第3話 興味

気づけば拓也の手の甲は真っ赤になっていた。これは当分元に戻りそうにない。

休み時間になると案の定、光流が後ろを向いてきた。正しく言えば、右斜め後ろ。遥の方だ。

「遥ちゃん…だっけ」

「遥でいいよ」

遥がにっこりと笑うと、光流はキューピットの矢が突き刺さったかのように動きが止まった。

「どこら辺に住んでるの。学校の近く?」

拓也が尋ねると、遥は目線を上にしながら首を傾げた。どうやら、なんとも言えないところに家があるようだ。というか、初対面の男にそう聞かれても答えないのが普通である。

何やら今日の廊下は騒がしい。正確には、拓也たちのクラスの前だけが騒がしい。遥の噂はもう他のクラスにも回っているようで、他クラスから「噂の可愛い転校生」を一目見に大勢の生徒がやってきていた。

「そいえば、どこの学校から来たの」

光流が廊下を眺めながら聞くと、遥は苦笑いしながら「あー…それは…」と目線を逸らした。どうやらそこら辺はタブーらしい。とりあえず、お互い苦笑いで済ます。

こんなに可愛ければ今まで恋愛において悩みを抱えたことなどないんだろうと思いながら、拓也はあえてそっちの方の質問はしなかった。場合によっては、光流を落胆させかねない。そして自分のことも。

「次の授業なんだ」

「体育…って、着替えなきゃ時間的にヤバくね」

光流が慌てて体操着を探し始める。

「じゃあ、もう行くね」

遥はそう言うと、数名の女子たちに混じって更衣室へ向かった。クラスメイトに打ち解けるのも早いとは、おそらく彼女はインターネット小説から出てきた女神なのだろう。

「あの子と体育やりてえ」

「早くしろスケベ野郎。置いてくぞ」

光流が体操着を見つけると、2人は走って教室を出た。



グラウンドに咲く花。荒れた地に咲き誇る一輪の花はよく目立つだろう。そんな想像が容易にできた。

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