第12話 第一章 3-5
中を見て一目でわかった。大きな麻の袋など、
荷馬車の床には果物が詰まった木箱がびっしりと並んでいた。人が乗り込む
- つかなくていい嘘をつく理由って、一体なんだろう。そうまでして傷つけ無ければいけない程、自分たちは価値の無い人間なのだろうか
「姉を探してるって言ったのに……」
家族を探す人間の必死な思いさえ踏みにじられる。もしかしたら男は、本当に怪しい二人組を見たのかもしれない。それで敢えて真実を交えて嘘をついたのだとしたら……。
これまで沢山のことを我慢してきた。それでもこれは、あんまりだ。あの男にとってはたかが「ねずみ」でも、自分にとってルツは大切な人だ。自分たちの世界はポヴェリアとリゴで出来ていて、リゴを出てしまえばエール大陸はあまりに広い。ちっぽけな自分ではとてもルツを見つけられない。もしも…もしも、二度と会えないなんてことになったら……。
喉の奥がきゅっと絞られる様だ。込み上げて来た酸っぱさに必死で耐えていたシンルは背後の物音に気がつかなかった。振り返ったときにはもう遅い。頬に拳が飛んできた。内頬に歯が食い込む。シンルの小さな身体は林の中まで呆気なく飛ばされた。
「このねずみめ!果物泥棒か。 ったく、おちおち用も足せない」
声の主はいつの間にか戻ってきた
まだ殴り足りないのかこちらに向かって歩いてくる。
シンルが「違う」と叫んでも、御者には聞こえていない様だった。そのまま胸ぐらを掴まれる。暴れても逃れることはできなかった。
「違う!姉を探していたんです!」
叫ぶと一瞬だけ、御者は
けれど再びシンルを殴り始めた。口から沢山の血が出る。シンルは痛みに耐えながら、御者の目を見て気がついた。
自分の言葉が聞こえていないん
じゃない。聞くつもりが無いのだ。
きっと「ねずみが鳴いている」くらいにしか、思っていない。
ついにぐったりと動かなくなったシンルを林の中に打ち捨てた御者は、これで害獣の駆除が終わったとばかりに晴れ晴れとした顔で、再び荷馬車を動かし始めた。
その日、中天を通り過ぎた太陽の端が再び海に触れる頃、ポヴェリアの民は肩を落としつつも島へと戻って行った。戻った人間の名前を記録するため、男が一人、未だリゴの港に残っている。
「ラール!」
やっと姿を現した男の息子は何故か馬を二頭引いていた。
「ラール。シンルはどうした?」
男が手に持っている布にはあと三人、島の仲間の名前が足りない。
駆け寄って、思わず問い詰める様な強さで聞いてしまった男に、肩を震わせて息子は答えた。
「親父……ごめん」
ルツ、シンル、そしてダグマルは、次の太陽が昇っても戻っては来なかった。
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