第25話 第三章 1-7


そのまま床にひじをついて、肩頬を手の平で支える姿勢をとった。

いた方の手で、いつの間にかシンルの足下あしもとの方にまで蹴飛ばされていた布団を引き上げる。

顎先あごさきまで粗末な上掛けに埋まりながら、シンルはすぐ側にあるザーレの顔を盗み見た。先ほどまでの妙な色気はもう無いように思う。

落ち着いて間近で見るザーレは、黙っていれば十分に男前だと思った。


やっと肩から力が抜けると、顔にチクチクと刺さる布団の繊維が急に気になりだした。シンルがもぞもぞと動いているとザーレは言った。


「休むことは悪いことじゃねえよ。急がば回れって言うだろう? 久々に屋根の下で眠れるんだ。風も無え」


ふあぁと、ザーレは欠伸をした後で寝返りを打った。

猫の様な仕草で伸びをすると、こちらを向いたしなやかな背中がうごめく。薄い布地の下で肩甲骨が浮いたのがわかった。


「うん。……ありがとう」


実を言うと、身体を休めることにずっと罪悪感があったのだ。

食べなければ、眠らなければ、身体は動かせない。

わかっていたけれど、ルツが元気かもわからないときに自分だけ満たされて良いのだろうかと不安になった。

シンルなりに気取けどられないように注意していたにも関わらず、ザーレにはもしかすると、悟られていたのかもしれない。


なんとなく悔しく思うものの、本心ではザーレの心遣いを嬉しく思う自分にシンルは気づいていた。


「今夜は冷えるんでしょ? 自分で言ってたのに隙間空けたら駄目じゃないか」


布団の位置を整えるついでを装って、シンルはザーレの背に自分から寄って行った。



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