第21話 第三章 1-3



右の二の腕の外側に、出会った夜には気がつかなかった火傷やけどあとが見える。

シンルの視線に気づいたザーレは、何でも無い様に教えてくれた。


流浪るろうの民の証だよ。この国での通行証みたいなものだ。戦で国が無くなっちまってな。ちょっと前は難民やってたが今では流れ者さ」


シンルは不躾ぶしつけな視線だったと反省したが、もう遅い。謝られることを望むザーレでは無いので、この際に聞きたいことを聞いた。


「それって木簡もっかんとかじゃだめなの? みなとでたまに見かけるんだけどさ、一つの木札を縦に裂いてお互いが一つずつ持つんだ。取引の相手を確認できるし、上陸の許可証にもなるし」


「あー、昔はそうだったらしいんだがな。不正があったみたいなんだ」


「不正?」


「そう。木簡の偽造が横行してな。誰だって恵まれた国に暮らしたいだろ?この国は隣のメグメルやイ・ラプセルに比べたら天国みたいなところなんだ。だから、内戦や疫病で苦しんで国を離れたくても許可証を買う金がない奴らが偽造に走った。その結果、許可証は値上がりした挙句、木簡から焼きごてに早変わり。ほとんど嫌がらせだな。ノーグ人は豊かな自国に難民なんざ入れたくないのさ。シンルが今言ったのは国内の海運の話だろ?オレみたいな外国人相手には港でも国境でも、もう使われてねえよ。外国との貿易は国が管理してるから、両国のお偉いさん同士で確認を取ってるみたいだしな」


「そう。……でも、それだって偽造しようと思えばできるでしょ?」


「まあなぁ。相当難しい作りにゃ見えるが」


ザーレは話しながら、焼き印を見ようと肉を摘んで寄せて、無理に首をひねっていた。そのせいで鼻の下が伸びて顔が可笑しなことになっている。


「頑張って出来ないこともないかもな。でも、大事なのはそこじゃねえ。自由になるのは『超痛い』って事実だよ。ノーグへの出入りが自由になる代わりに大金積んで傷物にされるんだから、それだけで尻込みする奴は多い。今でもたまにうずくからな。特に寒い日とか。これからは厳しい季節だぜ。……と、そうだ、シンル。前から聞きたかったんだ。いいか?」


「何?」


「シンルは染物師なんだろ?黄でも赤でもいくらでも綺麗に染められる。何でやらないんだ?」

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