俺の同居人が堕天使なんだが。

一ノ瀬 もなか

プロローグ

もうすぐこの家を出て行くのか。そう思うと色々と込み上げるものが彼の中にはあった。

彼の家には謎の家訓がある。


『元服と共に家を出る』


元服と言っても年齢に幅はあるが、この家では高校に入学したら一人暮らしを始める。そして、独り立ちを若いうちからすることで、生きる力を育てるというものらしい。これは先祖代々行われてきたものである。

親戚で代々不動産業をやっているところがあり、そこで物件を安く借りて一人暮らしを開始することになっている。彼の父親もその親戚のところで家を安く借りて、高校生の時から一人暮らしをしていた。

一人暮らしの準備をしていると懐かしいものが色々と出てくる。

思い出を掘り起こす宝探しをしているような気分だった。



家を出る日。


彼は仏壇に手を合わせた。

「母さん。たまには帰ってくるようにするから」

彼の母親は彼が2歳の時に交通事故で亡くなった。それ以来、父が男手一つで彼を育て上げてきた。

父の車の助手席に乗り込み、擦れたシートベルトを締める。この車に乗ることもしばらくはなくなるのだろうか。

車中、特に話すこともなくラジオから流れる「今週のヒットソング」が車内の空気を支配していた。

「ありがとな」

彼が急に言うと、父は何も言わず深く頷いた。

車から降りたとき、父は彼に言った。

「強くなれ」

父はそう言うと、すぐに車を出した。


今日から一人暮らしが始まる。


そう、暮らしが。

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