第11話 風呂

まずは服だ。外へ出かけるのにずっと制服だと不便な上に衛生的な問題もある。

「いや、別にうち汗とかかかないし。常に無菌状態だから」

これが向こうの常識。こちらの非常識。異文化交流とはまさにこういうことかと、一人謎の感慨に耽る。

しかし、常に制服はおかしいということで、とりあえず部屋着と私服を一着ずつ買うことになった。ここは拓也が払う。その代わりに、しばらくの家事の負担は遥がやや多めということで決まった。

ただ、ここまでくるとある疑問が生じる。

「お前…の家事とかできるのか」

「それは一応。ずっと人間界見てきたわけだし。ただ、最近の機械とかは分からないのあったりするかも」

遥は天使だった時に人間界を覗いていたから分かると胸を張っているが、あまりアテにはできなかった。問題の機械ではあるが、高校生が一人暮らしで使用するものなので、もらい物や中古品である。どれも型番は古いため、そこは問題ないだろう。

「あと、なんか食べれなかったりするものとかは。アレルギーとか」

遥が視線を左上にしながら首をひねる。すると、何かを思い出したかのように「犬の骨のスープは苦手だったかな」と言った。人間界で誰がそんなものを作ると思っているのだろうか。逆に興味さえ湧く。

曖昧な部分もあるが、大体のことは決まり、その日の寝る準備を始めた。

遥は風呂に入らないということなので、拓也が風呂の準備をする。

「なんで人間って風呂に入るの」

風呂の掃除をしている拓也に遥が尋ねる。拓也は風呂を洗いながら「体を清潔にしたり、温めて疲れをとったりするためかな」と言うと、遥が急に服を脱ぎ始めた。

「ちょっ、おまっ、何して」

「何って。風呂に入る。ここ最近人間界に降りてきてバタバタしてて疲れたから」

「いや、わかった。入っていい。しかし、まだ早いのと…俺は男だ」

遥は既に上を脱いで、スカートにブラジャーというスタイルだった。遥が慌てて制服で上半身を隠す。

「スケベ野郎が!」

遥はそう言うと、拓也の鳩尾に蹴りを入れた。容赦のない蹴りで、後ろにそのまま倒れる。理不尽極まりない。

まさかいつも自分が光流に言っている言葉を言われる時が来るとは思っていなかった。拓也はゆっくりと立ち上がり、風呂掃除の続きをした。遥はもう洗面所にはいない。

「こいつは先が思いやられる」


堕天使との異文化交流同居で先が思いやられないわけがない。そんな同居生活初日はあっという間に過ぎていった。

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