に感じていたに違いない。
「でも、先輩たちは今はもう美術部に籍を置いていない。それは、神坂先輩があなたを嫌っていることにも関係があるんですか?」
「……ごめんなさい」
小春さんはしゅんとして謝った。彼女のその反応が明確な答えを示していた。
彼女は俯いたまま難しそうに口を結んでいたが、やがて意を決したように俺の目を真っ直ぐ見据えた。澄み渡る湖面のような瞳。真剣味を帯びたその輝きに俺は息を呑んだ。
「先ほど言ったとおり、この根付は私のものではありません。ですが……、藤宮さん。無理を承知でお願いします。どうかこの根付は私が落としたということにしていただけないでしょうか」
頭を下げられ、言葉を探した。
「あの、どういうことですか?」
「ごめんなさい。詳しいことはお話しできません。言えることはその根付が冬子のものであること。けれど、西高の美術部員の間では私のものだと思われているということです。私は彼女たちの認識をそのままにしておきたい」
「それは、美術部から部員がいなくなった件とも関係があるんですか」
「ごめんなさい。言えません。ですが……、お願いします」
小春さんは下を向いたまま繰り返した。頬を流れる黒髪は絹糸のように光っている。その先端に触れたくなる衝動を、俺は、必死に抑えた。
よくよく考えれば美術部のようなメジャーな文化部に部員が一人しかいないというのもおかしな話だ。こうなれば高一のガキにだってさすがに分かる。何か、人間関係でトラブルがあったのだろう。
ここでその事情を聞き出すことは難しくない。頼みを聞き入れる換わりに何が起こったのか話して貰えばいい。でも、思い詰めた小春さんを見て、そんなふざけたことを切り出すやつがいたら俺はそいつを殴り倒しているだろう。
彼女が不安を取り払えるよう精一杯声を和らげた。
「分かりました。なら、この根付はあなたのものです」
小春さんは顔をぱっと上げ、ありがとうございますと口元を綻ばせた。俺は無性に気恥ずかしくなって庭のほうへと視線を逃した。鉢から伸びている知らない花がとても鮮やかに咲いていた。赤い花弁に目を向けたまま尋ねた。
「でも、現物はどうします?」
「できることなら冬子の元に」
「嵐山さんは落とした本人に直接手渡したいと言っています。嵐山さんと冬子先輩を引き合わせることになってしまいますが、それはまずくありませんか?」
嵐山さんは冬子先輩の顔を知っている。ゆえに先輩本人が返却の場に出て来なければ話が進まない。問題は、根付が冬子先輩の元へ返されたという情報が神坂に伝わってしまう恐れがあることだ。恐らく神坂は霧代大に知人がいる。仮に『持ち主は西高二年の柊という生徒だった』という話が漏れれば、その情報は高い確率で神坂の耳にも届くだろう。
「それについては……そうですね。私が教室に忘れていたものを冬子が気付いて持っていてくれていたということにでもしておきましょう」
「それを俺が受け取って小春さんに返す。そういうことにするんですね」
「訊かれなければ仰る必要はありません。ですが事情を抜きに話を進めるのは難しいと思います。そのうえで私の素性に関してはプライバシーなので伏せて欲しいと一言添えていただきたいのです」
プライバシー。隠すまでもない情報でもその一言で守られるべき権利になる。便利な言葉だ。
「もっとも嵐山さんに関してはさほど心配する必要もないと思っています。藤宮さんも気付いておられるのでは?」
なんだ、と思った。考えることは小春さんも同じかと。俺自身、確証がなかったから一応は小春さんの意見を確かめてからと考えていたが、同じことを思い付いているのなら話は早い。つまり、
「嵐山さんの目的は落し物を冬子に返すことじゃありません。冬子に会うことです」
俺は後頭部を掻いた。
「やっぱり、そう考えますよね」
普通落し物なんてものは管轄の組織に届け出ればそれで終わりだ。本人に会って直接渡す必要なんてどこにもないし、そのために他人を雇うなんてなおさら不自然だ。あまつさえ嵐山さんは落とし主を見つければ礼をするとまで言ってきた。落とし主が礼をするのなら理解できるが、拾い主では完全に話が逆だろう。
