第10話 第一章 3-3
「ディータ、ディータ!しっかりしてよ」
足に気を配りながら急いで川から引き上げる。頭がうまい具合に飛び石に乗り上げていたお陰か、幸いにも息はあった。
ただ顔に、殴られた様な酷い跡がある。
「誰がこんなことっ」
唖然としていると、複数の人間が草を踏む音が聞こえた。反射的に顔を上げたシンルの目に飛び込んで来たのは切迫した顔をした島民達だ。
「シンル!ルツはどこだ?」
「わからない!今来たんだ。ディータが倒れてて」
直ぐに数人がディータの手当てを始める。その手には添え木に包帯、消毒用の酒壺と、今来たにしては準備が良すぎる。
「いいか、よく聞け。ルツが二人組の男に
既に察していたことだが、言葉にして告げられると息が詰まった。けれど、絶望するには早い。今直ぐに手を打たなければ。
「リゴに行こう。さっきダグマルが変な船を見つけたんだ。リゴに向かってる」
「わかった、役割を決めよう。まだ森の中に潜んでいる可能性もある。ラール!」
父親に呼ばれ、近所に住む青年が駆け寄って来る。
「シンルと一緒に先にリゴに向かえ。俺は他の島民を呼び集めて後から追いかける。行けっ!」
二人で海までひた走り、息を切らし海岸に着くと、事態を聞きつけた島民達が船を出し始めていた。
シンルも船に乗り、積んでいた生地を砂浜に放り出す。周囲に取り急ぎ状況を説明しつつ視線を海の彼方へ向けると、ダグマルの乗った船と不審な小型船の姿はもうどこにも見えなかった。家まで往復している間に、陸に上がったのだろうか。その姿を探して船を漕ぐ。
その後、やはりダグマルの言った通りリゴの船着き場で二
顔をめぐらせると思った通り、少し離れた船着き場に男が見える。丁度、
「待って!はぁ……待って!聞きたいことが」
走って来るシンルに気づき、男は手を止めた。けれどシンルの服の色を見て顔を
「ねずみのガキが何の用だ!」
―「砂色」、「灰色」、「ねずみ色」。この人は一番嫌な呼び方を選ぶ人だ。生地屋のモーリーとは違う。けれど
「居なくなった姉と、姉を追いかけた青年を探しています!怪しい人を見ませんでしたか?」
意外なことに男は少し考える素振りをした。
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