第30話 第四章 1-2


「ねえ、ザーレ。俺、礼儀作法は船の操縦より苦手かもしれない」


シンルはいよいよ現実味をおびてきた王との対面に思いを馳せていた。

「尊い色を持つ人」の機嫌を損ねるべきでないのは、今までの人生で骨身に染みている。


「船の操縦の腕がどの程度かは知らねえけどよ。まあ、そこを心配できるだけ丈夫だろ。とりあえず、話し始めに『恐れ多くも』って言っとけ」


「わかった。でも本当にそんな簡単なので良いの?」


「良いんだよ。行儀よくしたいぞって言う『意思』が伝わりゃあな」


本当だろうかとシンルが首を傾げていると、視界の右端で何かがきらめいた。

気になって振り返ると、男が二人、瓶を両手にげて甲板に立っている。

乗船してから、しばしば見かける二人組だった。

太陽の光があの瓶に反射して、シンルの瞳に刺さったに違いない。


「おーい」


男たちはザーレを見ながら顔の横で瓶をくいっとやって、その手を振った。

恐らく中身は酒だろう。

一杯やろうぜ。そう言うことらしい。

どうするのかなとシンルが見上げると、ザーレは苦い顔だった。


「ちっ」


珍しく小さく舌打ちすると、近づいてくる男から距離を置かせるようにシンルをやんわりと後ろに隠す。

腰に下げた小刀の位置を確かめるように滑ったザーレの手を、シンルは見逃さなかった。


普段のザーレらしくない。


「どうしたの?」


小声で尋ねたシンルにザーレは渋い顔で答える。


「お前は賢いけどまだまだ子供だな。俺が初日に言ったこと覚えてるか?」


「初日って、船に乗った最初の日のこと?」


「おう」


「……『女、子供は客船以外には乗らないのが普通なんだぜ』?」


「違えよ!大事なのはそのあと阿保あほう

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