「嵐山さんの目的は冬子に会うこと。ならば根付の持ち主が誰であるかはさほど重要には思っていらっしゃらないはずです。冬子に会うことができさえすれば細部まで突き詰めるようなことはなされないでしょう」
ならば冬子先輩に同席して貰うことに何の問題もないということだ。
「ええ、信用の担保になりますし、嵐山さんの目的も果たされますから。話せば冬子も協力してくれるはずです」
なるほど、と顎を撫でる。
冬子先輩も根付は小春さんのものでなければならないという認識は共有しているのか。協力を取り付けられるということは関係も悪くなっていないということになる。神坂や中山とは異なる立ち位置。何がどうなっているのかすっきりとしないが、問い詰めるのはご法度だ。
俺が「頼んでみます」と答えると、小春さんは「お願いします」と応じた。しかし、あとに続く言葉はなく、陽の傾き始めた山に沈黙が落ちた。見計らったように山鳥がピイと鳴いた。
「小春さん?」
「ごめんなさい。こんなことに付き合わせてしまって。藤宮さんには何の関係もないのに。……嘘まで」
小春さんのほっそりとした肩がさらにか細く見えた。膝の上で握られた手は珠のように白く脈を映し出していた。
彼女の言葉を自分の中でどう消化すべきだろう。少しだけ我が身を省みたあと込み上げてきたものは可笑しさだった。その可笑しさに従い俺はわらった。
「ありがとうございます。でも別にいいじゃないですか。減るものなんて何もないんですから」
「藤宮さん」
「そんなことより」
ずっと気にかかっていることがあった。先ほどから置き去りにされている一つの話題。俺にはそちらのほうがずっと興味深かった。
「小春さんは分かっているんですか? 嵐山さんがどうして冬子先輩に会おうとしているのか」
(2)
嵐山さんはどうして冬子先輩に会いたがっているのか。小春さんは既に答えに辿り着いているようだった。俺の問いかけに一瞬きょとんとしたあと、買い忘れに気付いたみたいに眉を寄せて笑った。
「ええ、何となくですが」
つまり、俺が説明した範囲に嵐山さんの目的を特定するための情報が含まれていたということになる。
すぐ思い付くのは冬子先輩に一目惚れをした嵐山さんが先輩に交際を申し込むという可能性なのだが、
「藤宮さんの話では嵐山さんにはお付き合いをされている方がいらっしゃいますよね」
そう、嵐山さんは真莉という女性と同棲している。断片的な情報でしかなかったが恐らくは間違いないだろう。付き合っている相手がいるのに他の異性と交際をしようとする人間がいるだろうか?
いる。もちろん吐いて捨てるほど。ただ、嵐山さんは真莉さんと別れたくないようにも話していた。彼はそういう類のひとではないのではないだろうか。
「でも、何か伝えたいことがある、というのは間違いないですよね?」
「会って話をしたいという以上はそうなるでしょうね」
段々と会話がクイズ染みてきた。
小春さんは膝を崩して縁側から脚を下した。その仕草がどこか優雅で見入ってしまう。錯覚だろうか。さらりと揺れた黒髪から草木の匂いが感じられたような気がした。
二人並んで縁側から雲を眺める。
(隠居した爺さんみたいだな……)
再び思考を巡らせた。
嵐山さんは冬子先輩に伝えたいことがある。直接会って、という点がポイントだろう。その条件は彼が伝えたい内容とダイレクトにリンクするはずだ。即ち、他人には聞かせたくないプライバシーか、あるいは確実性を求めているため他人には任せられない事柄のどちらかだ。
相手の名前も知らない嵐山さんが冬子先輩と共有すべきプライバシーがあるとは考えにくい。恐らくは後者。やはり先輩と何らかの交渉事をしたいのではないだろうか?
それは男女の交際でない。内面でなく外見で判断できること。小春さんには分かって、俺には分からないこと。……ならば、そうか。
「モデル、ですか?」
絵画のモデル。人物画のモデル。嵐山さんも絵を嗜んでいて冬子先輩に作品のモデルを依頼しようとしているのではないか?
