第3話 第一章 1-2

「はっ。あにい、はっきり言ってやれよ。お前にかいを任せたんじゃ何処どこに行くかわからないって」


「ディータ。何で最近そう突っかかってくるわけ?ほんと、ダグマルと似てるのは顔だけ。口と姿勢が悪いよ。あとおまけにチビ」


「うるさい、俺はこれから伸びるんだよ、馬鹿が」


シンルはてっきりダグマルならば、弟の悪口を諌めてくれると思った。けれど彼はぶっと吹き出した後、ディータの言葉に同意した。


「確かにな。シンルは船の才が壊滅的かいめつてきだから」


「もう、ダグマルまで。練習しなきゃ上手くなるものもならないよ」


「そう言って何年経ったんだ。いい加減、あきらめて認めろよ、馬鹿が」


五歳で初めて船に乗り、恐らく八年ほど経っていたが、シンルはまだ諦めていない。


「もう、いつも口を開けば『馬鹿、馬鹿』って。それしか言葉を知らないわけ?」


尚も言い返そうと口を開いたが、今度こそダグマルから仲裁が入った。


「大丈夫だよ。お前にはその代わりに染め物の才能があるんだから。今日も高く売り飛ばして来い。だから今は休んどけ、な?」


これは慰めなのだろうか。

確かにシンルにとって船の操縦はとてつもなく難しかった。

「あちらに進もう」と考えて、「そのためには左右どちらにかいをさすべきか」考える。で、実際に決めた方をいでみると反対へ進む。「修正する為にどうすべきか」また考え、そんなことを繰り返しているうちにあっと言う間に知らない場所に浮かんでいる。


ただでさえ収穫で忙しいこの時期に、二人は家の畑や漁の手を休めてシンルを手伝ってくれている。迷惑をかけるわけにいかなかった。


船頭にはここ一ヶ月、シンルが父や姉と共に染め上げた沢山の生地が積んである。水が入らない様、櫨蝋はぜロウを染み込ませた麻袋の中へ入れてあった。それが場所を取っていたので、シンルは船を操るディータの邪魔にならない様、大人しくダグマルの長い足の間に納まることにした。

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