第三章

第19話 第三章 1-1

顔の腫れが引くより早く、シンルは乗馬の腕を上げていった。村を出て十日も経つ頃にはすっかり馬の気性を掴んで乗りこなすまでになっており、二頭の馬もシンルを乗せることが何よりの幸せといった様子だ。


反対にザーレを乗せたときの馬の態度は、明らかに悪かった。鼻息と唾を四方八方に吐き散らすのだ。

一日三度の牧草を食む時間さえも、馬たちはシンルの側を離れようとしない。

食欲に勝る愛情を動物から勝ち取ったシンルに、ザーレは驚いていた。

誰のお陰で小川の場所がわかり、水にありつけると思っているのか。シンルと違い感謝すらしない可愛げの無い馬たちにすっかりふて腐れていたザーレは、離れて走るシンルに届くように、わざと大きな声で言った。


「可哀想なオレ!馬にまでないがしろにされてよー」


この日は運悪く強風で、シンルの耳は風の鳴く音に塞がれていた。


「ディータに自慢したいな。どっちの馬が早いか勝負するんだ。次に会うときにはきっと!」


「シンル!オレの話聞いてた?」


更なる突風が吹く。


「え、何? 風が強いから聞こえないよ!雨、降りそうだね!」


「……」


あと三日もすればロブサールにつく。二人はそこでルツの手がかりを探す予定だった。見つからなければそこから船に乗り、王都、コー・シェムへ行く。


好天に恵まれたお陰で今までの旅程は順調だったが、遂にここへ来て小雨が降り始めた。

平原が続くばかりの旅路において雨をしのげる場所など見当たらない。

集落が点在していれば良いのだが、残念ながらロブサールまでは町はおろか村すら一つも無い。しかし、盗賊や野獣の類も全く居ないので、二人とも文句を言うつもりは無かった。


シンルが雨の中、野宿をする覚悟で居ると、ザーレが何故かくっつく程側まで馬を寄せて来て言った。


「シンル。少し西へ行くぜ。捨てられた集落があったはずだ。今日はそこで泊まろう」


馬首を西にめぐらせザーレについて行くと、山の裾からぽこんと出っ張るように半円の堀が巡らされた村が見えて来た。堀の内には背の高い木の杭が隙間なく打ち込まれている。


捨てられた集落と言う表現に疑問を持ったシンルだったが、開けっ放しの門をくぐったときには納得した。

木造の建物が焼け落ちて、あちこちで真っ黒な石と炭の山になっている。焼ける前は立派な家だっただろうことは炭になっても形を保つ、柱の太さから想像がついた。


「シンル。こっちだ」

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