小春さんは目を細めた。
「正解です。でも、少しだけ惜しいです」
「惜しい、ですか?」
何が違うと言うのだろう。
「モデルというのは正解です。でも絵ではないと思います。ヒントは藤宮さんの目の前にありますよ」
「庭ですか?」
「もっと手前です」
正面には木柵がある。年季が入って落ち着いた色合いをしている。俺はそこからゆっくりと視線を下していく。花、植木鉢、土、踏み石、俺の靴、足……、手元にあるものは、そうか。
「写真ですね」
小春さんが「ええ」と肯定した。
「嵐山さんは冬子をモデルに写真を撮りたいのだと思います」
嵐山さんはある目的があって霧代市内を散策していた。公園やら神社やら変わった場所に用があるものだと不思議に聞いていたが、あれはあちこちを回って風景を撮影していたということなのか。
「でも、それだけじゃ写真のためだとは判断できないでしょう?」
別の研究事かも知れないし、ただの散歩かも知れない。
「ええ、でも、この根付の写真からして知識のない人の撮り方ではないんです。藤宮さん、こういう小物を撮影するときってどうすると思います?」
「どうって、そりゃあ撮りたい物にカメラを近付けて、撮影モードを接写にして……。それぐらいじゃないですか?」
小春さんは首を振った。
「マクロ機能も重要ですがそれだけでは十分とは言えません。ここまで綺麗に写真を撮ろうとするならライティングの技術も必要になってきます」
聞き覚えのある言葉だった。
「それって、テレビとか映画の撮影で出演者に照明を当てるやつですよね。こう、白い板みたいなのをスタッフが両手で掲げて」
「レフ板のことですね。あれは光源からの光を反射させて任意の場所に光を当てているんです。仰るとおりレフ板を使うこともライティングの一つですね。しかし、厳密にライティングと言えば被写体を光で照らす行為を指すわけではありません。人物をより人物らしく、花をより花らしく。その被写体が持つ性質や特徴、あるいは撮影者が望む有様を色合いや立体感によって表現する手法全般のことを言うんです」
俺は首ひねった。
「ええと……、つまり?」
俺の仕草が可笑しかったのか、小春さんがくすりと笑った。
「たとえば紙に人の顔を描くことを想像してみてください。単純な輪郭に目と鼻と口を描き込むだけでも人の顔には見えると思います。ですが、その人物をリアルに描写したいときはどうなされます?」
「……影とか、顔の凹凸とか」
「それと同じことです。ただ単に写真を撮影しただけでは被写体の……そうですね、スポーツ選手であれば逞しさであるとか、食べ物であれば美味しそうに見えるとか、そういった特徴や魅力が何も伝わらない平面的な仕上がりになってしまうんです。そうならないよう光を駆使してハイライトやグラデーション、陰影やシャドウを対象に表現する手法、つまり被写体に応じて光をコントロールする技術をライティングと呼ぶんです」
なるほど、説明を受ければ何となく理解ができる。嵐山さんに根付の写真を見せて貰ったとき、まるでカタログの商品画像のようだと感心をした。まさにその商品画像のようだという印象こそがライティングによって生み出されたもの、演出された写りなのだ。
「自然光だけで光を回すには限度がありますのでライティングには機材も必要になってきます。照明はもちろん、藤宮さんの仰るレフ板や、光を拡散させるためのディフューザー、簡易スタジオ、三脚……。日用品で代用できるものもあるそうですが、いずれにしろ思い出作りにスナップ写真を撮るようにとはいきません。特に光の影響を受けやすいこのような小物に関してはブツ撮りと言って意外と難易度が高いんです。実際、見事なものですよ。こんな小さなとんぼ玉に材質の透明感や光沢が繊細に表現されています。相当慣れていなければここまで綺麗には撮れないでしょうね」
要するに写真の出来栄えを見るだけで嵐山さんが素人でないことは一目瞭然というわけだ。俺には意図した写りなのか、偶然綺麗に撮れただけなのか、とても判断などできないが。
そう言えば、嵐山さんと風花さんもこの写真のことをカリカリだとかガチピンだとか言っていた。もしかしたらあれもカメラ用語なのかも知れない。しかし、
「小春さん、どうしてそんなこと知ってるんです?」
この人の専門は絵画のはずなのだが。
小春さんは恥ずかしそうに声を細めた。
「以前、冬子に誘われて少しだけ写真の撮り方を勉強したことがあるんです。絵画も写真も対象をフレームの中に収めるという点は同じですから、構図や、それこそ光の効果などで共通している部分は結構多いんです。知識があって損はないから何冊か本を読んでみろと」
いかにも頭でっかちな冬子先輩が言いそうなことだった。
「恐らく嵐山さんは大学で写真サークルか何かに所属されているのでしょう。風花さんとはそこでの先輩後輩の関係なのかも知れません。そして、去年の冬に市内で写真のモチーフを探していたところ偶然出会った冬子にモデルとしての魅力を感じたんです。しかし西高の生徒であること以外何も分からなかったので拾った落し物から誰であるかを特定されようとしたのだと思います。理由を隠されていたのは交渉前に依頼を断られることを心配なされたからではないでしょうか」
直接的には拒否が難しい依頼でも他人を介せば格段に断りやすくなる。頼む側としては自分が直に交渉したいというのが心理だろう。
「筋は通ります。でも、一つだけ分からないことが」
「なんでしょう」
「どうして今頃になって冬子先輩を探し始めたんです?」
嵐山さんが根付を拾ったのは去年の十一月。既に半年も前の話だ。卒業して行方が分からなくなってしまう可能性もあったのだから、すぐに探し始めたいと思うのもまた心理のはずだ。行動に整合性が取れていないのではないか?
