三角関係

@kurayukime

三角関係

 カオリの髪は黒くて長かった。

 通った鼻筋、丸い唇、長い首――白い氷のような肌を、彼は満足げに見つめた。

「もう服を着てもいいかしら」

 彼女ははにかんでシャツを掴む、羞恥の視線を彼に注いだ。彼はにっこりとうなづいた。

「本当に君は美しいね」

「やめてください、あんまり褒めないで……」

「照れることはない。まあ、君のその小動物みたいな性格もかわいいんだがね」

 さて、とベッドからおりると彼はルームサービスにシャンパンを一つ頼む。

「それから、そうだな、キャビアでも適当に持ってきてくれ」


 思いの外はやくノックの音がした。

 高級なホテルは家具の設えだけではなくスタッフも高級なのだ。

 彼は満足気にほほえんで自らドアを開けにいった。

「ルームサービスだよ、このやろう!」

 思いきり開いたドアに彼は吹き飛ばされた。

 誰かがドアを蹴りつけたのだ。

 女だった。

 通った鼻筋、丸い唇、長い首――黒くて長い髪。カオリと瓜二つの……

「アヤ!」

 双子のアヤだった。

「一体ここで何してるんだよコラ、あたしの妹と!」

「お姉さん」

「ちょっとあんたは黙ってな。あんた浮気をしてたんだろう」

 カオリはムッとした顔をしてみせた。

「それってどういう意味ですか、お姉さん。浮気をしてたのはあなたなんじゃないですか。私とこの方がお付き合いしてるのに」

「何言ってんだ、あたしはこいつと結婚の約束までしてるんだ」

「私もです」

 二人は男をキッと睨みつけた。

「どちらと浮気をしていたんです」


 男は諦めたようにため息をついた。

「まあまあ、落ち着け。こうなったら言うけど、はっきり言ってどっちでもいい」

「こんな正反対の性格の姉妹をつかまえてどっちでもいい!?」

「どっちでもいいさ。君たちはそっくりだ。顔も身体も。俺にとって重要なのはそれだけさ。見た目が一番。性格? 心? 興味はないよ。どっちだっていい。くじ引きでもしようか?」

 双子は唖然として顔を見合わせた。

 男はやれやれと首を振った。

 姉妹は突然吹き出した。

「それなら話は簡単ね。二人とも条件が一緒なら、二人と付き合いましょう」

「それがいいな」

「なんだって? 今俺が言ったこと聞いてなかったのか? 君たちの人間性なんてどうだっていいと言ったんだぞ?」

「そうね。まったくクソ野郎だわ」

「でもいいの。私たち、あなたの顔も身体も、性格も、全く興味ないから。そんなのなんだっていいわ」

「あんたの財布にしか興味ないし」

「私たちにとって重要なのはそれだけなの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三角関係 @kurayukime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る