第34話 第四章 1-6




「お子様相手になんてこと聞かせやがる」とザーレは怒鳴っているが、

怒鳴るならわさわざ耳を塞がなくたって良いのにとシンルは思った。

少し音がこもってはいるが、丸聞こえだ。

多分このままでもザーレと会話できる。


「ねえ、ザーレ。さっき呼ばれてたのは何だったの?」


渡されたナイフを両手で弄りながらシンルが尋ねると、ザーレは答えた。


「ああ、それな。喜べ。もうすぐ上陸だぞ」


言い終わるや否や、見張り台からも声が降ってくる。


「見えたぞー!」


待ちに待った瞬間だった。

シンルとザーレは全速力で甲板を走り抜けた。

どんっと手すりにぶつかって海へと身を乗り出すと、潮の香りの濃い海風が前髪を後ろへと押し流す。

とても心地よい風だった。


目を凝らして最初に見えたのは、山の岩肌に足元を溶かす様にへばりつきそびえる、白亜の建造物だ。

厚い空気の壁の向こうに青く透ける山脈を背景にして、その白は際立っている。


「……でっかい。あんなの見たことないよ。上から踏んづけたら痛そうな家だ」


頭の中であの家の尖った屋根が足の裏に突き刺さる様を想像していると、ザーレが盛大に吹き出した。


「ぶっく。まあ、確かに物凄え尖ってるけどな。お前良い感性してるぜ。でも、家じゃねえ。城だ。ノーグ城」


「ノーグ城……」


いつの間にか後ろに立っていた水夫が満面の笑顔で言う。


「王都コーシェムへようこそ。お二人さん!」

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