「それはですね」
と小春さんは踏み石から脚を上げ、再び家の奥へと入って行った。振り返って目で追うと居間にある小さな引き出しからA4サイズの印刷物を二つ取り出していた。片方は一枚の用紙、もう片方は冊子だった。彼女は冊子を開いて中身を確認したあと、納得したようにこくりと頷いた。
「いくら魅力的な人を見つけたとしても写真のモデルになって欲しいとは中々頼みにくいものです。嵐山さんもその点は同じ。冬子に被写体として魅力を感じたとしても一度見かけただけの高校生の女の子を探し出そうとお思いにはならなかった。でも半年たってその必要が出てきたんです」
縁側に戻ってきた小春さんは、腰を下ろし、持ち出してきた一枚紙を俺に差し出してきた。紙の表面を見たとき俺は思わずあっと声をあげてしまった。
「霧代美術展の広告!」
「ご存知なんですね」
ゆいちゃんが教室に持ってきたものと同じチラシが小春さん手に収められていた。
「小春さんも出展するんですか?」
「去年はしましたが今年どうするかはまだ決めかねています。ただ前年の出展者には四月の初めに案内状が届くんです」
「でも……これって絵画の展覧会でしょう?」
「ここを見てください」
小春さんが示した箇所にはこう記されていた。(部門)絵画、デザイン、版画……それに、立体、書道、工芸、陶芸、写真!
「そうか、元々は県展の運営に反発して立ち上げた美術展だから……」
「ええ、募集しているジャンルは絵画だけではありません。写真もです。そして」
もう片方の冊子を開いた。こちらは美術展の目録だった。表題を見ると今年のものより開催回数が一つ少ない。つまり前年の目録ということになる。小春さんは目録の、ある一か所に指を置いた。
「写真の部、佳作・嵐山康介『旅先にて』……」
「嵐山さんは、去年の美術展に応募していたんです」
となると四月の初めに案内状が届く。冬子先輩を探し始めたのが二週間前。時期がぴったり重なっている。
つまり、嵐山さんは案内状が届いてから初めてどんな写真を応募すべきか考えたのだ。そして半年前に根付を落とした冬子先輩のことを思い出した。先輩をモデルにすればきっと良い写真が撮れる。幸いにも自分には彼女を探し出すための手段と大義名分が手元にある、と。
「もう一つの根拠は嵐山さんが期限と定めた時期です。六月末までなら三か月あるから大丈夫と、そう仰ったんですよね?」
「ええ、でも今は四月末ですから実際には二か月しか探す期間がないと思って……」
「多分逆です。七月から九月末までなら撮影期間が三か月あるから大丈夫という意味で仰ったのだと思います」
「九月末って……あ、そうか」
霧代美術展の締切期日か。
先輩をモデルにするにしろ、別の被写体を構えるにしろ、美術展に応募する以上は撮影のための期間が必要になる。いつまでもだらだらと俺たちの報告を待つことはできない。嵐山さんは成否のどちらに転んでも対応できるように……取り分け先輩を見つけられなかったときのために六月末という期限を設けたということか。
「でも……そっかあ。冬子先輩がモデルかあ」
月のような女性であるかは議論の余地があるとしても冬子先輩も確かに雰囲気のある人だ。モデルにしたいと考える嵐山さんの気持ちも分からないでもない。分からないでもないのだが……。
「綺麗に撮って貰えるといいのですけれど」
予想する結果は俺と同じなのだろう。小春さんの笑顔にはどこか苦いものが混じっていた。
つまり、まあ、十中八九、断られるだろうなあ。
(3)
「今日限り絵画は死んだ」
ベンチに腰かけた冬子先輩がおもむろにそう宣言した。いつもと変わらない唐突な口調。唐突な話題。違っているのは俺も先輩も美術室ではなく私服で校外にいるという点だ。
今の時期はどこで息を吸っても清々しさが約束される。洗われた心で景色を眺めると、広場を通り過ぎていく全ての人がこの開放感を共有してくれそうな錯覚さえ覚える。
