第13話 第二章 2-1

熱い。

顔の右側だけ、やけに。

反対に左側は冷たい。


丁度良く行かないこの感覚に、シンルは覚えがあった。微睡まどろみの中耳をすますと思った通りだ。ぱちぱちと枯れ木の爆ぜる音がする。


やはり、ここは自分の家だ。

家族で火にあたっている。


そう思うのに、目を開けるのが怖かった――なぜだろう。

ぼやけた頭で考えてルツがいないからだと気づいたとき、ふっと目が覚めた。


「……誰?」


目の前に、若い、知らない男がいた。その向こうには夜空が見える。シンルの頭の傍に片腕をついて上体を支え、もう片方の手はシンルの頬の上にあった。男の首飾りが上から垂れてきて、シンルのあごに当たっている。

男の瞳にはき火の橙色だいだいいろが揺れて……光って……

―近っ!


「わっ!」


一気に覚醒したシンルは跳ね起きて、頭の痛みに呻いた。ぽとりと頬から何かが落ちる。見ると湿らせた布だった。頬に手をやると表面はしっとりと冷えているものの皮膚の内側は熱を持っている。おまけにかなり酷く腫れていた。

動いたせいで肩から動物の毛皮の様なものが落ちて、腹の上に乗った。シンルから少し距離をとって胡座をかいた男が口をとがらせて言う。


「急に起き上がるな。オレじゃなかったら頭突き食らってたぞ。……ああ、お前、なかなか良いひとみの色だな。目ぇ覚ますまで何色かなって思ってたんだよ……て、もしもし? 」


見ると、男は随分妙ななりをしていた。葬式でも無いのに全身真っ黒で耳環や腕輪、指輪など沢山の装飾品を身につけている。おまけにこの季節なのに上着には袖がなく、両腕がむき出しになっていた。反対に下服はやたらに布が余っていて足首辺りでたるんでいる。服のまたの位置も随分ずいぶんと下にあった。


シンルはそこまで観察し終えて、男が寒そうなのは自分が上着を奪っているからで、恐らく彼は自分を手当てしてくれたのだと気付いた。


普段のシンルならば真っ先に「ありがとう」と言うけれど、今はそれが酷く難しい。

頭には自分をねずみと蔑んだ人々の仕打ちがこびりついていた。

この男も今は喪服もふくを着て居るが、本当の身分は知れない。


「どうして助けたの?ここ、どこ?」


何の狙いがあるんだ。疑ってとがる心の裏に不安があった。


「別に理由はねえよ。あんたが怪我して転がってたから。ここはあんたが倒れてた林の中で、オレはザーレ。流れ者の占い師だよ」

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