第23話 第三章 1-5



「ふっ」


ザーレは小さく息をこぼした。

優しく微笑んで言う。


「やっぱ可愛いな、あんた」


シンルは驚いて暗闇の中でれる様に炎の明かりをはじくザーレの瞳を見つめた。

「相手の真意が読めないときは瞳の奥を見つめるのが良い」とルツはよく言う。

けれど今、それを忠実に実行したシンルは、「しまった……」と思った。

なんだかこれじゃあ、見つめあってるみたいだ。


パチパチと炎のぜる音がして、ザーレの顔が段々と近づいてくる。

気づいたときにはシンルの唇の左端にザーレの唇が触れていた。

ほんの少しの柔らかい感触のあとに、離れて行く唇から漏れた吐息が頬をくすぐる。


「……は? な、なに?」


しばらくほうけた後で状況を理解すると、頬の一部にカッと血が集まって行くのがわかった。右手をザーレの唇が触れた辺りに持って行くと、まるで焚き火にかざした様に皮膚が熱を帯びている。


「なんでもねえよ。今夜は冷える。とっとと眠ろうぜ」


ザーレは素早く腰を上げた。

思わず身構えたシンルだったが、ザーレはそのままシンルの動揺になどまるで気づかない素ぶりで歩き出すと少し離れた場所で荷物をあさって簡素な掛け布を二枚取り出した。

どうやら本当に就寝の準備に入るらしい。

片腕に二人分の寝具をまとめて戻ってくると、再びシンルに向き直って手を差し出した。


「え?……わ、ちょっと」

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