そんな爽やかな朝に舞い込んできた突然の訃報。絵画さんと親しくなかった俺には何を言えば正解なのか分からなかったが、恐らくは喜ばしいことではないだろう。
「それは……、お気の毒に」
「歴史画家ポール・ドラロシュの言葉だ。彼は初めて写真を見たとき、そう嘆いたと伝えられている」
お悔やみの言葉を全く無視して先輩が続けた。よく分からないが最新のニュースではないらしかった。
「かつて識字率がまだ低かった時代、絵画は文盲の民衆に聖書の教えや神話のアレゴリー、支配者の権威を示すメディアとしての役割を担っていた。神性を顕現させる依代の役目を果たしていたと言い換えてもいい。そこに求められてきたのは真に迫る再現性。見る者の心を揺さぶり、思想すら支配し得るリアリティーだった。古来より画家たちはリアリティーを得るために人体を切り刻み、遠近法をはじめとする様々な技法を編み出してきた。
しかし、十九世紀に写真技術が登場すると絵画の在り方は大きく変容する。絵画のように膨大な時間をかけずとも対象を写し撮る即時性。そして、何よりも画家が追求し続けてきた再現性という点において写真は絵画のそれを遥かに上回っていた。写真の普及とともに絵画の需要は減少し、多くの画家たちがその職を失った。筆を捨て写真家に転向した画家たちも少なくなかったという」
まるで朗読を命じられたかのような話だったが、先輩の手に教科書は見えなかった。両膝の間で手を組み、地面に落ちた鳥の羽根を眺めていた。
「現実を映し出す媒体として、より上位の存在が現れたとき、絵画はその存在意義を失いかけたんだ」
木々の葉にろ過された陽射しが先輩の姿をまだら模様に彩っていた。さながら一枚の絵画のように。
小春さんと話をした翌日の放課後、俺は冬子先輩に根付の写真を見せた。先輩は「ああ」と驚くでもなく呟き「やっぱりあのときだったか」と自分が落とした根付であることを確かに認めた。
「探しても見つからなくて諦めてたんだが、そうか、あのときの男が」
そして、神坂たちの誤解を解かないで欲しいと小春さんが訴えていると伝えると、表情を微かに曇らせ、
「あいつはまだそんなことを言っているのか」
と辛うじて分かる程度に嘆息し、
「だが、あいつの立場ならそう主張し続けるしかないのも確かだろうな」
と俺の知らない事情を汲んでくれたのである。
入学してから一月程度の付き合いだが、冬子先輩が不要な手間を好む人ではないことは知っている。相談しても断られるのではないかと半信半疑だった俺は、小春さんの言うとおりになったとは言え、それでも意外に感じざるを得なかった。
「だが、私が付き合うのはお前とあいつの小芝居までだ。モデルの話は断るし、写真の根付も返して貰うぞ」
先輩は底冷えするような声で念を押した。
返すも何も根付は最初から冬子先輩のものだし、先輩の首を縦に振らせることまでは嵐山さんの依頼に含まれていない。あとは先輩と嵐山さんの間で交渉して貰えば済む話だった。
ただ一つ、小春さんの主張と立場とは一体何なのか。口に出せないその疑問だけが頭蓋に焦げ付いて剥がれなかった。
そして、さらに二日たった土曜日の朝、俺は先輩と一緒に嵐山さんが現れるのを待っていた。待ち合わせ場所は霧代中央公園。約束の時間までの十数分を俺たちは木陰のベンチで消化していた。
「存在意義がなくなって、そのあと、どうなったんですか?」
写真の登場によって絵画が無用の長物になったところまでは聞いた。
先輩は音声ガイダンスのようにすぐに答えをくれた。
「当然だが写実を追求した絵画というものは主流ではいられなくなる。何しろ追い求める先にあるものが別の形で現れてしまったんだ。絵画は再現という在り方から離れ、新たな道を模索せざるを得なくなった。これには識字率が高まり、メディアとしての役割を担う必要がなくなってきたことも関係している。絵画は公から個人のものになり、こう描くべきという束縛から解放された。芸術家たちは各々が自由な発想で表現を探求し始め、やがて印象派が生まれ、キュビスムが生まれ、現代美術の流れが始まる。現代美術に解釈の難しい作品が多いのも何も奇をてらうためだけじゃない。根底には写実を拒絶し進化し続けてきた近代芸術の文脈があるんだ」
