第2話 転校生

拓也が自席に着くと、前の席の長岡光流ながおか みつるが机に腰を掛けながら拓也の方をニヤニヤと見た。

「可愛い子だといいな」

「あんまり変な真似すんなよ、スケベ野郎」

光流はクラスで1、2を争う調子者だが、周りからは慕われている。光流とは中学校からの仲で、何かと助けてもらっているところもある。

「学校案内とかしちゃうわけ?2人で校内歩いちゃって、周りから『あれ、拓也って彼女いたっけ?』とか言われて、2人で『違うわ!』とか言っちゃったりするわけ?」

「妄想が過ぎるぞ」

光流の妄想劇場を聞き流しながら一限目の用意をする。残念ながら彼の妄想劇場は閉幕する前に鐘が鳴ってしまい、光流は渋々自席に戻った。

全員が席に着くと、担任の浅川あさかわが入ってきた。浅川は体育科の教諭で、怒ると1番怖いというのは学校では有名な話である。そんな鬼の後ろに1人の女子が続く。

「色んなところで噂しているみたいだが、今日からここのクラスに入る北野 遥きたの はるかだ」

遥がお辞儀をする。

クラスが騒めき始めた。それもそのはず。彼女が「可愛すぎる」のだ。

見た目はまるで天使。アイドルにいそうな可愛さだった。可愛いだけではなく、どこか落ち着きもある。しかし、陰キャという感じはせず、むしろ親しみやすそうだった。

「はじめまして。北野 遥といいます。遥と呼んでください。よろしくお願いします」

浅川が拓也の隣の席を指で指すと、遥はもう一度お辞儀をして、拓也の隣の席に移動した。


「よ、よろしく」


ぎこちない挨拶をすると、遥は笑顔で「よろしくね」と返してくれた。


あぁ、エロースよ。あなたは私を裏切らなかった。感謝します。


こんな青春ドラマみたいな展開が本当にあるのか。夢ではないかと思い、拓也は一限の間ずっと自分の手を爪で抓っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る