【第一章】

第2話 第一章 1-1





-1-



空は突きぬけるように高い。

視界いっぱいの青空の中に数羽のウミネコがただよっていた。

秋風は強くも無く弱くも無く、ちょうど良い具合で、この季節特有のおかしな形の薄い雲は海鳥たちよりも遥か上空に浮かんでいる。彼らの飛行をさえぎるものは、まるでそれが当然の様に何も無かった。気持ち良さげな鳴き声が顔の上に降ってくる。


シンルが少しやかましいくらいだと思っていると、すぐ隣に自分と同じように横たわっていた幼馴染が、その兄に呼ばれた。


「ディータ。流されてるぞ」


シンルとディータは上体を起こした。その途端とたん、今まで小船のヘリに遮られていた陽光が目に刺さる。起き上がるのもまぶしさにうめくのも二人同時だったので、船は全く揺れなかった。


「おい、早くげ」


船尾に座る兄から、弟に向けて再び声が飛ぶ。振り返らずにディータは言った。


「人にばかり命令するな。あにいも漕げよ」


「沖に出るまでは俺がいだんだ。後は頼んだ」


まだぶつぶつと不平を言うディータの代わりにかいを手に取ったシンルだったが、すぐにディータに奪われた。残りの一本に伸ばした手もディータの兄、ダグマルにさえぎられる。

日に焼けた精悍せいかんな顔に白い歯を光らせて、ダグマルは笑った。短い黒髪の先の方が、さわさわと海風に揺れている。


「シンルはいい。休んどけ。これからが大仕事なんだから」

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