ふうんと俺は分かったような返事をした。
「意外と根深い話なんですね」
「昔も今も写実絵画は大衆にも理解しやすい。だが現代美術においてはもはや古典の分野だと言っていいだろうな。……藤宮、あれがそうか」
促されて広場の向こう側を見ると茶髪の女性が満面の笑みで手を振っていた。隣にはすらりとした背格好の男性。嵐山さんと風花さんだ。待ち合わせの五分前だった。
近付いてきた風花さんは、いかにも休日のテンションで片手を上げてきた。
「ごっめんねえ! 折角の休みなのに。待ったんじゃない?」
「いえ、十時ぴったりですよ。それより例の物は持ってきていただけたんですか?」
ベンチから立って二人に近付いた。
「ああ、ここに」
と嵐山さんはバッグから茶封筒を取り出し蓋を開けた。口が細いので中は見えなかったが、確かにそこに根付があるのだろう。
「では、梅女の小春さんとやらに返しておいてくれ。頼んだよ」
「確かに。嵐山さんこそ気を付けてくださいよ」
「もちろん。最初から他人のプライバシーを曝すつもりなんてないよ。安心してくれ」
これで根付の本当の所有者が神坂に伝わることは防げるはずだ。
俺は差し出された封筒を受け取りバッグに収める。嵐山さんの隣で風花さんがにこにこと笑っていた。
「まさかこんなに早く見つけてくるとはねえ。しかも、ラシヤマ先輩のエロイ目的まで見抜いちゃうなんて。藤宮くんって結構デキる子?」
一方の嵐山さんはばつが悪そうな顔で頭を下げた。
「騙すような真似をして済まなかった。恥ずかしい限りだ。しかし、俺にとっては人に任せられない大切な交渉だったということもどうか理解して欲しい」
「別に責めやしませんよ。嵐山さんがそれだけ本気だってことでしょう?」
「君にそう言って貰えると助かるよ」
俺は終始お使いをしていたに過ぎない。損を被ったわけでもない。無くなった根付は先輩の元に戻るのだし、怒る理由など何もない。
それに、昨日ネットで調べたのだ。去年の霧代美術展の応募作品を含め、嵐山さんが撮影したとされる写真が数点検索に引っかかった。嵐山さんがどれだけ真剣に写真に取り組んでいるのか。理解するにはそれで充分だった。
「ところで」
嵐山さんが冬子先輩に目を向けた。冬子先輩はベンチから冷ややかな視線を送っていた。
本題が始まるのだ。
先輩はモデルの話を断ると断言した。嵐山さんにとって厳しい交渉になるのは間違いない。だが、分野は違えども芸術を志す者同士。熱意を以って頼み込めば先輩の氷を溶かすことも、あるいは……。
固唾を呑んで展開を見守っていると、
「こちらの女性は藤宮くんの彼女かい?」
「は?」
「あ?」
嵐山さんの口から奇妙な言葉が飛び出した。二重の意味で奇天烈な発言だった。表情はほとんど動いていないはずなのに、冬子先輩がすごく怖い顔をしていた。
「綺麗な子じゃないか。機会があったらモデルをお願いしたいくらいだよ。一体いつから付き合ってるんだい? 入学してから?」
「え? いや……え?」
俺は先輩と嵐山さんを交互に見比べる。嵐山さんは先輩から睨まれていることに気付いていない。お菓子を待ち切れない子どもみたいにそわそわと周囲を見回した。
「それで……くだんの柊さんはどこに? 今日連れてきてくれるんじゃなかったのかい?」
「いや、あの」
「ん? 来てないの?」
嵐山さんは首だけを俺に向けて動きを止めた。風花さんも笑みを張り付けたまま小首を傾げている。くだんの柊さんはえらく不機嫌そうにしていた。ええと、
「何言ってるんですか?」
「それで、どうなったんです?」
隣に腰かけた小春さんが口元の笑みを隠した。
嵐山さんたちと会った翌週の水曜日、学校帰りに小春さんの家に立ち寄って事の顛末を報告した。
