第17話 呼び名

課題を黙々とやっていると、何やら視線を感じた。遥が顔を上げると、拓也が遥がやっている課題を眺めていた。

「なに見てんの。カンニングしたいの」

「いや、遥ってこの間まで異世界にいたわけでしょ。なのに、何である程度の知識あるのか不思議で」

「天使だった頃に人間の勉強覗いてたからな。あとは、人間だった頃の知識とか」

そこで遥があることに気付く。

「お前、今うちのこと何て呼んだ」

「え…いや…なんか変だったか?」

拓也が口を押さえる。流れのままに名前で呼んでしまったか、もしかしてこれもタブーだったのか。

「まあ…名前で呼んでもいいけど。うちはまだ『お前』って呼ぶけどな」

女子を名前で呼ぶことには慣れないが、本人から許可をもらっているなら名前で呼ぶ方がいいのかもしれない。相手がいくら堕天使と言えども、この世界では「女子」になるため、「お前」呼びの方が逆に気が引ける。

しかし、ここが難しいところで、さっきは無意識で呼んだが、いざ名前で呼ぼうとするとどこか緊張してしまう。女子を名前で呼ぶというのは何だか面倒だ。

「てか、お前早く飯作れよー」

「課題終わってからな」

テーブルの下で遥が拓也の足を蹴る。

「お腹すいたー」

「じゃあ、俺が飯作ってる間に課題終わらせろ」

「えっさー!」

遥が敬礼する。

これだと何だか父と娘みたいだ。シングルファザーであった父もこうして苦労していたのだろうか。


拓也は父のことを少し思い出しながら冷蔵庫の中を漁った。

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