第23話 事故
アスファルトが弾ける音がちかづいてくる。拓也が右を見ると、一台のワゴン車が猛スピードで突っ込んでくるのが見えた。
足は根っこが生えたかのように動かなかった。しかし、すぐに体が宙に浮き、気づいた時には自分は信号機の下に座っていた。
何が何だか分からぬまま呆然としていると、周りから人が集まってきた。
「救急車!早く!」「警察にも通報して」「お母さん大丈夫ですか⁉︎聞こえますか⁉︎」
左を見ると、そこにはさっきの車が路肩に突っ込んだ光景と、その先で母が倒れているのが見えた。
「大丈夫か拓也!」
父が走って拓也の方へ寄ってくる。拓也に傷がないことを確認すると、母の方へと走って行った。
少しして救急と警察が来た。拓也も病院で検査を受けた。大きな怪我がなかったのは不幸中の幸いだ。
「お母さんは?」
拓也が父に聞くと、父は何も言わずに俯いた。
数週間後。葬式に参列した。その時は誰の葬式かは知らなかった。誰の葬式かを知ったのはそれからまた数週間後だった。
若い夫婦が乗った車が突っ込んだのだという。母は拓也を抱っこして投げとばし、自分だけ轢かれた。
母は頭部を強く打ち、即死だったらしい。それ以外のことは何も聞いていない。
以来、拓也は父の手一つで育てられた。そして今に至る。
懐かしい気持ちと虚しさが拓也の心を支配していた。
あいつが憎い。
憎悪が年々薄れてきたというのに。
本当に神様はイタズラ好きだ。
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