冬子先輩ほどではないにしろ、小春さんもまた感情を大きく表す人ではない。なので可笑しくて堪らないといった彼女の反応はとても新鮮に見えた。
一方の俺は苦々しく頭を掻く。
「どうもこうも。嵐山さんとは噛み合わないし、冬子先輩は機嫌悪いし、風花さんは腹抱えて爆笑するし……正直参りました」
嵐山さんは写真のモデルを頼むために根付の持ち主を探していた。その持ち主とは冬子先輩のことで、ゆえに嵐山さんと先輩を引き合わせれば彼の目的は達成されるはずだった。が、嵐山さんが探していた少女は冬子先輩ではなかった。
「つまり、嵐山さんが一目惚れしたのは、そのときいたもう一人の女生徒だったんですね」
「ええ、先輩の顔なんか綺麗さっぱり忘れてましたよ」
嵐山さんが自分で話していたとおりだ。彼が根付を拾ったとき、その場には冬子先輩と、もう一人別の女生徒がいた。
根付を落としたのは間違いなく冬子先輩だが、嵐山さんは落とした瞬間を見たわけではない。にも関わらず目当ての少女を探すための手がかりとして根付にすがった彼は、対象と手段を短絡的に結びつけてしまった。そこにとても簡単な誤解が生まれた。
もちろん、同じ勘違いで冬子先輩を引っ張ってきてしまった俺や小春さんも彼をどうこう言える立場ではない。俺たちは俺たちで根付の所有者を隠すという目的に囚われ、当然あり得る可能性を排除してしまっていた。
そういう間の抜けた話なのだ、これは。
「それで、その方が誰か分かったんですか?」
「ええ、当事者の冬子先輩がいてくれて助かりました」
先輩の口からから告げられた名前は意外な人物のものだった。
「元美術部員の中山先輩だそうです」
ああ、と小春さんが手を打った。
中山先輩がまだ美術部に所属していた頃、部活帰りに二人で下校することが稀にあったらしい。冬子先輩は、はっきりとは覚えていないと前置きしたうえで、その日も確か中山先輩と一緒だったと教えてくれた。
「中山さんは熱心でしたからね。遅くまで残るときは大抵中山さんと一緒になると冬子から聞いたことがあります。私も何度か三人で下校したことがありますよ」
小春さんは懐かしむように目を細めた。
「でも、はじめは先輩の記憶違いじゃないかって思ったんです。中山先輩は眼鏡をかけてますし、髪だって短いとは言えませんから」
嵐山さんが挙げた少女の特徴とはまるで一致していなかった。でも、
「中山さんは伊達眼鏡ですから。眼鏡をかけていないときがあっても別段不思議ではありません」
「やっぱり、知ってるんですね」
小春さんは笑顔で肯定した。
「眼鏡を外したときの中山さんは普段とは別人のようですよ」
冬子先輩曰く、中山先輩は視力が弱くて眼鏡を使っているのではなく、飽くまでファッションとしてかけているだけなのだそうだ。
思い返せば食堂で彼女を紹介した神坂が「地味な見た目に騙されるな」と先輩の眼鏡をいじっていた。きっとあれも中山先輩が伊達眼鏡であることを念頭に置いた発言なのだろう。
「でも、髪の短い女性というのはどういうことなんでしょう? 半年前だって中山さんはそんなに短くカットした時期はなかったはずです」
「ついでに言うと背が低いわけでもありません。むしろ女子にしては高いくらいだと思います」
では、なぜ嵐山さんは先輩のことを髪が短くて背の低い女子だと認識したのか。
「それはですね。小春さんと中山先輩を並べて見たとき、人はどういう印象を抱くのかって話なんですよ」
小春さんの髪は背中の半ばを過ぎるほどに長い。対する中山先輩は長いと言ってもせいぜい肩を少し超える程度だ。
小春さんは成程と納得した。
「普段から髪の長い女性を見慣れていたら、中山さんくらいの長さでも短いように感じてしまう?」
俺はこくりと頷いた。
「例の嵐山さんの彼女さんがまさにそういう人らしいです」
風花さんは言っていた。真莉姐さんとは正反対のタイプだと。つまり真莉さんは髪が長くて背が高い女性ということになる。聞けばその髪は腰まで届くほどで、背丈も180センチを超えているらしい。そんな恋人と毎日顔を突き合わせていたら感覚がずれてしまっても不思議ではない。俺でさえ、神坂と中山先輩を並んで見たとき、先輩の髪を短いと感じたのだから。
