第37話 第五章 2-1





2




「シンル?」


姿が見えないシンルを探し、林を抜けたザーレが見た景色は神秘的だった。


だいだい色の夕日に染まる薄闇。

ひざ丈程の高さの、花びらの多い灰色の花がシンルに近づこうと精一杯身体を伸ばしていた。太陽の光に向かって植物がそうする様に。


夕焼けに輪郭がぼやける小さな背中を見て沸き起こる、泣きたくなる程の感傷。

理由は分からない。

懐かしさ……だろうか。何と無く、あの子に似ていたからかもしれない。


「綺麗だ……」


知らないはずの風景に懐かしさを覚え、帰りたいと思う。この気持ちは何だろう。


けれど、長く浸ってはいられなかった。ザーレはすぐに気がついた。右の林に誰か居る。


一瞬の風が吹いた後、ザーレはシンルに走り寄った。


「ザーレ?」


どうも相手の様子がおかしい。肌に感じるこれは……


―殺気だ


次の瞬間には互いの得物がぶつかっていた。

ザーレの短刀と青年の長剣。

絡み合って滑り、空気を引っ掻いて震わせる。

シンルの姉を攫った連中だろうか。

最初の剣戟けんげきの後、ザーレは腕にかかった異常な重さに戦慄せんりつした。対峙たいじする男の自分より細い身体から出せる力ではない。


再び、二度、三度絡み合う。


相手の身体を柳の様にしならせ長剣をぶんっと大きく振り回す動きには、型も何もあったものではなかった。


「左利きか! やりづれえ。突然なんなんだ!」


突きの動作は一切含まず、完全に首をなぎ払うことだけを狙って、明確に、単純に、男はザーレを殺しにきた。

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