日常

第1話 神頼み

けたたましい目覚し時計の音で目が覚める。もう1つのデジタル時計の目覚し時計の音も消す。上杜 拓也かみもり たくやの朝はこのように騒がしく始まった。

一人暮らしを始めて一年は経ったが、未だに朝は弱い。遅刻不可避の朝を今まで何度迎えたことか。

しかし、今日は久しぶりに気持ちが高ぶっていた。転校生が来るらしい。

しかも、自分のクラスに来るという噂だ。加えて、それが女子という。

さらに加えるならば、拓也の隣の席になると言われているのだ。と言うのも、拓也の隣の席だった女子が親の転勤を事情に前の学期で他県の高校に転学したからだ。


「新学期に、女子の転校生。しかも、俺の隣。こんな漫画みたいなことあるんだな」


高揚する気持ちを抑えきれず、 鼻唄を唄いながら、トースターに食パンを突っ込む。傍から見れば童貞男子そのものである。無論、彼は童貞である。

パンを焼いている間に制服に着替え、冷蔵庫からマーガリンと牛乳を取り出す。いつもより1つ1つの動きが速いのはきっと気のせいだ。


全ての準備が整い、家を出る。

空は快晴。風も少しあり、なんだか青春映画のワンシーンのような天候だ。

自転車を駐輪場から出して、いつもの登校の道を急いだ。


あぁ、どうかエロースよ。我が身に良き出会いを。


そんな祈りを捧げていると、角から1人の女子高校生が飛び出してきた。

避けようとしたがもう遅かった。

ハンドルと相手の鞄がぶつかり、チャリ諸共道路に倒れた。もちろん、相手の女子高校生も倒れて…ない…

「ちょっとー、あんたどこ見てんの」

相手を見上げると、そこにはデブ。いや、ガタイのいい女子高校生がいた。


あぁ、エロースよ。こんな出会いは求めてなかったよ。


「ほんとすいません…ごめんなさい…どうか命だけは…」

拓也は頭をぺこぺこと下げ、すぐにその場を立ち去った。

学校に着くと、クラスは転校生の噂で持ちきりだった。


その噂の転校生が、ある1人の男子生徒の人生を大きく揺さぶることを、この時点ではまだ誰も知らない。

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