そんな中山先輩をどうしてモデルにしたいと考えたのか。そこまでは訊いていないので分からない。
「冬子先輩の仲介で中山先輩本人にも会って貰いました。間違いないそうです。中山先輩のほうは嵐山さんのことなんて覚えてもなかったみたいですけどね」
と、あることに気付いた俺は口早に次の言葉を繋げた。
「根付の件なら大丈夫ですよ。嵐山さんも話題にしないと言ってくれましたし、そもそも興味がない様子でしたから。中山先輩に何かを喋るようなことはしないと思います。万が一中山先輩に話が伝わっても疑問に思われないよう冬子先輩が上手く誤魔化してくれると言ってくれました。それに、もっと単純な理由で知る機会がないんです」
「と言いますと?」
「モデルの件、中山先輩に断られちゃいましたから」
「あら」
理由は「恥ずかしいから」だそうだ。
そこまで聞いてようやく安心したのか、小春さんの表情が見るからに柔らかくなった。一方で、人の失敗を喜ぶべきでないと考えたのかも知れない。露骨に顔を綻ばせることもしなかった。自分のことなのだからもっと素直になってもいいと思うのだが。
「では、嵐山さんの仰っていたお礼の件はどうなるんです?」
「元々の依頼は根付の持ち主を見つけることですからね。謝礼については約束どおり支払っていただけるそうです。額はなんとこのくらい」
指で示した金額に小春さんは目を丸くした。これもはじめて見る反応で少し可笑しかった。
「賞取る気満々だったみたいですよ。でも」
手を開き、指で作った数字を散らした。庭の中を風が吹き抜けていった。
「お礼は断りました」
「あら、どうしてですか?」
「何だか受け取っちゃ悪いような気がして」
小春さんの頭に疑問符が浮かぶ。
別に説明しても構わない。でも多分この人には理解できないだろうと思った。
何かにひたむきに打ち込める人。目標のために汗を惜しまない人。自分だけの特別な何かを持っている人。才能のある人。豊かな人。そんな人たちに対して持たざる人間が抱く引け目を、この人はきっと理解できない。
だから、俺は曖昧な笑みだけを返した。
「藤宮さん」
帰り際、門扉に手をかけたところで小春さんに呼び止められた。振り返ると小春さんが丁寧にお辞儀をしてくれた。
「お世話になりました。話を聞いてくれたのが藤宮さんのような方で本当に良かった」
お世話になったのは小春さんではなく冬子先輩のほうだろうと思いつつ頬を掻いた。
「冬子、何か言っていましたか」
訊かれた瞬間、ある言葉がすぐさま脳裏に浮かんだ。
『あいつの立場ならそう主張し続けるしかないのも確かだろうな』
かつての美術部における小春さんの立場。他人の所有物を自分のものだと偽らなければならない理由。
先輩の言葉をそのまま伝え、何があったのか教えて貰おうか。そんな考えが頭をもたげたが、彼女の答えは変わらないだろう。
「いえ、特に変わったことは」
「……そうですか」
そのときの彼女は群れからはぐれた小鳥のようで、何か声をかけてあげなければと自然に口が動いた。
「何だったら今度先輩を連れてきますよ。しばらく会ってないんでしょう?」
俺の思い付きに小春さんの瞳がほのかに輝いた。それは屈託のない喜びの反応で、切り出した俺も明るい気持ちになった。
だが、ただの反射に過ぎなかったのだろう。表れた色はすぐに消えた。
「お気遣いありがとうございます。本当に嬉しいです。でも」
微笑する彼女の姿。それは在る筈のない幻のようで、あまりに景色と調和していた。
空に滲む赤い色。影絵に変わろうとしている桜の枝葉。
(……今日が、終わっていく)
黄昏が辺りを包む中、彼女は、夕闇の奥からはっきりと告げた。
「冬子も私には会いたくないのだと思います」
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